第74話
「私は……クロノス・レガリアの運営者の一人です」
ラストの口から放たれたその一言に、拠点の空気が凍りついた。
誰もが言葉を失い、ただ彼を見つめている。
沈黙を破ったのは、ラスト自身だった。
「とは言っても、皆さんが想像しているような特別な権限は持ち合わせてはいませんよ」
ラストは肩をすくめ、淡々と続ける。
「私が持っている権限は、基本的には一プレイヤーと同等です。誰かを強制的に消失させたり、ゲームルールを書き換えたり……そういったことは出来ません」
ラビィは、思わず問いかける。
「じゃあ……どうして、そこまでMKを追っているんですか」
ラストは一瞬、視線を落とした。
「運営する側の人間として、です。MKという行為は、このゲームそのものを壊しかねない。プレイヤーの努力も、思い出も、全部踏みにじる行為です」
そして静かに言った。
「だから私は、表に出られない立場で情報を集め、こうして動いてきました」
ラストは、孔明の残したメモデータを再び開く。
「……そして、この情報」
指でなぞるようにしながら、続ける。
「この容姿、話し方、思考の癖。間違いありません。この首謀者――“カリス”と名乗っている男は、以前、運営側の人間でした」
一行の間に、ざわりとした動揺が走る。
「クロノス・レガリアの立ち上げ期に深く関わっていた人物です。優秀でしたが……欲に溺れた」
ラストの声は冷たくなった。
「ゲーム内で不正行為が出来る仕組みを裏で組み込み、利益を得ようとした。それが発覚し、退社へと追い込まれた男です」
「……逆恨み、ってことですか」
ジャンヌが呟いた。
「ええ。自分を追い出した世界への復讐です」
ラストははっきりと言い切る。
「ゲームを壊すこと。サービスを破綻させること。そのためにMKという行為を選んだのでしょう」
その言葉を聞いた瞬間、ラビィの胸の奥で、静かな怒りが燃え上がった。
逆恨み。
その身勝手な感情のために、孔明はもう戻らない。
仲間たちも、同じ想いだった。
誰も口にしないが、怒りと悔しさが、確かにそこにあった。
ラビィは一歩前に出る。
「ラストさん」
その声は震えていなかった。
「私、どうしてもMKという行為を終わらせたいです。孔明さんのためにも、これ以上誰かが消えるのを止めるためにも」
ラストを真っ直ぐに見据える。
「そのためなら、なんでも協力します」
ラストは、その覚悟を確かめるようにラビィを見つめ、ゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます。ただし――少し準備が必要です」
彼は踵を返し、拠点の出口へと向かう。
「決行日や内容は、こちらで調整します。その日まで、どうか気を抜かないでください」
扉の前で、振り返り、静かに言った。
「必ず終わらせましょう。MKも、カリスという男も」
そう告げて、ラストは拠点を後にした。
残されたラビィ一行は、無言のまま顔を見合わせる。
失ったものは大きい。
だが、もう立ち止まらない。
MKを壊滅させる。
その決意だけが、はっきりと胸に刻まれていた。
そして、時は――決行の日へと進んでいく。
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