幼馴染「どんな子が好き?」俺「…お前」幼馴染「ふぇ?!」
俺は今、下校の最中だ。しかしこれはただの下校じゃない。卒業式のあとなのだ。卒業式のあと、打ち上げに招待されたのだが断った。行く理由がなかったからだ。
この道も懐かしい、もう使わなくなるのか。
高校生活もあっという間だった。
(懐かしいなぁ)
俺はサッと後ろを振り返った。そこには南芸高等学校卒業式という看板が飾ってあった。
(…入学式はあそこの門で写真撮ったっけ…)
3年前は入学式の看板が飾ってあった。そこで母親と並んで写真を取ったことも今思うと懐かしく思えてくる。あの頃は桜が咲いていて、写真を取るのには最高のロケーションだった。
(…あのあと桜の花が沢山落ちてきたんだよなぁ)
写真を撮ったあと、すぐに強い風が吹いて桜の花びらがごそっと落ちてきた。あの瞬間こそを写真に収めたかったと母は今でも言う。
いま桜の木を見ると、蕾こそは出ているものの、花が咲いているのは少なかった。その他にも気は並んでいたが、特別桜が咲いているわけじゃなかった。
「………大学でもうまくやっていけるよな、大丈夫だよな…」
桜を見ると大学のことを思い出した。何とか地元の大学を選んで合格、次自分の行く先に対する心配と不安がやまなかった………。
「辛気臭い顔しちゃって!…もしかして大学のこと?」
今飛びつきながら話しかけてきたのは俺の幼馴染である小山ゆいねだった。ロング・ショートで黒髪、更に顔もよく、誰にでも接する女神のような女子だった。
「当たっているよ、お前はやっぱすごいな」
「どれだけ幼馴染していると思っているのよ、私聖斗のことだったら色々と知ってるし!」
こんな彼女が俺と幼馴染なわけなのだからクラス中がそれを聞いた瞬間、俺に猛アタック、俺を通して仲良くなりたかったらしいんだ。女子に話しかけられている時、何故かゆいねは俺のこと睨んでいたしなぁ…
「…俺達ももう卒業だもんな」
「あのあと打上行く?」
「俺は行かないな、ゆいねは行くのか?」
「聖斗が行かないんだったら私も行かなーい」
「じゃあ帰るか」
こうして一歩を踏み出した。
いつも見ていた景色のはずなのに…感覚がおかしくなっているのか初めて通るような感覚になってしまっている。
「…もうみんなと会えないってことなんだね」
「そうだな、俺も寂しいな」
みんなに会えない…ということはゆいねとも会えなくなってしまう。
…まだ俺はゆいねと過ごしたい
「…なんかまだこのままでは帰りたくないな、あの頃遊んだ公園に行かない?」
思いが共鳴したのかゆいねがそういうことを言う。
「あそこの公園か…、ほんとに久しぶりだな」
「あの出来事がなかったら聖斗と出会ってないもん」
「…もう10年前になるのか、確か…」
あそこの公園で俺とゆいねは出会った。もう10年も前のことになる。
〜10年前〜
公園内は児童の遊んでいる声で満ち溢れていた。
「ちょっと待ってよー」
「返さないよーだ」
公園の隅の方では人形を投げて遊んでいる男の子たち、それを見て返して欲しがっている女の子がいた。
「そのお人形さんは…ママに買ってもらったものなのに…」
女の子はそのお人形さんで遊んでいた。その最中男の子たちに奪われてしまったのだ。
「やめてあげなよ」
「何だよお前」
「この子が嫌がっているだろ」
そんなときに来てくれた男の子の背中はかっこよかった。それこそスーパーヒーローのように。
「この…生意気が…」
そこから先は酷かった。人形を手放したのだが、その男の子に向かって暴力をし始めたのだ。
「うぐ、うぐ…」
男の子は反撃しようとはしなかった。そうしてようやく気が済んだのか
「今日はこのくらいにしてやる!」
そう言いその場を去ったのだ。女の子は立ち寄った、その男の子のもとに。
「大丈夫?すごい怪我だけど」
「…痛い」
「だよね、急いでなおさないと…」
「君、名前は何ていうの?」
「…ゆいねって言うけど」
「僕はせいとっていうんだ。よろしくね。これお人形さん、可愛いお人形さんだね」
「…助けてくれてありがとうね!」
〜現在〜
「そんな事もあったね」
「懐かしいな、あの頃は本当に心配してくれてたもんな」
話しているうちに公園に到着した。この公園には2つ自販機がある。そこでお茶を購入した。
「いつもお茶飲んでいるよね」
「炭酸は体に良くないだろ?」
「…ふふ、そうね」
そうして俺達はベンチに腰掛けた。そのベンチは少し高台にあって公園のグラウンドを一望できるほどだ。
「ここ、子供の頃には行かなくってね」
「そう、俺もここだけは来なかったんだよな」
「あのさ、入学してきた頃が懐かしいね」
「だな、ゆいねが新入生代表あいさつって聞いたときちょっと疑ったもん」
「あのときまじで緊張したんだからね」
「…あのあと見事に噛んで俺の部屋に来たんだよな」
「懐かしいねぇ」
「だな」
「………あのさ、聖斗ってさ、どんな子が好き?」
「…お前」
「…ふぇ?!」
俺が少し悩んで回答するとゆいねが顔を赤くした。
「わっ私?!私のことが?聖斗が…私のことを…?嘘でしょ?」
「…本当だ。ゆいね、聞いてくれ!」
ベンチから立つと俺は長年抱えていた思いを話した。
「俺はお前のことをが好きだ!辛いときも!悲しいときも!あなたのことを考えたら乗り越えられた!僕はあなたと過ごす時間がとても楽しかった!こんな不甲斐ない俺で良ければこの手を取ってくれないか!」
気づくと俺はゆいねに向かって手を差し伸べていた。そうするとゆいねは少し微笑んだあと
「…わたしもあなたのことが好きです。私のことをこんなにも考えてくれていると知って嬉しかったです。不束者ですがよろしくお願いします」
この瞬間、恋が成就した瞬間だった。
長年の思いを伝えて、ついに恋人になったのだ。
「…聖斗、ちょっとこっち向いて」
「どうし…」
聖斗がゆいねの方を向いたとき、お互いの唇が重なり合った。ゆいねの唇は甘い香りがした。
「…恥ずかしいけれど、よろしくね♡」
〜?年後〜
俺の名前は町屋聖斗、2人の子どもを持つパパだ。帰ってきたら美人な嫁に可愛い子どもたち、パパは幸せものだ。
「パパー、遊ぼー」
「だめ、パパは私と遊ぶんだからー」
2人の子どもに取り合いっ子にされている。こんな幸せな状況はないだろう。
「あなたー、ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?♡」
「…ごめんな、それどころじゃないんだ」
「あら、ほんとね」
こうやって俺は幸せに生きています。思いを伝えてよかったなって思ってます。