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4-7 業界人、旧友を仲間にする



コンテナハウスの買い占めは成功した。


展示会最終日の夜、ブースの撤収を終えた小里と家森が待ち合わせのタクスケのバーに現れた。


「ふたりとも今日は助かったよ。突然なのに理由も聞かず動いてくれて助かった」


「なんか理由があるんはわかったからな」


「そろそろ教えてくれ。なにが起きてるんや」


私はいつものように真実を伝えた。


「この世界がもうすぐ終わるんだよ」  


そしてこれもいつも通り。マジックボックスで店のインテリアの出し入れをする。


「あー、これあかんやつやな」

「まいったな。まじやんけ」


さすがは20年来の親友だけのことはある。 

フリーズもそこそこに現実を受け入れてくれたようだ。


私はことの始まりからすべてを伝えた。


――――――――


「はあ、えぐいなあ」

「どないせえゆうんや」


ふたりはもちろんチーム入りを快諾してくれた。


「助ける人間は選ぶんか?」


「選ぶつもりはない。だけど準備も整ってない中で情報だけを拡散しても意味がないと思ってるんだ。信じるやつはいないだろうし、信じたとしたらパニックにしかならない。不安だけを煽っても意味がないと思ってる」


「それはそうやな。せやけどオレにもそれなりに大切な人がおる。みんなもそうやろ。信じてくれる人には言いたいやろ」


「だから準備を急いでるんだ。そう遠くないタイミングで世界にこのことを伝えるつもりだ。だけど今じゃない。適当に動けばたぶんオレたちはつぶされる」


「まじか。政治家とか国とかそういう感じか?」


「わからんくもないな。映画みたいになるな。外国からも狙われるんちゃうか。あり得る話や」


過去にも同じような危機に選ばれた者がいたこと、そして先バレしたケースはその日を迎えられずにとんどが殺されたらしいということも話した。


「ずるいけどさ。最低限、オレたちの大切な人たちだけでも必ず守れる環境にしたい。その上で、他の人たち……手の届かない人たちも自衛の準備ができるように開示したいと思ってる」  


「ん、わかった。今は収めとく」


「了解や。はよみんなに伝えられるようにまずはできることやろうか」


「オレは今日手に入れたハウス担当やな。受け渡しとかその後の管理と設置のサポートを山橋さんと花川さんとのチームで動く感じでええか」 


「それで頼む」


「オレは医療器具関係やな。どうやって手に入れるかは別にして必要な器具なんかを集めるための準備しとくわ。仲間にはまだ医療関係者はおらんのか?」


「最優先事項だがまだ見つかってない。なにかツテはあるか?」


「引き込むなら成くんやな。韓国に帰って病院継いだやろ。お前も仲良かったのになんでまだ声かけてないんや」


「すまん、成くんはもちろん仲間に引き込むつもりだったけど……病院経営してるの忘れてた」


「なにやらせるつもりやったんや」


「……健康増進担当。ジムの運営とかゴルフとか」


「ちょっと外走ってこい。水飲むなよ」


「あー、すまん! じゃあ家森は成くんとコンタクト取ってもらえるか? 東京に来てもらえるのが一番だけどこっちが行くのでも構わない」


「了解。国内の医療機関もツテは必要や。引き続き探しとくわ」


「定期的にここでミーティングをしてる。今日の動きが派手だったから明日は臨時で全員集まるんだ。悪いけどお前らも参加してくれ。夕方から集まりだして19時スタートだ」


明日も会うことを決めてここでの話は以上とする。

久しぶりに会えた親友とこのあとは外で飲むことにしたのだった。



―――――――



翌日。

小里と家森の紹介も兼ねたリモートを開く。


「……ということで新しくチームに加わってくれる小里と家森だ。みんなよろしく頼むよ」


「現場ではゆっくりお話しできなかったですよね! お会いできて嬉しいです! ツバメさんの彼女のヒカリでーす!」


今をときめく女優の発言にふたりが固まる。


「あー、ふたりとも。いつものボケだから気にしなくていいぞ」


まずはコンテナについての確認だ。


「山橋さん、コンテナハウスは来月からどんどん集まりだすで。どこに集めたらええかな」


「基本、陸路をトレーラーの搬送でしたね。こっちまで持ち込むのは手間なので一度関西にまとめようと思ってます。いま小里さんの会社近くに広い土地を探してますから決まったらお伝えしますよ。ある程度集まったらツバメさんに回収してもらう段取りでどうかしら」


「それでいこう。それなりに騒ぎになったし目立たないように地方で動かしていくのは得策だな。山橋さん、いい判断だと思いますよ。古里、目立たないように収納していくから適時連絡頼む」


ともかくも拠点はめどがたった。

残る課題はまだあるが、中でも大きな問題は医療関係だ。


担当は家森。まずは韓国で病院経営をしている大学の後輩である成くんを頼ることにした。

連絡をとったところしばらくは来日の予定がないそうでこちらから向かうことになった。


「当面、医療関係は家森に主導してもらう。でもかなり大きな課題だ。みんなも常にアンテナを張ってなにかアイデアを思いついたら家森に伝えてくれ」


「Xデーと同時にいちばん混乱するのが病院でしょうね。先行してくるのがゾンビだというのが気になるんですよね。ゾンビ映画だと病院は感染爆発してあっという間に壊滅しちゃうんですよ」


「ちょっといいでありますか? ゾンビマニアの山橋さんからするとその意見はもっともなのでありますが、実は異世界転生の世界線ではゾンビという概念はあまりないのです。似た見た目のものはグールと呼ばれていて感染型ではないのでありますよ」


聞けば異世界ネタのゾンビというのは、放置された人間やモンスターの死体が魔素の影響でアンデッド化することを指すらしい。そしてグールはあくまで人間をエサとして襲うモンスターなのだそうだ。


「そうなのか。勉強になるな。だが世界の終わりが異世界転生に属するものなのかも分からないからな。神様がグールと言わずゾンビと明言したことに意味はあると思うのだけど。あのときは私も混乱していたからな」


『本場のアメリカだと感染型のソンビ一択だぜ。走るか走らないかの違いだ』


「難しいっすね。感染型にやられたなら隔離。グールになら治療ってことすよね。大混乱の中でそんな両極端な見極めなんて無理っすよ」


「ネモくんのいう通りだろうな。そもそもその時に国を仕切るのが政治家なのか軍隊なのかにもよる。まあ日本は政治家なんだろうがな。後手後手に回って機能不全になるのがセオリーだよ」


議論は尽きない。だが備えは確実に前に進んでいる。




小里

56歳。ツバメの大学時代のバスケ部同期。

兵庫のハウスメーカー社長。

かなりの酒豪で数々の迷伝説を持つ。


家森

56歳。ツバメのバスケ部同期の親友。

東京の医療器具メーカー勤務。

実はお笑いが好き。トンチの効いた女が好み。

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