2-8 業界人、ゾンビ仲間と出会う
山橋さんとの打合せはとてもスムーズに進んだ。
私が仕事のパートナーに求めるトップキーワードは「カンの良さ」。
言われたことをその通りに仕上げることももちろん大事なのだが、頼まれたことにちょっとしたオリジナリティを加えてくる人間が大好きだ。
この業界には絶対的な正解がないと思っている。
例えば建築なら図面通りにしなければ家は建たないだろう。
だか編集はそうではない。セオリーはあってもそれだけが正解ではない。
右ページに細かなカットをたくさん並べて、左ページには勝負カットをドンと置く! どやー! みたいなレイアウト指導を後輩にしている先輩をみると頭をはたきそうになる。
とんでもない写真が撮れたんで見開き一枚で行かせてもらえませんか? なんていうヤツがおもしろいのだ。
もちろん最初は先輩や見本誌の真似事からでも仕方ない。
でもエンタメ雑誌なのだから、自分が読みたいものを作ればいい。
そして作るといっても厳密には「作ってもらう」が正しい。
なんの免許もない編集者が、スキルのあるプロたちを使ってモノを作るのだ。
ただただ自由に、自分が面白いと思うものを「作ってもらえば」いい。
もちろん最低限のオーダーはあるのだから大きく逸脱されては困るけれど。
とにかく、どこか見たことのあるような形で仕上げられるよりも、遊びが入ったものが私は好きだ。
チームに真っ先に誘ったネモがそんなタイプだ。
任せた企画に対して私がリクエストしたとおりになんて絶対に仕上げてこない。
必ずひと捻りを加えてくる。どうですか? 想像できないオマケつけてみましたよって顔でニヤけながら校了紙を持ってくるヤツだった。
そしていま、私は山橋さんにはネモに似たシンパシーを感じていた。
そこで私は思い切ったリクエストをすることにした。
「場所は違えど3つに共通するキーワードをお伝えするなら……ゾンビに強い家、ですかね」
その瞬間、山橋さんの笑顔が凍りついた。
あれ? 外したのかなと思ったその時、彼女は思いっきり破顔したのだった。
「すごい!すごい!すごいです! 金沢さんの話を聞きながら私がイメージしてたのがゾンビなんですけど!でもまさかそんなこと言えないし、だからこっそり隠しテーマにゾンビを加えてご提案しようと思ってたんですよ! それに私はセキュリティハウスが大好きで!だからゾンビ映画も私ならこうやって立て籠もるとか考えながら観るのが趣味なんですよね! えー、なんで!? 信じられませんよ! こんなお仕事がいただけるなんて!」
山橋さんは興奮を隠さず、その後もゾンビ映画から学ぶセキュリティハウスの有り方について熱弁を振るうのだった。
なんというミラクル。ここでも【超絶ウルトララッキー】が炸裂したようだ。
「金沢さん、最後にご提案があるのですが。今回の物件、建築業者がまたま決まってないのでしたら絶対に紹介したい方がいるのですが。ご興味はありませんか?」
「私もそれはご相談したいと思ったていたんですよ。山橋さんがそこまでおっしゃるなら間違いなさそうですね。一緒にゾンビ対策の家づくりに付き合ってもらえたら嬉しいです」
「でしたらぜひ。絶対にこの人しかいないって感じです!」
冨川、フルコースごちそうするからな!
―――――――
山橋さんという強力なパートナーを見つけようやく拠点探しがスタートした。
翌日、私は六本木にあるタクスケのバーにネモを呼び出していた。
「ネモ、来週から海外に行ってくるよ」
「え、いよいよ武器の調達っすか! いいなあ。オレ、校了があるから参戦できないっすよ」
「わかってる。最後の仕事だろ。全力で仕上げてこい。それに物資集めは1回では終わらないよ。次は一緒に行こう」
「りょーかいっす!」
そこへ買い物に出ていたタクスケが戻ってきた。
タクスケも交えて、不動産の進み具合などを共有しておく。
ひと通りの進捗はまとめることができた。
「じゃネモ、ヒカリへの共有よろしくな」
「うす! アメリカ土産、楽しみにしてますね!」
仕事を残しているネモは後ろ髪を引かれながら会社に戻っていった。
「ツバメさん、アメリカいくんですか?」
買ってきたものを仕分けながらタクスケが声をかけてきた。
「ああ、近いうちに装甲車や銃を手に入れたいからな。向こうで実物をしっかり見ておこうと思ってる。ついでに非合法な買い物に使えるツテを探してくるよ」
「ボクも一緒に行ってもいいですか?」
「ん? ヒマなのか?」
「いやボク、学生の時にテキサスに留学してたんですよね。英語もそこそこ話せますし。確かテキサスってアメリカでも銃規制が緩いって聞いたことありますよ」
「そうなのか? それは心強い。ぜひ頼む」
「向こうで同じ学校に留学にきてた日本人と仲良くなったんですけど、そいつそのままテキサスに残ったんですよね。たまに連絡がくるんですが、確かそいつ、向こうでカーディーラーやってるんですよね」
「それはいいな。この流れならたぶんそのツテも活きる感じだな。よし、一緒にきてくれ」
―――――――
タクスケが友だちに連絡を取り、彼がテキサスでカーディーラーを続けていることを確かめた私たちはすぐにフライトの手配を進め、アメリカ・テキサスへと向かうこととなった。
話がスムーズに進んだ時のことを考え、手に入れた資金は半分を金に換えて持ち込むことにした。
もちろん、残りの日本円もマジックボックスに入れたままで飛行機に乗り込んだ。
そう、競馬で稼いだお金だがいつでも動かせるように銀行ではなくマジックボックスで管理している。
中身を出せるのは私だけ。
誰にも見えず触れないのだからどこよりも安全な保管場所といえるだろう。
そしてついでに言えば私はこの店の近くに引っ越した。
随分と目立つ荒稼ぎをしたことで、何かしらのトラブルに巻き込まれるのを避けるためだ。
山橋さんの手配で都内のセキュリティがしっかりしたマンションへ引っ越しを済ませている。
そして私たちはテキサスに到着したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次からはテキサス編になります。
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