第8話
「……何者だ」
低く抑えられた声が、首元から直接響いた。
刃はわずかに触れているだけだが、そこに込められた殺気は疑いようがない。
「なぜ、俺を探っていた」
半蔵は多くを語らない。
ただ必要な言葉だけを落とす。その沈黙の重さが、質問以上にラビィを縛りつけていた。
ただの町娘に見える存在が、自分という“影”を追っていた。
それだけで疑うには十分だった。
敵対組織 甲賀のくノ一
そう思われても無理はない
ラビィの指先が、わずかに震える。
それでも、逃げなかった。逃げられないのではない。ここで嘘をつけば、もっと深く斬り込まれると、本能で分かっていた。
「……わたしは、敵じゃありません」
声は小さかったが、言葉ははっきりしていた。
戦や情報収集を目的としていないこと。誰かの命を奪うために来たのではないこと。
ラビィは、知っていることを飾らず、正直に語った。
半蔵は黙って聞いていた。
呼吸の乱れも、動揺も見せない。
ただ、刃の角度だけが、ほんの僅かに変わった。
「……甲賀の者ではない」
忍刀が、すっと引かれる。
闇に溶けていた緊張が、ようやく解けた。
「ならば、真の目的は何だ」
改めて向けられた問い。
ラビィは一度息を吸い、言葉を選びながら答えた。
「あなたの“在り方”を、″写し″として持ち帰りたいんです。
戦い方じゃない。生き方や、技や、その存在そのものを……」
しばしの沈黙。
やがて、半蔵は小さく息を吐いた。
「忍びの技は教えぬ」
それだけを告げてから、続ける。
「だが……その“写し”とか言う物を持ち帰るというのなら、止めはせぬ」
ラビィの胸が、大きく跳ねた。
データ抽出の承諾。これ以上の言葉はいらなかった。
抽出は静かに行われた。
光も音も最小限。
半蔵は身じろぎ一つせず、ただ影のようにそこに在った。
「終わりだ。もう、行くぞ…」
そう言い残し、半蔵は踵を返す。
次の瞬間、そこには誰もいなかった。
風が揺れ、闇が元の形に戻るだけだ。
「す…すごい……」
ラビィは思わず声を上げた。
自分の聴力でも気付けなかった存在。その能力を持つ人物のデータを、確かに手に入れたのだ。
「やった〜!!」
喜びが込み上げ、思わず両手を上げる。
その瞬間――手首に違和感。
「……え?」
いつの間にか、忍びの衣が、きつくも緩くもなく巻かれていた。
「いつの間に!?」
驚きで目を見開くラビィの前で、闇は何事もなかったかのように静まり返っていた。
影は、最後まで影のままだった。
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