『sins』Part1
「暗いな...」
人通りのない静かな深夜、友人の由沙を連れて外出した。
行き先は川。近所の川。
暗すぎる深夜三時の道を二人で歩いていた。
辿り着くべき場所は、川。
普通の、その辺にあるような、ただの川に。
目的の川など、本当はどうでもいい。
本当は、どうでもいいのだ。
そんなことよりも気がかりなのは...
「黒乃、なんで今なの?明日でよくない〜?」
暗闇の中で、お互いの姿さえ虚ろな状態の今...
「ねー、聞いてんの〜??」
由沙.... こいつを見失ってしまわないか、
「おい〜、黒乃〜〜?」
あるいは、逃げてしまわないかが...
「....黒乃?」
最も気がかりだ....。
「ねえ黒乃、寝てるの?」
「寝てないよ。眠れないから、お前を呼んだんだ」
DARK SCENE Part1
もの静かな深夜の野外に、涼しげな風が一つ吹いた。
「な..なにそれ!!....へ、変なの.....」
恥じらいながら由沙は言う。
かなり動揺しているのか、声がかなり裏返っていた。
「夜中に大声張り上げるなよ」
「く、黒乃が変なこと言うからだろ!まったく....」
由沙は僅かに照れている。そんな気がした。
暗闇のせいで由沙の表情が分からないから、あえて顔を合わさないで話している。
「変なことなんて言ってないだろ。寝れないからお前を呼んで出掛けようと思っただけだし」
「こっちはいい感じに熟睡してたのに....携帯の電源切ってりゃよかったよ...!」
「ははは、ごめんな...急に呼んだりして」
「まあ...いいけど」
堤防に上がるための階段に差し掛かった
「そろそろ着くな」
一段づつ階段を上がる俺の足音と、
「黒乃!早く行くよ!」
二段抜かしで駆け上がっていく由沙の足音....
「待てって!」
静かな夜に、二人だけの音が鳴り響いた。
堤防を歩いていると、暗いながらも目的の川が見えた。
「涼香川、久しぶりに降りたよ」
「由沙、結構薄着だな....。夜中だって言うのに」
「明日で六月でしょ?この服装、妥当じゃない?」
「寒くないのか?」
「全然寒くないよ」
長袖、長ズボンな俺の服装とは対照的に由沙は半袖、半ズボンとったラフな格好をしていた。
「てか、今頃気付いたの?俺の服装...」
「あ...ああ。暗くて、さっきまで全く見えなくてだな」
「ずっと前見てたしねえ?」
俺は言葉に詰まった。
こんな深夜に呼び出しておいて、目も合わさずに歩いていたなんて...
自分を悔やんだ。
でも....
「いいよ。恥ずかしいんでしょ?分かるよ」
ギクッ・・・・
「は、恥ずかしくなんか....ないんだからなッ!」
「なぜにツンな口調!?」
なんとかその場は誤摩化せた。
そう。
恥ずかしかった。由沙と目を合わすのが。
一時間程前の深夜二時頃、いつものように眠れなかった。
だが、ただ眠れないだけではなく...
無性に寂しかった。
由沙に会いたかったんだ。
とても変な感情だった。
こみ上げてくるような...
このまま会わずに朝を迎えれば、死んでしまうような...
大げさだが、そんな感覚だった。
だけどおかしな感覚だ。
仮にこの感情がいわゆる恋愛感情だとすれば、
それは異性に対して向けられるはずのもの....
由沙は男だ。
女のような顔立ちや体格を除けば...
なんにせよ、こうして会えた。
会いたかったから会えた。
この感情のおかげだ。
よかった。
涼しげな風が一つ吹いて、俺は我に返った。
「黒乃...大丈夫....?」
「えっ....あ、ああ。」
「歩いてた時から何か変だよ?ぼーっとしてるっていうか....それだけじゃないんだよね」
「あ、う、うん。大丈夫だって!....あの、やっぱ、その...なんていうか.....その...」
「ん?何?」
由沙はまじまじと俺の顔を覗く。
夜に染まり黒々とした大きな瞳は、とても綺麗だ。
「やっぱり....俺...眠たいかな〜って...」
照れくさくて、頭を掻きながら俺は言った。
「なんだよ〜それ、寝れないって言ったの誰だよ!」
「うう...ゴメンナサイ.....」
「まあ...それはいいとして....ここに何しに来たわけ?」
「ん、まあ、星でも眺めに」
「ふーん。.....って、それだけ!?」
由沙が驚いたのも無理はない。
俺と由沙が住む住宅地辺りからこの涼香川まで約1キロある。
その距離を歩いて来た理由が『星を眺める』なんて、想像もしていなかっただろう。
「まあ、でもいいね。久しぶりだよ。夜の星空を眺めるのも」
「そうか。ならよかったな」
見上げた夜の空には星々が輝いていた。
その輝きは川の水面に映り、綺麗に光っている。
でもこの輝きが二人を照らすことはない。
ただその場限りの、在るべき場所で輝いているだけなんだ。
光があるのに、自分には届かない。
俺の一生を上手く抽象しているのかもしれない。
手を伸ばしても届かない...
川辺に近づいて行った由沙を眺めた———————————————
気がついたら、堤防の土手で横になって眠っていた。
俺はハッとなった。
「ゆ、由沙ッ!!?」
咄嗟に左右を確認し由沙の姿を探す。
しまった...帰ってしまったか...!?
俺の焦りが頂点に達した時...
「ゆ...由沙....?」
眠っていた。
俺と同じ様に、堤防の土手で。
よかった。
「....お前も眠ってたのか.......」
安心した。
それと同時に、本当の目的を思い出した。
由沙は、眠っている。丁度いい。
「さて.............」
小さいのに重かったそれを、ポケットから取り出す。
覚悟は最初からできてる。
何も躊躇うことはない。
ただ...
俺にとって、最愛の友人を傷つけるなんて、
考えられないけど....
もう、自分さえ、自分の身体さえ止めることができない。
俺が由沙を夜中に呼んだ理由....
それが由沙を殺すためなんて.....
受け入れたくない...
でも、もう止められないんだ。
「由沙、ごめん....」
眠った由沙の首元に重く冷たいそれを這わせる。
気の毒な程に細く弱々しい由沙の首は、夜でもその透き通るような白さが見て取れる。
少し開いた口元から漏れる由沙の寝息が、俺の頬を擦った。
「由沙.....」
かすかに潤った由沙の唇。
今は誰も見ていない。
眠った由沙の唇に俺は口づけを行おうとした。
自制心など、とうに消えて....
小さい唇に、口づけをしようとした、その時...
「ん....んん...黒乃.....?」
由沙は目を覚ましてしまった。
「ちょ、ちょっと!黒乃、何して...」
ぎゅっ・・・・・
即座に彼の口元を押さえる。
「むっ.......ぐっ..くっ.......」
驚いていたのか、手を振りほどくことも暴れることもなかった。
「由沙.....ごめんな.......」
もう、迷わない。
由沙..........
「さよなら」
バチッッッ———————————————
これで.......
「ぐあッ............!!」
俺の物だ....。
「.............黒乃.....どうし.........て...........」
波打った小さな体躯は、やがて身動き一つしなくなった。
右手の小型スタンガンを首元から離す......
また一つ、涼しげな風が吹いた。
to be continue...




