第76話
教会の前。
夜霧の中で、ラストは一同を見渡した。
その表情には、もはや曖昧さは無い。
「それでは――作戦を説明します」
ラストの声が、静かに響く。
「まず大前提として。
メンバーを連れたままの突入は行いません」
一瞬、ざわりと空気が揺れた。
「メンバーを伴った状態での直接戦闘は、
強制ログアウト――つまり“消失”の危険性が高い」
ラビィは思わず、肩のドラキュを見た。
「ですので、メンバーは全員サポートに徹してもらいます。
突入するのは、あくまでプレイヤーのみ」
そこで一度、言葉を切る。
「ただし」
ラストは続けた。
「限定メンバーについては例外です。
彼らはプレイヤーと同じ扱いで、消失の危険はありません。
連れて行っても問題はないです。運営の私が言うので安心して下さい」
ドラキュ
虎徹。
カイザー。
ルード。
四体の幼い存在が、まるで理解しているかのように静かに佇んでいた。
「次に、皆さんにお願いしたいこと」
ラストの視線が鋭くなる。
「私がカリスにトドメを刺すまで、
外部からの介入を全て警戒・撃退してください」
沈黙。
「相手は、元運営であり、現プレイヤーです。
躊躇すれば――こちらがやられる」
はっきりと、言い切った。
「相手がプレイヤーであっても、
倒すことをためらわないでください」
誰も口を開かない。
だが、誰も目を逸らさなかった。
「そして……」
ラストは、最後の言葉を置く。
「万が一、私がカリスに遅れを取った場合」
一瞬、空気が凍る。
「誰でもいい。
必ず、カリスを打ち倒してください」
それは、作戦というより覚悟だった。
「以上です」
短い沈黙の後、佐助が小さく呟いた。
「雑な作戦だな……」
「けど分かりやすくて良い」
その言葉に、ラストは微かに笑った。
「ええ。
だからこそ、成功させましょう」
突入の準備が整い、プレイヤーたちが動き出そうとした、その時。
「ちょっと、いいかな?」
柔らかな声。
ファーブルだった。
彼は、いつもの穏やかな笑顔のまま、手に持っていた小袋を掲げる。
「きっと、何かの役に立つと思うんだ」
そう言って、袋を開け――
ふわり。
白い粉が、プレイヤーたちに振りかけられた。
「うわっ!?」
「な、なんだこの臭い!?」
鼻を突く、強烈な異臭。
思わず顔をしかめる一同に、ファーブルは楽しそうに笑った。
「フフフッ。大丈夫、大丈夫」
「全然大丈夫じゃないです!」
ラビィたちの悲鳴をよそに、ファーブルは続ける。
「必ずみんなの役に立つ。そうおまじないが込められてる粉さ」
その言葉に、次第に皆の表情が変わっていく。
――頼れる。
この人は、間違いなく。
ラビィは静かに息を吸った。
胸の奥で、何かが燃えている。
孔明の覚悟。
仲間たちの意思。
そして、自分の決意。
「……行きましょう」
ラビィの言葉に、全員が頷いた。
教会の扉が、ゆっくりと開く。
闇の向こうに待つのは――
すべての因縁の、終着点。
いざ、最終決戦の場へ。
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