第58話
学校から帰宅したラビィは、制服を脱ぐと自室に戻り、いつものようにゲーム端末へ手を伸ばした。
今日も色々あったな、そんな事を考えながらベットへ横になろうとして
ふと、動きを止める。
部屋の隅に置かれた観葉植物。
朝は気づかなかったが、土が少し乾いている。
「あ……水、あげなきゃ」
ラビィは端末を置き、じょうろを手に取って植物に水を注いだ。
葉に雫が落ち、静かに光を反射する。
「よし」
さぁログイン、と再び端末を手にした瞬間、ラビィの中で何かが引っかかった。
「あれ……?」
そのまま立ち尽くし、植物を見つめる。
「植物がメンバーだった場合って……どうやって“消失”させられるの?」
昨日のラストの言葉が、嫌な形で頭をよぎる。
ナイフで切られたら?
剣で斬られたら?
炎で燃やされたら?
それとも……水をもらえず枯れてしまったら?
「……分からない」
考えれば考えるほど、答えが見えない。
人間や動物と違って、“生きている”と“死んでいる”の境界が曖昧すぎる。
「良く分かんないや……ゲーム内で聞こう」
ラビィは気持ちを切り替え、端末を手に取りベットへ横になった。
拠点にログインすると、すでにメンバーたちは揃っていた。
ラビィは今日学校で聞いた、自分がMKだと言っていたプレイヤーの会話、そしてユイから言われた「今できる対策」を簡単に共有する。
皆が頷く中、ラビィは少しだけ言いづらそうに続けた。
「それで……ログインする前に、観葉植物に水をあげてて……ちょっと疑問に思った事があって」
視線が集まる。
「もし、植物をメンバーにしていた場合……消失条件って、何だと思う?」
一瞬の沈黙のあと、コロンブスが腕を組んで答えた。
「根っこごと引きちぎられた時点じゃねぇか?」
「でも、それだと……」
ジャンヌが静かに首を振る。
「切り花は、最初から根がありません。それならメンバーに出来ないはずです。でも、昨夜のあの方は切り花を持っていました」
「……確かに」
ヴラドも顎に手を当て、低く唸る。
「燃やせばどうだ。あるいは枯れさせれば……消失する可能性は高いだろう」
「でも、それも“消失”なのかどうか……」
誰もはっきりとした答えを出せない。
植物という存在の曖昧さが、議論を堂々巡りにさせていた。
重い空気の中
孔明が、静かに口を開いた。
「……皆さん、“消失”を結果として考えていませんか」
全員が孔明を見る。
「このゲームにおける消失とは、破壊や死ではありません。役割を果たせなくなった瞬間だと私は考えます」
ラビィは息を呑んだ。
「植物であれば……枯れた瞬間ではない。切られた瞬間でもない。
“その存在が、メンバーとして機能しなくなった瞬間”そこが消失の定義ではないでしょうか」
部屋が、しんと静まり返る。
ラビィは無意識に、現実世界の観葉植物を思い浮かべていた。
水をもらい、光を浴び、そこに“居続ける”こと。
それ自体が、存在の証明なのだとしたら……
「……なるほど」
小さく呟いたラビィの胸に、また一つ、重い現実が積み重なった。
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