6-6 業界人、熱山計画をシオに伝える
ひと通りの進捗を聞いた。
すべて順調。週末3日間のイベントは成功間違いなしだ。
打合せが終わり、みんなは一度部屋へ。
私は汐田市長に時間をもらった。
「シオ、時間はあるか? 少し長くなる」
「しばらくは大丈夫や。今日はこのミーティングのために半日空けてある」
「そうか。じゃあ話すよ。真剣な問題だ」
―――私はシオにこの世界の終わりを伝えた。
「……そんなことが起きるんか。とんでもないな。せやけどツバメがいうことや。信じるしかないか」
「オレたちが森ノ島を買ったのはつまりはそういうことだ。ここには老人と女子供を中心に連れてきて籠城させるつもりだ」
「そうやったんやな。でもオレは市長としてなにをしたらええんや。こんなことを市民に伝えてもパニックになるだけやろ」
「そのとおりだよ。シオに会ったあと、自由推進党の三上さんとコネができた。彼はこのことを知っているが同じ意見だった。公式な情報開示は不可能という結論になっている」
「せやろな。でもオレは市民を見捨てられへん」
「大丈夫だ。オレたちの計画は熱山も守ることを前提にしていたからな。市政の協力なしでどこまでやれるか不安だったがなんと市長はシオだ。もっと大胆な備えができるはずだ。仲間を呼ぶよ。みんなで計画を詰めよう」
10分後、部屋で待機してたメンバーが再集合する。
そして私は計画の概要をシオに伝えた。
「熱山のすべては守れない。それはわかるな。そこでいくつかのポイントを重点的に強化して市民を避難させる計画だ。花川くん、プランの説明を頼む」
「まずメインの拠点は港全体であります。スペースも十分にあり形状的にも確保しやすく攻防にも適しているであります。次いで熱山城であります。ここは実在した城ではないのですが、それでも要塞化に適した場所であることは変わりませんです。港と城、これらを堅守しつつ、このふたつをつなぐルートを確保することがこの計画の基本線であります」
熱山城から港まではロープウェイも使える。
これは最も安全な移動手段となるので当然使う。
合わせて地上導線も確保するのが理想である。
そして使うべきはホテルと旅館だ。
特に大型の施設は立地的に安全なルートが確保できるなら積極的に押さえるべきだと伝えた。
「なるほど、よく考えられていると思います」
「関係者に世界の終わりは伝えられない。シオには今回のように合法的に備えを進められる理由や動機を作るのを手伝ってもらいたい」
「熱山城は定期的に修繕計画がある。その流れで大丈夫だろう。ほかは調べてみないと即答できないな」
「もちろんだ。ぜひ調べてくれ。今回のイベント実績でツバメグループが熱山にあれこれ関与するのも違和感がないだろう。いろんな理由に使ってくれ」
最後に私はマジックボックスの存在を証明した。
「な、なんやねんそれは」
「ツバメさんのこの力があれば別の場所から持ってきたものを簡単にセットできるであります。いま各地で置くだけの大きな【壁】を作っておりますので、それなりの数を熱山にも回す予定であります」
「あと、冷凍倉庫と冷蔵倉庫もいくつか持ってくるつもりだ。海のモンスターにどんなモノが出るのかにもよるが漁ができるのは強みだ。野菜は清山から定期的に持ってくるから、まずは地元の漁港組合とはうまく付き合っておいてほしい」
冨川から汐田にリクエストする。
「市長、大小含めて病院のデータを用意していただけますか。あと病院の薬などの備蓄状況も知りたいです。政府が防災強化を打ち出してくれたので動きやすいはずです。南海トラフも理由にいざというときの医療体制の見直しを市長権限でお願いします」
「えらいことになったな。イベントの裏にはこんなプロジェクトが隠れてたんか」
「シオを騙すようなことになってすまない」
「いや、ツバメがおらんかったら熱山は詰んでた。御礼をいうべきや。これからも宜しく頼む」
