「無課金はゴミ」と追放された俺、HP1になる代わりに誰よりも速くなれる
皆さん、こんにちは。
しばらく連載をお休みしていた『KIMEN:GOU』ですが、心身ともに少し立て直すため、今回は短編的な作品を投稿してみます。
舞台は、現実と仮想の境界で、力や金だけが正義を決める世界。
主人公は、無課金で、初期装備だけで戦う少年。
彼の戦いは、単なるゲームの勝敗を超え、読者の皆さんにも「逆転の爽快感」を届けます。
今回の投稿は短編であり、アンケートを通して、皆さんの反応を知りたいと思っています。
どの展開が好まれるのか、どのキャラクターが心に残るのか──
ぜひ参加して、作品作りの参考にしてください。
短編でも、しっかりと熱量とカタルシスを込めました。
この短い冒険を楽しんでいただければ幸いです。
西暦2058年。
人類は現実よりも、仮想現実に価値を置く時代へと移行していた。
学校。就職。経済。恋愛。政治。
その全てが、世界最大級のフルダイブ型VRMMO〈ヴァルシェリオス〉を中心に回っている。
プレイヤー人口は八億人。
世界中の企業がスポンサーとして参入し、トッププレイヤーは国家級の広告価値を持ち、ランキング上位者は配信ひとつで数千万円を動かす。
勝者は神。
敗者は、ただのゴミ。
それが、この時代の常識だった。
無課金プレイヤーは蔑まれる。
金を積めない者は才能がないと断じられ、課金武器も、限定アバターも、レアスキルも持たない連中は、“底辺層”と呼ばれた。
学生たちの間でも同じだ。
ランキング上位者は英雄。
企業支援を受ける重課金者は王族。
そして、初期装備のまま戦う無課金プレイヤーは、笑い者だった。
雨が降っていた。
灰色の高層ビル群の間を、無数のホログラム広告が漂う。
空には企業ロゴ付きの輸送ドローンが飛び交い、地上では配信者たちの立体映像が巨大スクリーンに映し出されていた。
“本日のヴァルシェリオス総合ランキング更新!”
“第一位、白銀院レオ。限定神級装備・天星覇装シリーズを獲得!”
“第三位、天城アリア。累計スーパーチャット二億突破!”
“第七回ギルド対抗戦、優勝は《ルミノアクティス》!”
交差点のど真ん中。
信号待ちをしていた少年は、それを無表情で見上げていた。
黒崎神凪。
十七歳。
黒髪。
細身。
少し長めの前髪の隙間から覗く瞳は、冷えきった黒曜石のようだった。
制服の上から羽織った黒いフードジャケットは使い込まれ、イヤホンも片方しか機能していない。
周囲の学生たちが笑いながら最新デバイスを見せ合う中、神凪だけは古い携帯端末を片手に、ただ歩いていた。
彼の家は貧しかった。
父親はいない。
母親は長時間労働で身体を壊し、入退院を繰り返している。
妹はまだ小学生だ。
生活費を削っても、最新VR機器など買えるわけがない。
それでも神凪は、〈ヴァルシェリオス〉をやめなかった。
理由は単純だった。
この世界では、現実で持たざる者が逆転できる可能性が、そこにしかなかったからだ。
学園へ向かう途中、背後から笑い声が飛んだ。
「おい見ろよ、黒崎だ」
「まだあの初期装備でやってんのかよ」
「昨日の配信、見た? ギルド戦で一瞬で死んでたやつ」
「無課金のくせに前衛やろうとするの、マジで痛いよな」
神凪は振り返らない。
振り返ったところで、何も変わらない。
こういう連中は、誰かを見下すことでしか自分の価値を確認できない。
だから放っておけばいい。
だが。
「お前の妹、今度から課金者専用スクール行くんだっけ? 可哀想だよな。兄貴が貧乏人だと」
その一言だけは。
神凪の足を止めた。
空気が、冷えた。
神凪はゆっくりと振り返る。
そこには、同じ学園の男子生徒が三人立っていた。
中央にいるのは、金髪に染めた男。
企業支援を受ける重課金プレイヤー。
ギルド〈ルミノアクティス〉所属。
ランキング上位者の取り巻き。
神凪を見る目には、虫でも見るような色が浮かんでいた。
「何だよ。睨むなよ、底辺」
「お前みたいな無課金、ヴァルシェリオスじゃ一生勝てねぇよ」
「課金者が作ったルールの中で生きてんだからさ」
神凪は何も言わなかった。
言い返したところで、現実は変わらない。
強い者が正しい。
金を持つ者が勝つ。
そんなことは、嫌というほど理解していた。
だから神凪は、ただ拳を握り締める。
爪が食い込み、掌に血が滲む。
それでも痛みは感じなかった。
感じるのは、ただ一つ。
どうしようもないほどの、怒りだった。
◇
放課後。
神凪は家に帰ると、狭い部屋の隅に置かれたフルダイブ装置の前に座った。
