6-⑩ 業界人、会見イベントに臨む
メディアの方々が続々来場していく。
まずファームの広さに驚き、座席抽選に一喜一憂する。
待機場所で自分たちのために朝採れ野菜が準備されていることに喜んでくれる。
最後に野菜をサーブするのがJungleとSweetsのメンバーたちであることに驚き感動するのが皆さんのテンプレだった。
野菜を召し上がった方は一様にその美味しさに感動してくれた。
帰りに自宅のプランターで育てられるセットをお土産に用意してあると伝える。
記者のみなさんに挨拶をしながら談笑しているとイヤモニからコールが入る。
「全体コール、まもなく総理到着、まもなく総理到着。ツバメさんと冨川さんは10分後に2番ヘリポートにお願いします」
離れた場所で同じく談笑していた冨川と目線を合わせた後、自然と会話を切り上げて、バキーでヘリポートへ向かった。
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ヘリから起こる強い叩きつけるような風の中、SPに囲まれて総理大臣がヘリから降り立つ。
長身で少しほっそりとしたグレイヘア、落合総理である。
遅れて降りた三上幹事長が、総理をアテンドして私と冨川を紹介してくれた。
「総理、こちらがツバメグループ代表の金沢さんと副代表の冨川さんです」
「やあ、はじめまして! あなたたちが河東さんの秘蔵っ子だね。会えるのを楽しみにしていたよ」
「本日はこのようなところまでご足労いただきありがとうございます」
「さあ、まずはあちらへ」
一行をエレベーターで階下の応接室へご案内する。
ここはファームのメイン棟。
10階建てで、見た目はあくまでよくある建物だ。
1階から3階相当までは吹き抜けの収穫倉庫となっている。
これは一般用のダミー倉庫だ。
オフィスと会議室に3フロアを使い、残りは職員の宿泊施設となっている。
そして地下には広大な備蓄とシェルターが広がっているが、導線は巧みに隠蔽されており、ここで働く者には開示されていない。
応接室に案内し、早速総理とスタッフに今日の段取りを説明する。
特に問題がないことを確認して打合せは早々に終了した。
そこで落合総理が声のトーンを落として私たちに話しかけてきた。
「三上さんに段取りをお願いしているから、近いうちにふたりには時間をもらうよ。あくまで非公式だ。………総理としてではなく、ともに河東さんを敬愛する友人として話がしたい」
「「承知いたしました」」
三上さんは私たちに含み笑いをしてから声を発した。
「さあ総理、日本を変える大規模ファームの開園だ。国を挙げてのバックアップを宣言しましょう!」
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開園イベントはスムーズに進んだ。
野菜の収穫指導は、ヒカリと農業体験でお世話になった村山さんに頼んだ。
総理自ら収穫した野菜を手にスチール写真を撮って、会見が始まった。
オフィシャルの代表質問ののち、記者さんたちの質疑応答に入った。
どの質問もポジティブで期待を込めたものばかり。
流れもよく、どうやらこのままスムーズに締める感じかなと思ったその時、ひとりの記者が手を挙げた。
「……週刊真実の東です。総理と金沢代表への質問です。この常軌を逸した民間プロジェクトにどのようなカラクリがあるのかお聞かせください」
和やかだった場の空気が一変した。
「お答えいただけますか? どんなカラクリがあるんです?」
全く空気を読まず……最悪それはこちらの都合だとしてもだ。
なんの根拠も示さずまるで見当違いの質問。
自分だけが悦に浸るようなクソな記者だ。
戸惑う司会を手で制して私が答える。
「質問の意図が全く分からないのですが……お答えしますね。清山にグループの移転をするにあたり、この地の誇るべき農業が後継者問題に悩みを抱えていることを知りました。農業の厳しさと同時にその楽しさをもっと広く知ってもらいたいと思い、このファームを作りました。それに行政も賛同していただけたから今日を迎えられました。そこになんのカラクリもありませんよ」
