第51話
ほら穴でのアイテム回収クエストを終えてからというもの、ラビィ一行は比較的穏やかな日々を送っていた。
危険度の高い依頼は避けつつ、着実に経験を積み、確実に成果を重ねていく。
そんな、少し肩の力を抜いた冒険の連続だった。
ある日、ギルドの掲示板前で依頼を眺めていたラビィの背後から、不意に声がかかる。
「ラビィ、活躍してるみたいだな」
振り返った先に立っていたのは、落ち着いた雰囲気の青年だった。
その足元には、白い毛並みの小さな虎の子がちょこんと座っている。
「佐助さん!お元気でしたか?」
先のレイドクエストで共に戦った青年。
虎の子は周囲をきょろきょろと見回したあと、ラビィの足元にいたドラキュを見つけると、興味深そうに近づいていった。
「キュ?」
ドラキュが首を傾げると、虎の子は前脚を伸ばしてドラキュに飛びかかった。
次の瞬間、二匹はじゃれ合うように転がり始めた。
「おいおい、あんまり虎徹をいじめないでくれよ」
苦笑しながら言う佐助に、ラビィも思わず笑みをこぼす。
「ラビィ、少し……話いいか?」
その言葉に、ラビィは一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。
「話……ですか?」
佐助は小さく頷き、ギルド内に設けられた個室の方を指差す。
「ここじゃ人目もある。向こうでいいか」
ラビィは仲間たちに視線を向け、頷きを返す。
ドラキュと虎徹は相変わらずじゃれ合いながら、自然とその後をついてきた。
扉が閉まり、外の喧騒が遠のいた静かな空間で、佐助は表情を引き締めた。
「最近……MKが、かなり活発になってきてる」
その言葉に、室内の空気がわずかに重くなる。
「強制ログアウトになったプレイヤーが、もう結構な数だ。……そのせいで、ゲーム自体を辞めちまったやつもいる」
ラビィは息を呑んだ。
MKの噂は、確かに耳にはしていた。
しかし、それがここまでの事態になっているとは思っていなかった。
「このまま増えすぎると……普通に遊ぶどころじゃなくなるかもしれない」
佐助の声は静かだったが、その言葉は重く胸に残った。
「……そう、なんですね」
ラビィはそう答えることしかできなかった。
個室の隅では、ドラキュと虎徹が何事もないようにじゃれ合っている。
その光景が、かえって現実との落差を際立たせる。
しばらく話し合うラビィと佐助。
「また、何か分かったら連絡する」
そう言って佐助は立ち上がり、虎徹を呼び寄せる。
名残惜しそうにドラキュが小さく鳴くと、虎徹も一度だけ振り返った。
「じゃあな、ラビィ」
その背中を見送りながら、ラビィは胸の奥に芽生えた小さな不安を、まだ言葉にできずにいた。
静かな日常の裏で、確かに何かが動き始めている。
その兆しだけが、確実に残されていた。
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