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第30話

久しぶりの過去遡行だった。

光に包まれる感覚は何度経験しても慣れないが、今回はそこに、懐かしさと同時に小さな緊張が混じっていた。


「久しぶりだな、この感覚……」


ラビィは小さく息を整える。


視界が開けた瞬間、冷たい風が頬を撫でた。

十五世紀、ワラキア公国

石造りの街並みと、どこか重苦しい空気が肌にまとわりつく。


すでに姿は変化済みだ。

この時代に溶け込む簡素な装いに身を包み、ラビィはゆっくりと前を見上げた。


そこにあったのは、巨大な城。

黒ずんだ石壁が空へと突き刺さるようにそびえ立ち、まるで周囲を威圧しているかのようだった。


近くにいた人々が、ひそひそと声を潜めて囁いている。


「悪魔の住む城だ」

「近づかない方がいい」


その言葉を聞いても、ラビィの足は止まらなかった。

むしろ、確信に近いものが胸に灯る。


城門の前で名を告げると、兵たちは露骨に警戒の色を浮かべた。

突然現れた見知らぬ少女。

しかも用件は「城主に会いたい」というのだから無理もない。


「構わん!通せ」


その時、低くよく通る声が響いた。


長い階段を、ひとりの男が降りてくる。

鋭い眼差し、引き締まった顔立ち、そして纏う空気は張りつめた刃のようだった。


「話を聞こう」


兵たちは戸惑いながらも一斉に道を開ける。

男はラビィの前に立ち、じっとその顔を見つめた。


「何者だ」


「未来から来た者です」


即答だった。

冗談でも冗長でもない、まっすぐな言葉。


一瞬、周囲の空気が凍る。

だが男は怒りも嘲笑も見せず、むしろ興味深そうに口角をわずかに上げた。


「ふっ……面白い」


城主自らの判断で、ラビィは城内へと招かれた。


重厚な扉の奥、簡素だが威厳のある広間で、ラビィはついに名を告げる。


「あなたは、ヴラド・ドラクレア公ですね?」


「いかにも、我の名はヴラド・ドラクレアであるが、それがどうした」


「あなたは後の世に“吸血鬼”のモデルとして創作書物として書かれ語られる人物です」


その言葉に、ヴラドの眉がわずかに動いた。


「吸血鬼、だと?」


「はい。未来では、そう呼ばれています。残虐さと恐怖の象徴として……ですが」


説明を続けるラビィを、ヴラドは黙って聞いていた。

やがて、低く笑う。


「はは……ドラキュラ悪くない名だ」


その反応に、ラビィは思わず目を瞬かせた。

規律を重んじ、公平を尊ぶと記録にある人物とは思えない軽さだった。


「未来人という話、信じるのかと聞きたそうだな」


ヴラドはラビィを見据える。


「理屈よりも直感だ。お前は嘘をついていない」


その一言で、ラビィの胸にあった緊張が少しだけほどけた。


やがて、ラビィは訪れた本当の目的を告げる。

データ抽出の依頼。未来の世界で共に戦ってほしいという願い。


ヴラドは少し考えた後、あっさりとうなずいた。


「構わん」


あまりにも即答だった。


「ただし条件がある」


「条件……ですか?」


「その“吸血鬼ドラキュラ伯爵”について記された創作の書物とやらを、ひとつ所望しよう」


ラビィは言葉に詰まる。

未来の知識を、過去へ持ち込む危険性。

時代の流れを変える可能性。


「……簡単には、お渡しできません」


ヴラドは肩をすくめた。


「その書を探しここへ持ってまいれ。我のデータとやらと交換だ」


試すような、しかし楽しげな目。


ラビィはしばらく考え、そして小さく息を吐いた。


「ふぅ……分かりました」


過去から過去への跳躍。

まだ見ぬ時代、まだ書かれていないはずの“ドラキュラ”の物語。


ラビィは城を後にし、再び時を越える準備を整える。


この出会いが、どれほど大きな転機になるのか。

その時は、まだ誰にも分からなかった。

ここまでお読み下さり本当にありがとうございます!


更新日時は毎日致します。

平日:7時頃、12時頃、20時頃の1日3話

土、日、祝:12時頃、16時頃、20時頃の1日3話

で行います。


少しでも

面白かった。続きを読んでみたい。頑張って。と思われた方、よろしければブックマークもお願いします!

感想などもお待ちしております。

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