表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/122

第32話

ロンドンの石畳を踏みしめた感覚が、まだ足に残っている。

ヴラド公の居た場所や時代を覚えていたラビィは、その足で遡行を行った。


視界が切り替わり、冷たい風が頬を打つ。

十五世紀、ワラキア公国。

見上げた先には、威圧するようにそびえ立つ城があった。


「相変わらず大きいお城……」


ラビィは一度深呼吸し、手にした一冊を握り直す。

ブラム・ストーカー本人の名が記された、吸血鬼ドラキュラ。

それを胸に、城門へと歩み寄り、扉を叩いた。


ほどなくして開いた扉の向こうに立っていたのは、兵ではなかった。


「待っていたぞ」


長い階段を下りてくる男。

鋭い眼差しと、どこか楽しげな笑み。


ヴラド公本人だった。


「さあ、入りたまえ」


導かれるまま城内へ足を踏み入れる。

静まり返った広間で、ヴラドはすぐに本題を切り出した。


「それで?例の“吸血鬼”の書物とは、どれだ」


ラビィは一瞬だけためらい、真剣な表情で言った。


「あの……この本の事は絶対に、他言無用でお願いしますよ」


そう告げて、そっと一冊の本を差し出す。


ヴラドはそれを受け取り、椅子に腰掛けると、表紙を眺め、ゆっくりとページをめくり始めた。

ぱら、ぱら、と乾いた音が広間に響く。


しばらくしても、声は掛からない。


「……あの」


ラビィが恐る恐る話しかけた瞬間。


「うるさい」


即答だった。


視線は本から一切外れず、ヴラドの口元には明らかな笑みが浮かんでいる。


もう一度、ラビィは声をかける。


「ヴラド公、その……」


「今、面白くなってきたところだ」


心底面倒くさそうに、しかし楽しげに言い放つ。


「データ抽出とやらはさせてやる。

だから、用が済んだら早く帰りたまえ」


「……はい」


呆れたような顔で、ラビィは端末を操作する。


――データ抽出、完了。


最低限の礼を述べ、部屋を出ようとした、その時。


「待て」


ヴラドは片手で制し、机の引き出しから小さな品を取り出した。


「礼だ。実に、愉快な物をくれた」


差し出されたのは、ヴラド家の家紋の刻まれた印章指輪だった。


受け取るラビィを一瞥(いちべつ)すると、ヴラドは再び本に視線を落とす。


「でわな」


それ以上、言葉はなかった。


城を後にしながら、ラビィは小さく肩をすくめる。


「……やれやれ」


帰還処理を終え、自室に戻ったラビィは、ベッドに腰を下ろし、大きく息を吐いた。


「はぁ……今回はどっと疲れたよ」


そう言うラビィの手の中には、ヴラド家の家紋が静かに光っていた。

ここまでお読み下さり本当にありがとうございます!


更新日時は毎日致します。

平日:7時頃、12時頃、20時頃の1日3話

土、日、祝:12時頃、16時頃、20時頃の1日3話

で行います。


少しでも

面白かった。続きを読んでみたい。頑張って。と思われた方、よろしければブックマークもお願いします!

感想などもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