「いやいや、そんな小綺麗な動機なんて信じませんよ。ここまで金を使ってどんな企業メリットがあるって言うんです? なにかウラには儲け話があるはずだ。さあ答えてください」
「……事前にお送りした資料もありますし、今日もパンフレットもお渡ししました。あなたはそれを読んでいただけましたか?」
「そんなことはどうでもいいんですよ。なんか汚いカラクリがありますよねえ? あなた嘘ついてますよね? どうなんです?」
「もう一度聞きますね。資料は読んでいただけましたか?……読まれてないですよね。総理とご一緒できる貴重な時間です。あなた以外の記者のみなさんはきちんと資料に目を通して理解した上で質疑に臨んでいただけたので、ここまではとても有意義な時間でした。あなたが質問するまではね」
「失礼だな。もちろん資料は読んだよ! 読み込んだその上で、嘘まみれだと思ったから今ここで質問してるんですよ!」
「……とても申し上げにくいのですが。それこそ嘘ですよね。嘘つきに人を嘘つき呼ばわりする資格はありませんよ」
「なんだ貴様!」
「会見前に1部だけ資料が見つかりまして。どなたかが落とされたのかと思って受付番号と符合しましたら、週刊真実さんのものでした。見つけたのは受付のゴミ箱でしたが」
東記者は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「それは読んでからあまりに嘘が並べてあるから捨てたんだよ。それより隠し番号でこっそり管理していることが怪しい証拠だ!」
「……やはり読んでらっしゃらないですね。資料のトップページには大きく通し番号が記載されてます。お帰りの際にお渡しするお土産との兼ね合いですとそれも大きく書いてありますよ。あなた以外の全員がご存じてす」
「!? そうだ。事前資料を読んだんだよ!」
「残念ながら週実さんは事前エントリーされてないので資料はお送りできませんでした。飛び込みは本来お断りできたのですが、わざわざお越しいただいたのでお通ししたのですが……。こうなると参加をお断りしたほうがあなたの為だったかもしれませんね。あとこれは公式の会見です。カメラも回ってますし、解禁に合わせてこの会見の様子も配信もされてしまいますよ。これ以上の嘘はお止めになされたほうがいい」
ついに会場にブーイングが起きてしまった。
私は記者を制して話す。
「あなたはなぜここに来たんです? 公式な会見で質問することでご自身の妄想を正当化しようとこの場を利用しに来ただけじゃないですか?」
東はダラダラと大汗を垂らし身体を震わせながら立ち尽くし何も答えられない。
「なんだこいつ」
「大嘘つきじゃねえか」
「調子に乗ってんじゃねえよシュウジツ」
「出ていけよ」
「総理がいるんだぞ何考えてんだよ」
「もう出ていけよ、嘘つき野郎」
耐えかねた東はこちらを睨むと少し早足で会場を出ていく。
「あ、週実さんお帰りですか? お土産は捨てずにお持ち帰りくださいね」
会場から笑いが起きる。
「では時間が押しております。質問は以上とさせてください。みなさま、最後は申し訳ありませんでした。みなさんとご一緒させることを許可した私のミスでした。どうかお許しください」
「………いいかね?」
落合総理が手を挙げる。
「みなさん、最後にハプニングがあったがアレは忘れてしまいましょう。あんなくだらないものにこの素晴らしい開園イベントの記事を汚されたくない。あんな戯言に触れるくらいなら1行でも多くこのファームの素晴らしさを伝えるために紙面を割いてほしい。どうかこの思いを広く世に広めてください。
……私はこのプロジェクトは本当に素晴らしいものだと確信している。だからこそ国として支援していくことを即断しました。このファームの価値はここにいる本物のメディアの方々ならわかるはずだ。どうか正しいニュースを届けてください。本物のメディアの力を見せてほしい。それを楽しみにしています」
記者は立ち上がり大きな拍手をするのだった。
何度か投稿順を誤りました。
申し訳ありません。
ちゃんと直ってるといいのですが。