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アンヘルハント~人類に仇なす天使を狩りつくせ!!~  作者: 兎束作哉
第1部 復讐者と記憶なき天使

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Capture8ー5 敵対する天使、そして



 まるで、この世のすべての選択肢を、自分一人で背負っているような感覚だった。



(何が正解で、不正解とか、僕には分からない。どっちが正解とか、そういうんじゃない……きっと、きっと――)



「――僕は。僕は、どっちが正しいとか、間違ってるかとか、分からないし、どっちでもないと思う……けど。そういう考え方の人がいるんだって、そういう。でも、だからといって、天使協会の人間が、≪対天使専門医師トレイター≫を殺すのは違う、と思う、てか違う。それは、やってること間違ってる」



 それは、まるで逃げだった。

 どっちつかずの人間のどうしようもない、選択肢を絞れなかった言い訳に過ぎなかった。どっちもいいは、どっちもよくないにも取れるからだ。

 ツバサは、その意見を聞いて、震えが止まったが、目の前の三人の顔は真顔のままだった。



「逃げたにゃね。よわよわにゃ」



 トントンと、靴を鳴らしながら近づいてくる猫羽。びくりと、身体が上下したのをミカヅキは自分でも気づいていた。だが、平然を装い、猫羽を睨みつける。



「あーにゃー信者たちぃ、いってにゃかったけど、こいつら≪対天使専門医師トレイター≫にゃ」



 猫羽は、三人の前に立ち、ツバサたちと対峙するようにそういうと、くししと笑う。三人の大人の目は見開かれ、そして次第に怒りへと顔色を変えていく。赤く、憤怒に染まった顔を見て、ツバサだけではなく、ミカヅキもまずい状況になったと、自分たちが元からまずい状況だったことを思い出す。このタイミングでいうとは――いや、それよりも、自分たちが≪対天使専門医師トレイター≫であることを相手側は気づいていなかったのか。話に夢中で、また、呼び出されただけで、彼らは何も聞かされていないのではないかと。



「≪対天使専門医師トレイター≫……我々の宿敵……諸悪の根源」

「『天使病』患者を地獄に落とす、悪魔」

「ウリエル様の敵――!」

「まあ、まあ、三人とも落ち着いてにゃ。こいつらは、まだ新人だし。お前たちが手を下さなくても勝手に野垂死ぬにゃ。それに――ボクを信仰しているとか言ったやつが、この間≪対天使専門医師トレイター≫を殺したみたいにゃけど、ボク、現実世界での殺人は許してないんだけど?」



 鋭い眼光が、三人の大人に向けられ、彼らは、怒りで赤くしていた顔を、青ざめさせる。

 申し訳ございません、と医者の男と、教師の女が謝る。どうやら、政治家の男は違う派閥らしい。派閥という物が存在しているのかは分からないが、猫羽が怒っているのは事実で、また、猫羽を信仰する人間が、≪対天使専門医師トレイター≫――牡丹いろはを殺したのだろう。その事実に、ツバサは彼らが抱いたような怒りを覚え、おい、と食って掛かろうとしたが、その前に、猫羽に制止された。否、睨まれ、動けなくなった。



「……あーもう、お前ら解散にゃ。帰っていいにゃ」

「しかし、≪対天使専門医師トレイター≫が――」

「聞こえなかったか? 帰れって言ってんだよ。この愚図ども」

「は、はい。承知いたしました」



 さささっと、逃げるように、三人は足並みをそろえて教会から出ていく。キィ……バタン! とやや乱暴に扉が閉まり、教会の中に静寂が戻る。



「――おい、ネロ。さっきの事、本当か?」

「さっきの事って何にゃ?」

「≪対天使専門医師トレイター≫を殺したって話。お前の、信者? が? ……それって、牡丹の」

「ボクは、指示してにゃい。勝手にあいつらがやったことにゃ。それに、ボクは、あいつらに信仰してほしいなんて一言もいってにゃいにゃ。責任を、ボクに押し付けられても困るにゃ」

