第4話
石畳が、靴底に硬く響いた。
湿った空気に、鉄と革、そして焦げた油の匂いが混じっている。
ラビィは、すでにこの時代に溶け込む姿をしていた。
粗末な外套、編み上げの靴。
長い耳は目立たぬ形へと補正され、鏡に映るのは、旅慣れぬ少女の姿だけだ。
(……ここは、重い)
月面都市の整然とした静けさとは違う。
人々の歩みは早く、視線は地面に落ち、笑い声は短い。
戦が、日常のすぐ隣にある場所。
目的の人物を探すため、ラビィはあえて人の集まる方へ足を向けた。
市場。
兵舎の近く。
酒と汗の匂いが漂う一角。
耳を澄ませるわけではない。
人型に変化してなお、ウサギ型生命体としての聴力は失われていなかった。
「……また負けたってよ」
「だが、あの娘が来てからは...」
「神の声を聞いたとか、聞かないとか」
言葉の断片が、風に混じって届く。
兵士たちの噂話だった。
鎧を半ば脱ぎ、酒杯を傾けながら、彼らは低い声で語る。
「女だぞ?」
「剣を振るうらしい」
「奇跡だと騒ぐ者もいるが……」
ラビィは足を止めなかった。
ただ、胸の奥が、静かに波打つ。
(……近い)
孔明の時とは違う。
知を求める旅ではない。
信じることそのものが、戦いになっている気配。
噂を聞けば聞くほど、会うのが怖くなった。
もし、その信念が誰にも共有できないものであったなら。
駐屯地の脇道へ入った時だった。
人目につかぬ場所、木柵の影。
そこに、ひとりの女性が座り込んでいた。
鎧を着たまま。
泥と血の跡が残り、肩はわずかに落ちている。
兜は外され、短く切り揃えられた髪が、汗に濡れて頬に張りついていた。
疲弊。
その二文字が、姿そのものから伝わってくる。
それでも、背筋は崩れていない。
剣は、手の届く位置に置かれている。
「あっ!」
ラビィは、思わず足を止めた。
この人だ、と。
その女性の醸し出す雰囲気から直感的に感じ取った。
女性は顔を上げなかった。
だが、空気が揺れた。
視線が、確かに交差した気がした。
風が吹く。
祈りにも、叫びにも似た沈黙が、その場を満たす。
ラビィは、まだ声をかけない。
ただ、その姿から目を離せずにいた。
出会ってしまった。
そう理解するには、十分だった。
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