第7話
夜は深く、戦国の闇は月光すら呑み込むように静まり返っていた。
ラビィは林の縁に立ち、周囲に意識を巡らせていた。既に衣装も姿も、この時代に溶け込むよう調整されている。
だが、その内側にある感覚だけは誤魔化せない。
(……いない)
耳を澄ます。
人の足音、衣擦れ、呼吸の乱れ
それらは人型へ変化した後も、ラビィが最も信頼している感覚だった。
だが、聞こえない。虫の羽音すら拾えるはずの聴力が、何ひとつ捉えられない。
伊賀忍衆頭領。
闇に忍び、影に溶け、生きてなお 名を残す者。容易に姿を現さぬのは分かっていた。
それでも、ここまで痕跡すら掴めないとは思っていなかった。
(やっぱり……甘かったかな)
情報を集め、噂を辿り、この地まで来た。それでも結果は空振りだ。
ラビィは小さく息を吐き、空を見上げる。
月は雲に隠れ、光はほとんど届いていない。
「ふぅ……一旦、戻ろう」
今回は縁がなかった。
そう自分に言い聞かせ、未来への帰還装置を起動しようとした、その瞬間だった。
首元に、冷たい感触。
一切の気配もなく、音もなく、ただ“そこに在った”かのように忍刀が添えられている。
刃は浅く触れるだけで、だが一歩でも動けば命を奪える距離だった。
「何が目的だ」
低く、感情を抑えた声。
男とも女とも断じ難い、だが確実に“獲物を仕留める側”の声だった。
ラビィの全身が強張る。
気付かなかった。近付かれたことも、狙われていたことも。
自分の聴力が、完全に無力化されたという事実だけが、遅れて理解として押し寄せてくる。
影は語らず、刃だけが答えを待っている。
闇の中、主導権は完全に相手のものだった。
ラビィはゆっくりと息を吸い、震えを抑えながら、その問いに向き合おうとした。
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