型落ち。
中古。
何度も修理したせいで外装は傷だらけ。
最新機種のような高性能補助機能もない。
だが、それでも動く。
神凪はゆっくりと装置を装着した。
暗転。
電子音。
視界の奥で無数の光が弾ける。
そして。
漆黒の空に、巨大な蒼いリングが浮かぶ。
『Welcome to Valsherios』
その文字が浮かび上がった瞬間、神凪の身体は電脳世界へと落下した。
都市エリア《エクリマトリス》。
ネオンと広告が乱立する巨大都市。
プレイヤーたちが行き交い、空には輸送艇、遠くには企業ギルドの本拠地タワーが見える。
神凪のアバターは、現実とほぼ同じ姿だった。
黒い長コート。
細身の体。
腰には初期装備の銃『Duskreaver』。
背中には刀『影黎斬』。
どちらも課金装備のような派手さはない。
だが、神凪は知っていた。
この二つだけで勝つ。
勝って、這い上がる。
そのために、自分はここにいるのだと。
その時だった。
都市全域に、警報音が鳴り響いた。
赤い警告表示が空に展開される。
『緊急クエスト発生』
『カリュクス迷宮第三区画にて未確認ボス反応を確認』
『討伐推奨レベル:50以上』
『参加推奨:上位ギルド』
周囲がざわつく。
ランキング上位者たちの名前が飛び交う。
〈ルミノアクティス〉が動くらしい。
〈ノクティヴォルス〉も参加するらしい。
だが神凪は、その警告表示を見上げながら、静かに目を細めた。
レベル50以上推奨。
上位ギルド限定。
重課金者向け。
そんな言葉を見るたびに、胸の奥が焼ける。
なら。
その場所を、無課金で踏み潰したらどうなる。
神凪はコートのフードを被る。
黒い影が顔を覆う。
青い瞳だけが、暗闇の中で鋭く光った。
「……面白いじゃん」
その瞬間。
彼のHUDに、一通の招待通知が届いた。
送り主は、学園最強ギルド《ルミノアクティス》。
そしてメッセージには、こう書かれていた。
『荷物持ちとしてなら、お前も連れて行ってやるよ』
神凪は通知の文字をじっと見つめたまま、指先が震えた。
「荷物持ち……か」
冷たく響く言葉の裏に、無言の侮蔑が宿っていた。
だが同時に、胸の奥の何かが熱を帯びる。
無課金、初期装備、雑魚扱い——それら全てを踏みにじるチャンスが、目の前にあるのだ。
手元の端末をスワイプし、招待を受け入れる。
「……やるしかない」
画面が一瞬赤く光り、HUDに《ルミノアクティス:緊急クエスト招集》と表示される。
次の瞬間、都市の喧騒が視界から消え、耳に響く電子ノイズだけが残った。
◇
学園最上階にあるギルド専用ホール。
重課金者たちが集う空間は、現実世界でありながら仮想のオーラに包まれていた。
壁一面のホログラムには各ギルドメンバーのステータスと装備が映し出され、光る数値が天井まで積み上がっている。
その中心に立つ金髪の男——ギルドリーダーの視線が、神凪に向けられた。
「お前が……黒崎か」
低く、しかし鋭い声。
神凪は頭を下げず、視線を逸らさない。
フードの影に隠れた黒い瞳だけが、冷たく光った。
「荷物持ちとしてなら、使えるかもな」
声は淡い侮蔑を含む。だが神凪にはもう、それが刺激にしか聞こえない。
「……分かってます」
言葉は小さく、しかし力強かった。
この瞬間、神凪の全神経が覚醒する。
無課金でも、奴らを叩き潰せる——その確信が、全身を駆け巡った。
◇
移動。
《ルミノアクティス》のギルドメンバーに導かれ、神凪はカリュクス迷宮第三区画へ向かう。
都市エリア《エクリマトリス》を抜け、荒廃した電脳空間の門をくぐると、視界が一変した。
赤く歪むネオン、砕けた高層ビル、無数のデジタルノイズが渦巻く迷宮——その中心で、警告表示が空に浮かぶ。
『未確認ボス出現』
『討伐推奨レベル:50以上』
『参加推奨:上位ギルド』
重課金者たちの装備は煌びやかで圧倒的だ。
全身に金属光沢のアバターを纏い、武器は光線やエネルギー刃。
神凪の初期装備とは比べ物にならない。
しかし、彼の眼は鋭く、闇夜に光る青い瞳は誰よりも冷たい。
「荷物持ち……そういう位置付けで終わるつもりはない」
拳を握ると、爪が掌に食い込む。
痛みさえも、逆に覚醒を促す刺激に変わった。
◇
迷宮内部。
最初の雑魚モンスターが現れる。
巨大な四肢を持つデジタルクリーチャー、鋭い爪と歯を光らせ、空間を振動させる。
ギルドメンバーは派手な攻撃を繰り出す——爆発、閃光、衝撃波。
だが神凪は一歩引いて観察する。
「動き、パターン、タイミング……」
