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3-1 業界人、テキサスに上陸する



私とタクスケは武器と装甲車を求めてテキサス州のダラスへとやってきた。


「日本の夏も暑いですから、あんまり変わんない感じがしますね」


「そうだな、不規則に慣れてる我々なら時差も気にならないし、時間がかかるのはキツいが着いてしまえば楽なものだな」


私は長時間のフライトが苦手だ。


仕事での海外ロケもそれなりに経験したが、タレントの拘束時間を考えればロケ地の選択肢は狭い。

大半は写真集のロケでなにより気持ちよく水着になってもらうのが目的なので、3時間あまりで到着する常夏のグアム、サイパンが定番だった。


グラビア全盛期にはスポット探しには苦労した。

許可も不要で絵になる手軽なビーチがあるのだが、あまりにロケが集中するとそこの印象的な岩場でのグラビアがあちこちに掲載されることになるほどだった。

グラビア誌の編集をしていたときは誰が誰を連れてどこでどんな写真を撮ったか、のヒアリングも立派な仕事だった。


撮る人が違えば同じ場所で同じ人を撮っても作品は違ったものになるのだが、まだその頃はそんなことも分かってなかった。

とにかく人と違うことをしようと躍起になっていた気がする。

そして撮影時期が夏ならば沖縄という手もあるのだが、当時は沖縄でロケを組むほうがグアム、サイパンよりも高くついた。

理不尽だと感じていたものだ。


プライベートならなおのこと。


めっに取れない貴重な休みなのに機内で日付が変わるなど考えられない。

だったら近くでもう一日が長く滞在したいと思ってしまうのだ。

せいぜい、グアム・サイパンにがんばってバリ島やセブ島くらいが許容範囲と思っている。


そんな私が10時間以上も飛行機に乗り続けたのだから、それがとてつもない苦行だったのは理解してもらえるのではないだろうか。

どうにか今回で買い付けを完了させたいと願うのだった。


「友だちが迎えに来てくれてるはずです。さっそく合流しましょう」


「まずはその友だちのカーショップに行こう。そのあとでガンショプも見ておきたい。軍の基地にも行きたいし軍の車両が走ってそうなスポットがあればいいのだけど」


「了解です! 友だちには日本のアーミーファンと一緒に行くと伝えてあるんで、いい仕事してくれると思いますよ!」


入国審査を終えて到着ロビーに出ると、出迎えの友だちとはすぐに会うことができた。


「ヘーイ! タクスケ!」


「おー、ゴロちゃん! 久しぶり!」


「あなたがタクスケのボスですね! はじめまして、ゴローです」


「はじめまして、ツバメです」


こちらの生活が長いのに、ゴローの日本語には外国なまりをあまり感じなかった。


「タクスケからのリクエストは聞いてます。ボスも遠慮なくリクエストしてください!」


「ありがとう。よろしくな。さっそくだがゴローの店に案内してもらえないか?」


「オッケー! オールドカーしかないけど数はたくさんあるんです! ぜひ見ていってください!」


ゴローの店はそれなりな規模のようだった。

なにより日本語が伝わるのはありがたい。

これなら買い付けも捗りそうだ!


―――――――


ゴローが運転するアメリカサイズのバンに乗り込み、移動を開始した。


「さっそく大きなクルマだな。日本で走ってるものとはサイズが全然違う。マークはシボレーか。なんていうシリーズなんだ?」


「シボレーのエクスプレスです。ちょっと古いやつだけどまだまだ元気に走ってくれます!」


「へー、走行距離は?」


「うーん、正確なのはわからないですね。メーターだと25万マイルってなってますけど、ウチに来たときにはもうメーターいじられてましたから」


「1マイルって何キロだっけ?」


「えーと、携帯調べで1.6キロですね。てことは……これ少なくとも40万キロ走ってますよ」


「毎日ちゃんとメンテナンスしてますよ。ちょっとくらいのトラブルなら自分で直せます。40万キロなんてこっちじゃまだまだですよ」


「おー、ゴロちゃん、さすがはカーディーラーの社長だな」


「広大な土地を走るためのものだからそもそも日本とは耐久性が違うというけど。なのに日本で乗るアメ車はそんなに乗れないんだよな。謎だよ」


「一説にはストップ&ゴーが多すぎるなんてのも聞きましたけどね」


「私も昔、シボレーのSUVに乗ってたことがある。日本車とは比べもんにならないくらい頑丈だから何十万キロでも走りますっていわれたよ」


「どうでした?」


「20万キロ届かずに廃車」


「なんなんでしょうね。こっちは日本みたいな車検制度も無い州があるっていいますよね」


「まじか。それを聞くとますます理不尽だと感じてしまうな。まあたしかに映画なんかだと自分で直してるイメージはあるな」


「2年おきのプロの車検より、適時のセルフメンテなんですかねぇ。タクシーなんかも自社整備でとんでもない距離走るっていいますよ」  


少し声のトーンを落として小声で話す。


「……ガソリンはなんとかなると思うんだよ。マジックボックスは時間停止らしいから。量の問題はともかく、手に入れさえすれば劣化はしない」


「それはすごい。たしかガソリンって1年も持たないって聞いたことありますよ。デカいアドバンテージになりますね」


「だとしてさ。メンテナンスは大きな課題になりそうだな。食料のことばかり考えてきたけどそこはノーマークだった。機械に強い人材が絶対に必要だ。消耗部品の確保と管理も重要だ」



――――――



やがて車がスローダウンして停車した。どうやら彼のカーショップに着いたようだ。


「ボス! タク! ボクの店についたよ!」


「ありがとう、ゴロー。いや、大きい店だな!」


「アリガトー。車が大きいですからね! さあ見に行きましょう」


ゴローの案内で、中でも大型の車両が展示してあるエリアへ向かった。

バンやSUVが数多く並んでいる。

どれも日本とは明らかに大きさが違うフルサイズだ。

奥にはキャンピングカーも並んでいる。


「こりゃここだけでも1日過ぎそうだな」


「さっそく見ていきましょうか。ポイントはなんですかね」


「救助者や資材なんかをたくさん詰めること。それに対して悪路への強さのバランス。あとは……ゾンビにひっくり返されない安定感?」


「のろのろゾンビならいいんですけどね。走るやつの集団が観光バスをひっくり返す映画を観ましたよ」


「あれな、あれだと無理だな」


どうしてもすぐ近くにやってくるリアルなのだと実感できずにいる。

いま一度、迫る危機をイメージしながら私たちは大型車両の品定めをするのだった。

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