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第10話 キャサリンのアイデア

 キャサリンが思い付いたアイデアはこう(・・)だった。


 まず『ホプキンス城』をお化け屋敷にするに当たって、基本的に改装は行わない。

 とにかくお金をかけることを避け、キャサリンや幽霊たちの人数でできることをする。

 具体的には城中の掃除と、お客さんに見てもらうルートの模様替え。所謂本格感(・・・)を演出するため、あえてボロボロで小汚いままにしておく場所もある。


 数日かけて城内の清掃を終えたら、その後は調査(・・)だった。

 キャサリンがやった調査とは、「オカルト好きの貴族・作家・町の権力者」などを見つけること。

 もっと言えば、オカルト好きのコミュニティを見つけようとしたのである。


『ホプキンス城』は人里からはやや離れた場所に位置しているものの、幸いなことに『アルバ=ナポカ』という領内でも比較的大きな町が最寄りにある。

 キャサリンはその町に繰り出し、徹底した聞き込み調査を行った。

 十三歳の少女が一人で町へ赴いて聞き込みを行うなど不用心極まりないが、元やり手のバリキャリである彼女はそんなのお構いなし。

堂々と現地調査をやってのけてしまった。

 そしてキャサリンは、町の行く先々でこんなことを尋ねるのである。


「私、最近この辺りに引っ越してきましたの! なんでも近くに〝幽霊城〟なんて呼ばれるお城があるらしいですわね!」


 こう切り出すと、町の人々は『ホプキンス城』について知っていることをアレコレ教えてくれる。

 当然、人々は嘘やデタラメなどあることないこと種々様々な情報を口々に語るが、そこは彼女にとってさほど重要ではない。

 町の人々が『ホプキンス城』にどんなイメージを持っているかを知ることも一応目的の内ではあったが、彼女にとっての本題はそこではなかった。

 しばらく話を聞いたキャサリンは、最後にこんな感じのことを尋ねる。


「私、オカルトの類が大好きなんですの! オカルト好きの著名人はいらっしゃらないかしら?」

「怖いモノ好きで有名な方はいらっしゃらない?」

「幽霊が出ると噂の『ホプキンス城』に興味のある方はどこかにいらっしゃいませんの?」


 ――勿論、キャサリンがオカルトが大好きだなどというのは噓八百だ。むしろ大嫌いである。少し前まで、そんなモノ滅んで消えてなくなればいいと本気で思っていた。


 だが彼女は理解しているのだ。〝人間というのはオカルトや噂の類が大好きである〟と。

 如何にここが日本とは異なる異世界であったとしても、その点は変わらない。町で聞き込みをしたキャサリンは思った通りだと感じていた。

 町の人々は〝幽霊城〟という単語を聞くと様々な表情を見せたが、誰も彼も関心がある様子だった。だから「話したくもない」みたいな露骨な嫌悪を見せた人は、極めて少なかったのである。


 キャサリンが知る限り、人間は基本的にオカルトが大好きだ。仮に怖いオカルトが嫌いな者がいたとしても、怖くないオカルトは概ね好きだったりする。

 例えば「教会に行ったら神様が語りかけてくれた」というのは立派なオカルトだが、この話に悪印象を抱く人物は少ないだろう。無論、それが詐欺の類でないことが前提ではあるが。

〝好奇心は猫をも殺す〟なんて言葉があるように、生物は未知のモノへの関心を捨て切れないのだ。


 故に、キャサリンには確信があったのだ。

「オカルトが大好きな有名人が必ずいるはず」「オカルト好きで繋がるコミュニティが必ず形成されているはず」だと。


 特にオカルトというのは娯楽の範疇に含まれることが多い。

 そして娯楽を楽しむ余裕のある者は経済的に余裕のある者、つまり貴族などの権力者が多くなる。

 キャサリンの狙い目はそこ(・・)であった。


 縦や横の繋がりが深いハイソサエティーの人物に、あくまで娯楽として〝幽霊城〟を体験してもらう。

 得てして経済的に余裕のある者は非日常を求めがちなので、もしホラー体験に感動してもらえたなら、必ずその人物は周囲に言いふらすはずだ。

「〝幽霊城〟はとてもよかった」――と。


 そして〝幽霊城〟の存在がコミュニティ内で話題になれば、最初の目標は達成したも同然。

 一つの集団、一つのコミュニティ、それも一定の権力を有する者たちをリピーターかつロイヤルカスタマーにすることができれば、あとは指数関数的に〝幽霊城〟の名が広まっていくこととなるだろう。


 前世で様々な企画(プロジェクト)に携わったキャサリンは「具体的な顧客を想定する」ことの重要性をよく理解していた。

 もっと言えば「この感動は○○という人に届けたい」まで煮詰めればベスト。

 例えばネットで有名な化粧品のレビュアーがいたとして、新しく発売した化粧品をその人物に紹介してもらえれば、そのレビュアーを中心としたコミュニティに一気に広まることとなる。

 そのコミュニティに属する人間が「こういう新商品が出たんだ」と興味を持つことになり、さらに学校や会社など他のコミュニティ内でも新商品の話をして、教えてもらった人はさらに他のコミュニティにも――と伝播していく。

 これがキャサリンがバリキャリ時代に学んだ商売の仕方であった。


 とはいえ、都合よくオカルト好きの著名人なんて見つからないだろうなぁ……とキャサリンはある程度の苦戦を想定していたのだが――ここに来て、転生後に不運続きだった彼女にようやく運が向いてくる。


「ああ、怖いモノ好きってんなら、ウチの領地じゃギルレモ・デル・ロロ子爵が有名だな」


 とある一人の町人が、そんなことを口走ったのだ。

 この領内に住まうギルレモという子爵は、怖いモノに目がないらしいと。

 さらに、オカルト好きの貴族の集まりにもよく出席しているとかなんとか――。


 それを聞いたキャサリンは、すぐにギルレモ・デル・ロロ子爵に〝お化け屋敷〟のテーマパークを開業する旨を伝える手紙を送った。


『本当に怖い〝幽霊城〟にご興味ありませんか? 最高の体験をご提供致します。よろしければ、ギルレモ子爵をご招待させてくださいませ』


 ――という一文を添えて。

 そして後日、ギルレモ子爵から返事が届く。

『ぜひ体験させて頂きたい』と。


 キャサリンは幽霊たちと綿密な打ち合わせの下、お化け屋敷のアトラクションを決めていき――いよいよ、ギルレモ子爵を〝幽霊城〟へ招待する日が来た。


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