第86話
ヴラドとコロンブスは、ウルとロウを相手に必死の応戦を続けていた。
二体の獣は互いに位置を入れ替えながら間合いを詰め、牙と爪で休む間もなく襲いかかってくる。
「嬢ちゃん、悪ぃ! この犬っころ達の相手で精一杯だ!」
コロンブスが叫ぶ。その声の裏で、ラビィとリーもまた苦戦を強いられていた。
オウの滑空からの急襲は速く、鋭く、まだ慣れない二人に容赦なく襲いかかる。
回避するのが精一杯で、ユイの元へ踏み込む余裕がない。
その一瞬を、ユイは見逃さなかった。
戦場全体を冷静に見渡し、
ウルとロウが前に出たわずかな死角。
そこへ迷いなく攻撃を放つ。
「危ないヴラド!」
コロンブスが叫び、同時に身体を投げ出した。
衝撃。
視界を覆う光。
そして次の瞬間、そこにコロンブスの姿はなかった。
「コロンブスーッ!!」
ヴラドの叫びが戦場に響く。
返事はない。
ただ転送エリアへ送られた痕跡だけが残っていた。
その瞬間、ヴラドの表情が変わった。
怒りでも悲しみでもない、静かな覚悟。防御を捨て、剣を構え直す。
ウルとロウが同時に飛びかかる。牙がヴラドの身体に深く食い込み、血飛沫が舞う。
だがヴラドは、ニヤリと笑った。
次の瞬間、ヴラドの身体は光に包まれ、消失した。
――しかし。
ヴラドが消えたその場に残されたウルとロウの身体には、深々と剣が突き立てられていた。二体は短く呻き、そのまま光に包まれ、転送エリアへと消えていく。
戦場には一瞬の静寂が落ちた。
次の瞬間、その静寂を切り裂くようにオウが大きく翼を広げ、上空へと舞い上がる。
ラビィやリーの間合いを完全に外した高度だ。
鋭い滑空。
風を裂き、地面すれすれをかすめるようにして襲いかかり、再び空へと戻る。
それを何度も繰り返す。
「っ……!」
避けるたびに、ラビィとリーは少しずつリングの隅へと追いやられていく。
逃げ場は確実に狭まっていた。
その時、リーの目が一瞬鋭く光った。
「なるほど……」
リーはラビィの耳元へ身を寄せ、短く何かを囁く。
ラビィは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに力強く頷いた。
上空のオウが吠えるように鳴く。
次で終わらせる。
決意の様な眼光を携え上空へと舞う。
さらに高く、高く舞い上がる。
その影が小さくなるほどの高度。
その瞬間だった。
「フンッ!」
リーが渾身の力を込めて地を蹴る。信じられない跳躍。
だが、それでもオウには届かない。
「兎の跳躍!」
後を追うようにラビィが跳ぶ。
だが、まだ足りない。
空中で、ラビィはリーの背中に着地した。
一瞬の静止。
「これで終わりだよ、オウ! 兎の跳躍――!」
ラビィがリーの背中を強く蹴る。
その反動でリーの身体は場外へと落ちていく。
だがラビィは振り返らない。
「ありがとう……リーさん。トドメだー!」
ラビィの身体はさらに高く、一直線にオウへと向かう。
「クキャー!」
断末魔と共に、オウの姿は空中で消失した。
ラビィはそのまま地面へと着地する。
視線の先には、ただ一人残ったユイ。
「ユイちゃん、最後だよ!」
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