6-7 業界人、合宿を提案する
イベントは大成功だった。
ライブイベントはファンからも毎日が神回と称されるほどにいい出来栄えだった。
連日、ライブビューイングをしたビーチも超満員。
ビーチなのだから定員はないのだが、その言葉しか浮かばないような超満員だった。
そこに集まった人々により、とんでもない経済効果を生み出した。
ホテルや旅館が全室満室というだけでも満足していたところにこれである。
飲食店が嬉しい悲鳴をあげたのはもちろん、街やホテルの売店で売っていた限定グッズもすべて完売したとのこと。
まさに完璧な成功だった。
報告を聞いた私とシオはがっちり握手をしたのだった。
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他方、運営の体制は2日目から変わった。
運営といっても、社長である私の行動だ。
ヒカリから話を聞いたこともあったが、初日のライブを観て私はスタンスを変えた。
翌日からメンバーに積極的に声をかけて、初日には入らなかった控室と前室に意識的に居続けた。
残る2日はそのように過ごした。
最終日の打ち上げが終わったあと、私はヒカリを連れて冨川のもとへ。
3人で深夜まで話し合いをしてある結論に至った。
そして翌日。
当初の予定からスケジュールを変更した。
「おーい、JungleとSweets集合ー!」
冨川の号令にメンバーが走って集まる。
「ツバメ社長からの業務連絡です。社長どうぞ」
ヒカリが告げて自分もメンバーの中に入った。
「まずはみんな、改めてイベントお疲れ様でした。とてもいいイベントになりました。本当にありがとう」
そして業務連絡を告げる。
「今日と明日はグループごとに配信用の撮影をする予定でしたが、内容を変更することにしました。今から合宿をします。といいつつ、テーマは『オフみたいな合宿』あるいは『合宿みたいなオフ』です」
全員、荷物を放り投げて歓喜する。
「やったーーー!!」
「やばーいなにそれー!」
「えー!どこ?どこいくのー!
「てかなんですか社長それ。同じでしょ」
「嬉しーー!!!」
みんな喜んでくれた。
「さっき家族にはマネージャーから連絡して今日帰れないことをお詫びしておいた。みんなも家に帰りたかったかもしれないがあと1日だけ我慢してくれ。さあ、乗りこめー!」
向こうから超大型のモーターホームがやってくる。ドライバーはネモだ。
観光バスをもうひと回り大きくしたそのデカさに
みんなが歓声をあけながらバスに乗り込む。
「なんだこれーーー!」
「やばすぎるー!」
ゴローのクルマは違法な装甲車などを除いて、日常使いできそうなものは日本でも走れるように登記してある。このモーターホームは非日常の塊のようなものだが、内装をリフォームするために登記をした。豪華さを少し抑えて巨体に見合う人数が住めるように改造したのだ。
先に乗り込み準備をしていた羽山マネが手を叩きながら声をかける。
「はいはいはい、みんな座ってー。飲み物食べ物いろいろ揃えてあるからね。自由に過ごしていいわよ」
もうみんな嬉しくて飛び跳ねて喜んでいる。
いや、そろそろ座りなさい。出発できない。
「それじゃいくぞー。出発ーーー!」
こらから向かうのは清山だ。
みんなも農場ファームには来たことがある。
だが今日は向かうエリアが違う。
行くのは―――機密エリアだ。
メンバーと冨川の絆を知り、考え方を改めた。
私はメンバーに世界の終わりを告げることにしたのだった。
―――――――
森ノ島を出た私たちはのんびり楽しみながら清山へ向かった。
途中で寄った道の駅ではメンバーが顔バレしてちょっとした騒ぎになったが、事故なく出発することができた。
いつもより時間をかけながらのんびり4時間。
モーターハウスは清山に到着した。
「あれ? いつものゲートじゃないですね」
羽山マネが真っ先に気づく。
さすがである。
「ネモ、中に入ったら一度停めてくれ」
「了解っす」
「みんな、聞いてくれるか? ………よし。今日向かうのはいつものファームじゃないんだ。悪いが携帯は羽山マネージャーに預けてくれ。。みんなを信じてないわけじゃなくて、そういうルールになってるんだ」
不思議な顔をしながらみんなは素直に携帯を預ける。
預かった羽山マネももちろん理由がわからず不思議そうな顔をみせている。
「ここから向かうのはあそこにみえる建物だ。着いたら詳しいことを話すからな。ちょっと我慢してくれ……ネモ、いいぞ」
クルマはまた走り出す。
大きく見えていた建物は実はまだ距離があった。
比較対象がないので距離感がつかめないのだ。
近づくにつれ、メンバーたちは口々にその異様な大きなに驚いていた。
「よし、着いたぞ。これから中に入る。ここで一度クルマを乗り換える。隣に停まっているバスに乗り換えてくれ」
ざわざわとしながら、メンバーはバスへ。
全員が乗り込んだところでバスは発進する。
都合3回のチェックを受け、その都度大きなゲートをくぐる。
そのセキュリティの厳しさに少しザワついていたメンバーはいつしか口をつぐむようになった。
「ドライバーさん、センターで止めてください。はい、ありがとうございます。じゃ冨川、頼む」
「……みんなお待たせ。驚かせてすまないね。なにも不安に思う必要はないから安心しなさい。さて、この場所の説明をする。ここはこの時点で一万人が10年以上暮らせる物資を管理する建物だ。ここがその中心。周りを囲むようにいくつも大きなシャッターが見えるよな。あの奥に大量の資源が蓄えられている」
恐る恐るひとりの男子が手を挙げる。
「クロか。いいぞ」
「なにかの、なにかの災害に備えたものですか? 南海トラフとか?」
「うん、そうだよ。大災害に備えたものだ」
「なんだそうか」
「よかった」
「あー怖かった」
メンバーが口々に言葉を漏らす。
「よし、次に行こう。お願いします」
バスは静かに発進。行きとは違うゲートを三度くぐりながら外に出る。またしばらく走る。
やがてバスは敷地の端に近づいた。10メートル以上の高い壁だった。
遠くまでそびえるその威圧的な壁にまた車内は静まりかえる。
そしてバスはタワマンほどの高さのタワーへたどり着く。
「よし、ここだ。荷物は持たずに降りてくれ」
一言も発しないまま、メンバーは入口のセキュリティを受けてからゲートをくぐる。
中には大きなクルマが2台、バイクは4台停まっている。
ほかに厳重そうな倉庫が並んでいる。
「さあ、このエレベーターだ。乗ろうか。この上でやっくり話そう。質問もあるだろう。もう少し我慢してくれな」
緊張した面持ちで乗り込んだ高速エレベーターはほんの僅かな時間で最上階に着く。
ドアがあくとそこには高原に120メートル加えた広大なパノラマが広がった。
メンバーは思わず、それでも控えめの歓声を上げた。
「よし、そこのテーブルに座ってくれ。ネモ、飲み物を頼めるか」
ネモが飲み物を取りに行く。
私の目をうかがって問題ないと判断したヒカリもそれに続いた。
メンバーはヒカリはここに来たことがあるのだとわかり、複雑な顔をした。
安心したと同時に、なぜだろうという顔だ。
さあ、これからメンバーに真実をつたえる。
みんな受けとめてくれると信じている。