「……」

「それで、僕たちをどうするつもりだ」



 ツバサの分かりやすい怒りとは違い、冷静ながらも静かに怒っているミカヅキは、猫羽にここに自分たちをとどめた理由を尋ねた。猫羽は、はあ~と大きなため気をついた後、ツバサとミカヅキを交互に見た。先ほどの大人たちに、拘束されれば、抜け出せなかったかもしれないが、猫羽にそんな力があるとは思えない。あるとしても、精神世界でだけだ。現実世界の天使は基本温厚であるからして――



「別に、どうもしにゃいにゃ。ただ、天使協会に入るか、入らないか聞きたかっただけにゃ」

「入るわけねえだろ」

「まあ、アリスはそういうだろうにゃ。でも、ミカヅキくんはどうかにゃ?」

「僕もツバサと――」

「――お前の生前の記憶、思い出す方法があるっていったらどうするにゃ?」

「……っ」



 つい先ほどまで、ツバサと同じ意見だったはずなのに、猫羽の一言で、ミカヅキの心は大きく揺れた。

 猫羽も、生前の記憶――つまり、人間だった時の記憶を覚えている希少な天使だ。猫羽が、思い出した経緯、記憶を保持できた理由を知ることが出来れば、自身が思い出したかった、『死にたいほど苦しかった記憶』を思い出せるかもしれないのだ。ミカヅキにとって、悪い話ではなく、信ぴょう性がかなり高い話でも合った。猫羽のその自信ありげな表情も、ミカヅキの心を揺さぶる一つの要因となった。



「そんな話、聞いたことがない」

「だって、そりゃそうだろにゃ。だって、お前は天使の事なーんにも知らない。ひよっこ天使にゃ。ピヨピヨ」

「……それで、思い出す方法は」

「教えるわけにゃいにゃ。だけど、天使協会の一員として、働いてくれるにゃら、教えてやってもいいにゃ。ボクの専属の部下ににゃるにゃらね」

「ミカヅキッ!」

「分かってる、ちょっと、黙ってろよ。ツバサ!」



 ツバサに、名前を呼ばれ、ミカヅキは口を閉ざした。怒っているんじゃない、焦っているように見えたからだ。だが、それを言うような雰囲気でもなくて、猫羽の威圧感というべきか。それぐらいしか彼を制止できる要素がなかったのだ。

 ミカヅキとて、天使協会に入ることに抵抗があるわけではないのだ。ただ、天使協会が、牡丹を殺したことには変わりがない。やり方は気に入らない。だが、自分の生前の記憶を知りたい。でも――



「それに、天使のお前には≪対天使専門医師トレイター≫の支部の中で、居場所にゃいだろ?」

「……」

「天使が、歓迎されるものではない。それが、まだこの世の中の一般常識にゃ。でも、天使協会は違う。天使を迎え入れ、その上、信仰までしてくれる。何をやっても怒られない、勝手に居場所を作ってくれる。誰も、お前を傷つけない……そんな最高の場所にゃ」

「……でも、アンタらは、牡丹を…………≪対天使専門医師トレイター≫を殺した」

「だって、敵だからにゃ」



 即答だった。迷いもなく、一瞬の空白もなく、猫羽は答えた。ツバサもミカヅキも言葉を失うほどの即答に、ツバサは機嫌悪そうに眉間にしわを寄せる。

 天使と、≪対天使専門医師トレイター≫……相いれない存在で。

 天使である自分が本来いるべき場所にはいなくて、本来いるべき場所ではない≪対天使専門医師トレイター≫に属している。

 ツバサがいるからこそ、居場所がある。それは常々思っていたことだ。ツバサがいなくなったら、どうなのか。それを考えると苦しくないはずなのに、不安になる。

 きっと、この不安は、生前からの不安なのだろう。きっと、人間だった時の自分も、居場所がないことに苦しんでいたのだろう――と、ミカヅキはうすうす勘づいていた。

 自分の願いは、居場所を貰うことなのか、それとも、生前の記憶を取り戻すことなのか。いまだはっきりしない。けれど、彼とかわした約束だけは、覚えている。



「で、どうするにゃ?」

「――ぼ、くは……」



 差し出された自分と同じ真っ白い手。誘惑する天使の皮を被った悪魔に、ミカヅキはくらりと視界がゆがむ。それが、洗脳への、堕落への第一歩のようだったからだ。受け入れなければならない、手を取らなければならないと言われているようだったから。