市長の力も借りて、熱山の拠点化も大きく進展できそうだ。
―――――――
そして週末。金曜日がやってきた。
「うわー! すごーい!」
早朝、というより徹夜組も出たので前日から。
熱山には続々と人が集結していた。
ライブイベントのある森ノ山はもちろんのこと、熱山のすべての宿泊施設が満室となっていた。
汐田市長曰く、史上初とのことだった。
イベント後の聖地化を狙ったタレントルームはすでに年内の予約は完売していた。
但し、森ノ島は大型改装として12月中旬から当面の宿泊受付を止めていたのだが。
冬休みや年末年始の繁忙期に閉島することを残念がって初岡さんは一カ月ずらすことを提案したが、諦めてもらった。
この3日間は当初、本番のシルバーウィークのテストとしてプレ開催の予定だったのだが、あまりの反響にそのまま継続開催することになっていた。
熱山、森ノ山は日本中の話題をさらい、大ブームの地となった。
もともと東京からのアクセスの良さはほかのリゾートにはない利点なのだから、ようやく本来のポテンシャルを発揮しただけとも言える。
だが残念ながらそれもあと3カ月。
誰も知らないが間違いのない事実である。
そして夕方17時。ライブイベントが開演した。
オープニングはJungleだ。
そのダンスパフォーマンスは韓国勢にも負けていない。
そしてSweetsも同じくだが、彼らは最近は当然の複数買いのための接触イベントも一切行わない。
それでもその人気は確実にアジアナンバーワン。
いつもはアリーナはもちろんドームクラスでも単独で完売させるユニットが揃い、さらにはヒカリのアーティスト活動再開というおまけつきだ。
本来なら国立競技場でもおかしくないイベントが今回はたった1000人完全限定で行われる。
ラッキーなファンはその喜びを爆発させていた。
そしてSweetsが登場する。
センターにはヒカリ。2年ぶりのユニット復帰にこの日いちばんの歓声が上がったのだった。
この日の生配信は同接800万人超を記録した。
―――――――
「あーーー! 気持ちよかった!!!!」
初日を無事に終え、軽い打ち上げを終えた私たちは部屋に戻った。
当たり前のようにヒカリは私の部屋にいるのだが。
「メンバーも同じフロアにいるんだから早く戻れよ」
「え? なんで? みんなもう知ってるよ。それにほかに私の部屋ないし。最初からここだし」
なんじゃそりゃ。オープンにもほどがある。
「こっちがなんでだよ。なんで知ってるんだ?」
「へ? 私が言ったからだよ。別に隠すことじゃないよ。トミーも昔からそう言ってた。ウチは嘘なし、隠し事なしがルールだよ」
「ふーん。でもそれはいいルールだな」
「嘘や隠さなきゃいけないようなことをしなければ何があっても絶対守ってやるって言ってた。事実そうだった。みんなそれが分かってるからトミーが困ることはしない。だからみんなから漏れることは絶対にないよ。まあバレてもそもそも『隠すことじゃない』からね」
「いいチームだな。トミーいい仕事してるなあ。そりゃメンバーからの信頼は厚いよな」
……だとしたら。
ちょっとよくないな。
「ツバメもだよ。そのトミーにあれだけ信頼されてるってだけでみんなツバメを尊敬してるよ」
「え。そうなの?」
「だからもっと声かけてあげてね。みんなさみしいと思うよ」
「ふーん、そっか、わかった」
そうか。そんなにトミーを信頼してるんだな。
すごい絆だよな。
そうか……。
「ヒカリ、ちょっとトミーと話してくるわ。長くなるかも。疲れてるだろうから先に寝てていいからな」
少しブーブー言っていたが私が着替えているうちに、やはり疲れていたのだろう、ヒカリはすやすや眠っていた。
バレないようにキスしてから私は部屋を出た。
汐田邦充 46歳
ツバメの大学同期。
実家のあった熱山で市長となった。
真面目な性格で市民からの信頼を得ている。




