プロローグ
月面都市 ルナ=アルカディア。
かつて夜空の象徴でしかなかった月は、はるか未来において、人間と地球外知的生命体が共存共栄する文明都市へと姿を変えていた。
半透明の都市ドームの内側では、重力制御された街路を、多種多様な生命体が行き交う。
皮膚の色も、身体構造も、寿命すら異なる存在たちが、同じ時間を共有している。
争いは完全には消えていない。
だがこの時代、理解は武力よりも強い技術となっていた。
その象徴のひとつが、間もなく正式稼働を迎えるフルダイブ型MMORPG
《クロノス・レガリア》
である。
このゲームは、仮想世界の中だけで完結しない。
現実世界に実在する人物・生命体から、本人の許可を得たうえでデータを抽出し、ゲーム内パーティーメンバーとして使用できるという、常識外れのシステムを持っていた。
データ抽出対象は人間に限られない。
高度な意思翻訳技術により、動物や植物、さらには異星生命体との意思疎通も成立する。
ただし、ルールは絶対だ。
•同一人物・同一生命体のデータ使用は禁止
•抽出されたデータキャラクターの性格・思考・話し方は一部を除き完全固定
•所有していた物品や技能傾向は、可能な限りゲーム内に反映される
•能力値にはわずかな補正余地はあるが、パーティーメンバーの基礎パラメーターは原則として抽出時の状況に固定
そして、このゲームの最大の特徴は、プレイヤー自身の成長が、完全にパーティーメンバーに依存する点にあった。
プレイヤーは、会話、共闘、経験の積み重ねによって成長する。
だが、スキルの獲得やパラメーターの割り振りを、自ら選択することはできない。
どんな仲間と旅をするか……それだけが、プレイヤーの進化を決定する。
バランス型、パワー型、スピード型、隠密型。
それらの分類すら曖昧になるほど、仲間の組み合わせは無限に近い。
一方で、パーティーメンバー自身の成長は制限されている。
HP(生命力)やMP(スキル消費P)といった一部を除き、基本パラメーターが大きく上昇することはない。
そんな世界で、ひとりの少女が、月面都市の学習区画に座っていた。
ラビィ。
十五、六歳ほどに見える、女性的な雰囲気を持つ人型のウサギ風知的生命体。
柔らかな毛並みに長い耳がわずかに揺れ、赤みを帯びた瞳が、空間投影された教材を見つめている。
映し出されているのは、過去の地球。
戦争、革命、発見、思想。
歴史の授業だった。
「……この人たちが、世界を変えたんだ」
英雄、賢人、異端者。
教科書に名を刻まれた偉人たちの記録を読み進めるうちに、ラビィの胸に、ひとつの疑問が芽生える。
もし彼らと、直接話すことができたのなら…
もし彼らの意思や価値観を、ただの記録ではなく、生きた存在として知ることができたなら。
ルナ=アルカディアには、それを可能にする技術が存在していた。
現実世界から過去の世界へと到達する、時間遡行装置。
観測ではない。仮想でもない。
歴史が「今」だった時代へ、実際に赴くための技術。
ラビィは決意する。
《クロノス・レガリア》のために
そして、自分自身の答えを見つけるために。
過去へ旅立ち、実在した偉人たちと対話し、
彼らの許可を得て、データを抽出する。
それは、ゲームの準備であると同時に、
未来の存在が、歴史そのものと向き合う行為だった。
月面都市の静かな夜。
起動待機状態に入る時間遡行装置の前で、ラビィは深く息を吸う。
これは遊びではない。
だが、確かにゲームの準備でもある。
そしてここから
未来と過去が交差する物語が、静かに動き出す。
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平日:7時頃、12時頃、20時頃の1日3話
土、日、祝:12時頃、16時頃、20時頃の1日3話
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