初期装備の銃『Duskreaver』と刀『影黎斬』。
二つの武器を、無駄のない最短距離で連携させる。
銃の閃光で敵の注意を逸らし、刀で接近、隙をついて斬撃——
雑魚が崩れる。無課金の少年が、初期装備で戦場を駆ける。
ギルドメンバーたちは一瞬、目を見張る。
「……なんだ、あいつ……」
嘲笑の代わりに、疑念が生まれる。
荷物持ちと思われた少年が、次々とモンスターを倒す——
その光景は、迷宮全体に波紋を広げた。
◇
神凪はフードを深く被り、青い瞳だけを光らせる。
背後で仲間たちの視線が集まる中、彼は静かに、次の一歩を踏み出す。
「……面白いじゃん」
心の中で、笑みが零れた。
無課金、初期装備——それでも、俺は勝つ。
迷宮の奥深くに待つ未確認ボス——
その存在さえも、今は楽しみでしかない。
そして、赤く脈打つ警告表示が視界に迫る。
次の瞬間、迷宮の空間が揺れ、巨大な影が現れる——
未確認ボス、カリュクス第三区画の魔王級、視界いっぱいにその圧倒的な姿。
神凪は拳を握り、全身に冷たい戦意を漲らせる。
「……来い」
青い瞳だけが、暗闇で鋭く光った。
神凪の目の前に広がる迷宮内部は、暗い光に包まれていた。
古びた石造りの床に反射する光は、まるで無数の刃のように煌めいている。
彼のHUDには、依然として赤く脈打つ警告文が浮かんでいた。
『討伐推奨レベル:50以上』
『上位ギルド参加推奨』
心臓の奥が締め付けられるように熱くなる。
これまで何度も、無力さに打ちのめされ、笑われてきた。
しかし今、神凪の胸には妙な予感が芽生えていた。
――この瞬間、何かが変わる。
彼が慎重に一歩を踏み出す。
古びた床が微かに軋む音が耳に届く。
すると、目の端で突然、落下する瓦礫の影。
無意識に身体が反応した。
避ける、ではない。回避する、ではない。
反射で、視界に入った全ての動きが、彼の意思を超えて身体に乗り移る。
瓦礫を避けた瞬間、HUDに小さく光る通知が浮かぶ。
『反射神経能力覚醒』
だが、同時に警告が飛び出した。
『HP残量:1』
『高反射モード使用中:全能力代償としてHP自動減少』
神凪は一瞬、目を見開く。
全身が火花のような緊張感に包まれ、掌には冷たい汗が滲む。
――これで死んだら、すべて終わりだ。
しかし、足は止まらなかった。
目の前の敵モンスター群が、一瞬の迷いもなく襲いかかってくる。
通常なら絶対に避けられない速度で、刺突と斬撃が飛んでくる。
だが神凪の身体は、それらを完璧にかわす。
敵の動きは一瞬、スローモーションのように見え、
その軌道に沿って身体をひねり、飛び、跳ね、剣を抜かずとも回避する。
黒いコートの裾が翻り、雨粒が飛ぶ。
HPは1。たった1。
次の一撃で終わる危険。
だが、頭も心も、時間も感覚も、全てが異次元の速さで回転する。
理性は消え、残るは――純粋な反射だけ。
身体が生きるために、動く。
「……面白いじゃん」
独り言は、雨と轟く足音と、跳ねる瓦礫の中でかすかに響いた。
その瞬間、迷宮奥の暗闇から、巨大な影が立ち上がる。
ボスモンスター。
レベル50以上推奨の文字が脳裏で点滅する。
神凪はフードを深く被り、刀『影黎斬』を背中から滑らせる。
銃『Duskreaver』は腰に収めたまま、視界の端で敵の動きを追う。
青い瞳だけが、暗闇の中で光る。
身体が反射に任せて、わずかに前傾姿勢をとった。
そして、心の奥で一つ、決意が燃え上がる。
――無課金でも、底辺でも、俺は這い上がる。
――誰よりも速く、誰よりも強く、たったHP1でも――勝つ。
迷宮の奥、赤く光る警告文字と、ボスの巨大な影。
その狭間で、神凪の身体は無意識の覚醒と共に、一歩、踏み出した。
暗闇に溶け込む黒い影、雨粒を蹴散らす黒衣、そして光る青の瞳。
読者の目には、まだ見えないが、
この少年の運命は、今、静かに、大きく動き出した――。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回の作品は、連載中の長編とは違い、短く凝縮した形でお届けしました。
無課金の主人公がどう戦い、どう這い上がるか――その瞬間瞬間に、全力で魂を込めています。
そして、皆さんの声を知りたいのです。
アンケートに答えて、どのキャラクターや展開が好ましかったか教えてください。
その結果は、今後の作品に反映させていきます。
この作品を楽しんでもらい、
読者の皆さんと一緒に、次の冒険を形作っていければと思います。
無課金でも、勝利できる──その力を、ぜひ感じてください。




