1話
彼女は何か後ろめたそうな顔をいつもしている。
困ったような、誰かに気づいて欲しいようなけど、自分からは何も言おうとしない。
誰かが「大丈夫」ですか?と問いかけても、「大丈夫」と返すだけで、何も言わない。
実は彼女にはずっと後ろめたい気持ちがあった。
その女性はチエさんという。
高校時代、バスケ部に所属していて、チームでもエースと呼ばれる立ち位置のプレイヤーだった。
しかし、引退試合では緊張からか自分の思うようなプレーが出来ず、シュートも決めれなかった。
その引退試合がきっかけで負い目を感じ、学校で部活仲間も避けるようになり、卒業式の部活動お別れ会も参加しなかった。
社会人になって、バスケをまた再開して、小さな地域の団体でプレーしていた。高校生の頃、エースだったこともあり、社会人でもそこそこの活躍をしていた。
そんなある日、彼女のバスケの上手さを見込んだ方から、母校の顧問が転校して、指導者がいないから、なってみてはどうかと提案された。
彼女は母校に戻るのが過去を払拭するなら良い機会かもしれないと考えて、その提案に賛同した。
部活動の指導者として、母校に訪れたが当時の彼女のことを知っている人はいなかったので、特に何も起こることなく、月日が経っていった。
そして、年末の大掃除の日、部室を掃除していると、歴代卒業生の記録が残ったDVDを見つける。その中に"チエへ"と書いたDVDがあった。
どんな事が記録されているあるのだろう。お前のせいで負けたとか、なぜ私たちから逃げたのかというような内容が記録されているのではないだろうかとヒヤヒヤしていた。
しかし、チエにはもう一度彼女たちに会って、話がしたい。でも、今の自分には会う資格がないと考えていた。それはチエが過去から逃げてきたからであった。
でも、もう逃げたくないと覚悟を決めたチエはDVDを見た。
そこには以外にもチエへの恨みや不満なのではなく、感謝の気持ちとチエへの温かいメッセージが込められていた。
"チエへ、卒業おめでとう。
会えなくて、残念だけど、3年間共に過ごした部活動は私達にとってかけがえないものだったので、最後会えなくて、少し寂しいです。
そして、ごめんなさい。
私たちは引退試合のあの時、チエを1人にしてしまいました。誰よりも練習して、誰よりも上手かったチエに頼りっぱなしで、チエには大きなプレッシャーを与えてしまいました。私たちは大切な友人の事を何一つ考えれてなかったです。
会いたいです。会ってまたバスケがしたいです。
でも、責任感が強いチエのことだから、きっと自分が納得するまでは会ってくれないと思う。
だから、もし、このDVDを見て、チエが私たちに会いたいと思ったら、連絡ください。
待ってます。大好きなチエへ"
そのDVDを見た瞬間、彼女は今までの後ろめたさが体から流れ落ちるみたいに、大泣きした。
今まで、自分が抱えたものと同じものもみんなは背負っていたし、みんなは自分のことを嫌ってなんかいなかった。
もう一度みんなに会いたいと思った。
それから、半年後、同窓会に参加したチエは部活動の仲間たちと再開できた。
今度は社会人で新たなバスケチームを組んで、みんなと一緒にバスケをしている。