第73話
泣き崩れたラビィの前で、一行は誰一人として言葉を発せずに立ち尽くしていた。
声をかけることも、手を伸ばすことも出来ず、ただ重い沈黙だけが拠点の部屋を満たしている。
ファーブルを除いては。
ファーブルはゆっくりとラビィの側に歩み寄り、そっと肩に手を置いた。
そして、無理に立たせるでもなく、孔明がそうしていたように、静かに、優しく語りかける。
「ラビィくん」
その声は不思議と落ち着いていて、どこか懐かしさすらあった。
「君はね、孔明くんから“鍵”を受け取ったんだ。首謀者へと繋がる鍵を……命を賭して託された覚悟を」
ラビィの胸が、どくんと脈打つ。
「孔明くんは、君に未来を残した。ここで立ち止まっていて、本当にいいのかい?」
その言葉に、ラビィは震える指で涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。
そして、仲間たちを一人ひとり見渡す。
その時だった。
アイテム欄の隅で、今まで見覚えのない一つのデータが、淡く光っていることに気づく。
ラビィはそれを開いた。
そこには、短い音声と、一枚のメモデータが残されていた。
『ラビィさん。最後までご一緒出来ず、申し訳ありません』
孔明の声だった。
あまりにも穏やかで、優しくて、胸が締め付けられる。
『きっと今、泣いておられるのでしょう。しかし、これだけは伝えておきます。私は後悔しておりません』
ラビィの視界が、再び滲む。
『貴女を助けること。それが私の役目でした。だから……前を向いてください』
音声はそこで終わり、メモの内容が表示される。
そこには、謝罪と感謝の言葉に続き、
MK首謀者と思われる男の容姿、話し方、性格、思考の癖までが、異様なほど細かく書き綴られていた。
まるで、ずっと前からその人物を知っていたかのように。
最後の一文。
『ラストを頼りなさい。彼は信用に値する人物です』
涙を今一度拭い
ラビィは、迷わず通信端末を操作した。
ラストへの連絡。
返事は、すぐに届いた。
『了解しました。今から向かいます』
数刻後。
拠点の扉が開き、ラストが姿を現す。
ラビィは無言で孔明のメモデータを差し出した。
それを読み進めたラストは、途中で動きを止め、そっと目元を押さえた。
そして、深く一度、息を吐いてから口を開く。
「ラビィさん……このような結果になってしまい、本当に申し訳ない」
その声には、いつもの軽さも、胡散臭さも無かった。
「ですが、孔明様の意思。このラスト、必ず、必ずやMKの壊滅へと繋げてみせます」
その表情は、以前見た怪しげな男ではない。
孔明が信用に値すると言った、そのままの顔だった。
そしてラストは、静かに、しかしはっきりと告げる。
「私は……クロノス・レガリアの運営者の一人です」
その言葉に、ラビィたちは息を呑んだ。
空気が、一変する。
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