第10話
転移が終わった瞬間、ラビィは小さく目を見開いた。
空が広い。
建物は高いが、どこか整っていて、空気に張り詰めた感じがない。
「なんか、いいかも」
古代や戦場の時代に比べると、ここは驚くほど穏やかだった。
同じ“過去”なのに、景色も、人の雰囲気も、柔らかく行き交う人々にも笑顔が見え隠れしている。
歩いているうちに、公園へ出た。
芝生と木々、子どもたちの笑い声。
その一角のベンチで、一人の男性が本を読んでいた。
(……あれ?)
どこかで見たことのある顔。
検索端末で見た映像と、ぼんやり重なる。
ラビィは少し迷ってから、声を掛けた。
「あの……すみません。間違ってたら申し訳ないんですが……」
男性は顔を上げ、穏やかに笑う。
「もしかして、オバマ大統領ですか?」
一瞬だけ目をキョトンとさせてから、彼は肩をすくめた。
「元、ですけどね」
その言い方があまりに自然で、ラビィは思わず笑ってしまった。
「少し……お話してもいいですか?」
「構いませんよ。今日は時間を持て余しているので」
にこやかな表情、柔らかな口調で彼はそう言った。
そこからの会話は、驚くほど気さくだった。
天気の話、街の話、ちょっとした冗談。
彼はよく笑い、言葉の選び方も柔らかい。
(あれ? 思ってたより……ずっと話しやすい)
ラビィの中で、期待が少しずつ膨らんでいく。
(この感じなら……もしかして……)
「あのっ」
ラビィは意を決して本題を話した。
自分の立場。
未来の技術。
データ抽出という仕組み。
話し終えた後、彼は少し考えるように視線を落とし
そして、ラビィの方を見つめる。
表情は穏やかなまま、けれど先ほどとはどこか違う。
「君の話、伝えたい事は分かったし、理解はした。」
ラビィの胸が、少し高鳴る。
「でもね」
彼は静かに続けた。
「私がそこへ行っても、君の思うような“力”にはなれないと思う」
「そんなこと……!」
ラビィは思わず前に出た。
「交渉とか、人をまとめる力とか……きっと、いや絶対...」
彼は首を横に振り、優しく制した。
「それは、君が今いる場所で必要とされている力だ」
ゆっくり立ち上がり、本を閉じる。
「私は、ここで役目を終えている」
「待ってください!」
ラビィの声に、彼は一度だけ振り返った。
「今日は楽しい時間だったよ。可愛いお嬢さん」
そう言って微笑み、今度こそ歩き出す。
呼び止める間もなく、その背中は人混みに溶けていった。
しばらく、その場に立ち尽くして。
ラビィは、悔しそうに肩を落とした。
「そんな〜……」
ここまでお読み下さり本当にありがとうございます!
更新日時は毎日致します。
平日:7時頃、12時頃、20時頃の1日3話
土、日、祝:12時頃、16時頃、20時頃の1日3話
で行います。
少しでも
面白かった。続きを読んでみたい。頑張って。と思われた方、よろしければブックマークもお願いします!
感想などもお待ちしております。