「……僕は、アンタに記憶を取り戻す方法を教えてもらわなくても、いい。約束したんだ」

「ふーん、誰とにゃ?」

「それは――」

「ミカヅキ?」

「まだ、アンタのことを信用しきっているわけじゃない。それに、≪対天使専門医師トレイター≫の僕たちにとって、アンタらは敵だ。相いれない。それに、居場所なら、自分で作れる」



 怖いけど、こいつがいる限り――

 ミカヅキは、ツバサの方を見なかった。どんな顔を自分が今しているか分からなかったからだ。ただ、ツバサなら、自分の記憶を取り戻してくれるだろうという謎の自信があった。不確定な未来、約束。でも、その約束は固く結ばれている。だって、彼は自分の居場所であり相棒だから。



「面白いにゃ。優柔不断の弱ピヨかと思ったけど、案外座ってるにゃ。いいにゃよ。別に、勧誘なんてする気はにゃかったし…………それに、そっちの方が面白い」

「は?」



 猫羽は、何が面白いのかさっぱり分からないが、ケタケタと笑い出した。

 二人はただじっとして、猫羽を見守ることしか出来なかった。まだ機嫌よく笑っているように見えるが、いつ爆発するか分からない爆弾のような存在で、下手に刺激できなかったのだ。先程の、射殺さんばかりのにらみを利かせられる天使だ。とても、十三歳が放つ殺気ではなかった。



「何が面白いんだよ。ネロ!」

「ボクが求めているのは、『天使病』を広めることでも、天使協会の繁栄でもにゃい――ボクが楽しめる世界だよ。そのために、何人死のうが、殺そうが関係にゃい。それが、楽しければ、ボクはそれでいい」

「……狂ってる」

「だから、馴染めにゃいんだろうにゃ。世界に……ボクは、周りから理解されにゃい。ボクがボクを理解していればいいにゃ。だから、だからね、アリス! ボクを楽しませてにゃ。また、精神世界で殺し合おう? ボクの人生、アリスが愉しくして?」



 ふ、ふふふ、ハハハハハ! と笑い声を上げながら、猫羽はツバサに恍惚とした笑みで話しかける。

 その異常さに、ツバサは引いていたが、すでに敵とみなし、相いれないと割り切ったツバサは、「誰も殺させない……お前の遊戯に付き合ってやる」とその意思を示した。なぜ、猫羽がツバサに執着ともいえる興味を抱いているのか、二人にもわからなかった。初対面のあの時、あの角でぶつかったのがその運命の始まりだったのか、それとももっと昔からか――

 ただ今のままでは、猫羽に勝てる未来が見えない。もっと≪対天使専門医師トレイター≫として経験を積み彼女に立ち向かえるほどの力をつけなければ、すぐに殺されてしまうだろう。猫羽もそんなツバサに興味はないだろうし。



「んふふ、じゃあ、待ってるにゃね。アリス――これから、愉しくなりそうにゃ」



 そう猫羽は、口が三日月形に裂けるほど笑うと、ツバサとミカヅキの胸をぽんと叩いた。






「――しっかし、怖かったなあ……なんなんだよ、あいつら。頭マジいかれてる」

「美学というか、あっちの主張……思想があるんだろうし。まあ、常人には理解できないね」



 アスファルトに黒い影が伸びる、夕暮れ時、車通りの少ない道を歩いていた。白線からツバサは飛び出し、車道に出ており、ミカヅキは、白線の上を歩いていた。

 猫羽との会話後、案外すんなりと開放してもらえ、後をつかれている感じも、GPS的な何かもつけられていなかった。≪対天使専門医師トレイター≫の二人をそう簡単に逃がさないものだおと思っていたが、そこは、猫羽の計らいもあったのか、道中天使協会の人間とは対峙することはなかった。

 猫羽がいかに、天使協会の中で上の立場なのか、その存在を知らしめられたような気がして、やはり、今の自分たちではかなう気がしないと、ツバサも感じていた。まだ謎の多い天使。そして、天使協会の目的――トップに君臨するセラフィムと名乗る天使がいったいどういう思想を持ち、どんな存在なのか、全く見当もつかなかった。



「でもさあ、ミカヅキも、よくいったよな」

「何が」

「だから、手は取らないって。俺、一瞬ビビっちまってさ。ミカヅキが、天使協会に入るとか言い出したらどうしようって」

「馬鹿なの? 入るわけないじゃんあんなところ」

「でも、記憶取り戻したいんだろ? ネロは、その方法知ってるみたいだったし、お前、俺のこと……」

「何?」

「いや、やっぱ、窮屈してんのかなって……居場所。天使が≪対天使専門医師トレイター≫って、異例だろうから。お前も、なんか思うところあんのかなって。ほら、俺が勝手にお前を連れてきて相棒にしちゃったわけじゃん。だから――」



 そこまで、ツバサがいったことで、ようやくミカヅキは察した。



(馬鹿のくせに、負い目感じてるのか……)



 確かに、ツバサとの出会いは衝撃的で、天使人生の汚点ともいえる。そして巻き込まれる形で相棒となり、天使なのに天使を狩る≪対天使専門医師トレイター≫になった。でも、別にツバサを怨んでいるわけではなかった。確かに、最初はむかつくこともあったし、今でもその性格は合わない。正反対、凹凸コンビだ。

 風に寂しく揺れる、彼の鮮血の髪は、やはり夕日よりも赤く、血よりも鮮やかだ。不安げに見つめてくる彼は、馬鹿だが、相手の感情に寄り添えないほど馬鹿ではない。



「別に、いやだって言ってない。それに、まだ約束を果たしてもらってないからな」

「約束……」

「忘れたとは言わせないけど? 約束、守ってくれるんだろ? 相棒なんだから」

「……っ、そうだな。なんか、俺、不安になってたのかもな。お前が、どっか行っちゃいそうって」

「僕はどこにもいかないけど」

「その羽でビューンって! まあ、その心配はねえみたいだし。どっか行きそうだったら、また手錠でつなげばいいし」

「はあ!? あれ、めちゃくちゃ不便だからやめろ。絶対そんなことするな。何処にもいかない、逃げない」

「そうしてくれ、相棒!」

「……都合のいい時だけ」



 ツバサの笑顔を見て、自分も少しだけ頬が緩んだ気がした。笑顔が、『天使病』患者の、天使化した人間を人間に戻してくれるわけではないだろうが、幸せを感じ笑えるうちは、感情が枯れていないということだ。最も、幸せは、何倍にも感じるらしい天使だが、まったくそんな気はしない。些細な幸せを、些細な幸せとして感じている。



「んじゃあ、まあ、とりあえず家戻ろうぜ。つっかれたから、天使協会の話は明日しにいこーな」

「いいのかよ、それで」

「いーの、いーの。俺が決めたし」

「……はあ。まあ、ツバサがいうなら」

「なら、決まりだな! 家へちょっこー!」



と、馬鹿みたいに走り出すツバサ。車道の真ん中を走っていて、ひやひやする。ミカヅキは、白線の上で、アスファルトの坂を駆け上がっていくツバサの背中を見つめていた。彼の背中には、自分のように羽が生えていない。彼は人間だ。だから、彼が人間でいられるように、自分が――



「おーい、置いてくぞ、相棒」

「せっかち。すぐ行く……相棒」



 相棒の背中を追う。ミカヅキは呆れ笑いながら、白線の上を駆け上がった。



 


これにて、第一部完結となります。

第一部は、世界観や主人公たちの目的、これから倒すべき敵が出てきた……というところで終りました。

第二部以降は、天使協会・名を名乗る天使との戦いになっていきます。新たなキャラの登場、掘り下げが出来ていないキャラも活躍します。

相棒として成長していくツバサ&ミカヅキ、(一応)ヒロインのネガウちゃんをよろしくお願いします!


ここまで、お読みいただきありがとうございました。第二部以降も楽しんでもらえるよう、頑張ります!



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