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アンヘルハント~人類に仇なす天使を狩りつくせ!!~  作者: 兎束作哉
第1部 復讐者と記憶なき天使

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Capture5ー3 デート初心者



「完全、完治!」

「よかったなー」

「すっげえ、棒読み。けど、マジでよかった! デートなくなるところだった」

「一応、僕に感謝してよ。栄養剤とか買ってきてあげたんだから」

「感謝してる。すっげえ、感謝してる」

「……ほんとか」



 感謝感謝、と言葉だけ並べるツバサに眉をひそめつつ、自分のせいでもあるから、とその罪悪感から、彼が完治したことにより、少しだけ心が軽くなった気がした。柄にもなく、甲斐甲斐しくツバサの世話を焼いたこの三日間は、ミカヅキにとって、人間らしい生活を送れたのではないかと。天使は人間と感覚が違うため、病気にもならない。腹を出していたところで風邪を引くでもない。自分からなくなってしまった、人間らしさをツバサから得つつ、そんな病人を介護するという天使ではしないであろう行動をした事で、自分が人間だった、人間の心があることをミカヅキは得ていた。自分がここにいる理由として、人間らしい天使だから、というそのアイデンティティを確立しようとしていた。

 ツバサは、そうとは知らず、また、考えることなどするわけもなく、相棒が自分を看病してくれたデートに行ける! ただそれだけしか頭になく、≪対天使専門医師≫の制服ではなく、赤いパーカーに白いインナー、紺色のジーンズに履き替え、寝癖だらけの鮮血の髪を整えていた。



「だっさ」

「ダサくないし! 赤は、ヒーローのカラーだぞ?」

「だから……はあ、まあ、アンタの髪色には似合ってるかもだけど」

「だろ?」

「でも、それで白兎の隣歩くと考えると……」

「映える」

「いや、やめとけ。ただでさえ、白兎は容姿がいいんだから……下手に目立つような」

「――っと、時間。じゃあ、いくな! いってきます!」

「おいっ! 話を……って、本当に、あいつ、あいつ、あいつ!」



 ギィ、バタン、カンカンカン……、豪快にあけられた扉は、外れるくらいの勢いで閉められ、錆びたあの階段を降りていく音が、仲間で響いていた。辺りを見渡して、とりあえず、忘れ物はないな、と確認して、ミカヅキはムッと口を尖らせた。



「僕、あいつの母親じゃないんだけど……」



 看病してからか、ツバサに妙に肩を入れてしまっているようで、世話を焼いてしまっているような気がするのだ。

 これ以上あの馬鹿が、駄目人間になっては困る、そう思いつつも、危なっかしくて目が離せない。まるで、子供を見ているようなそんな感覚だった。純粋で、真っ直ぐで、馬鹿で……だから危なっかしい。どこかで道を踏み外すのではないかと、そんな気がしてならない。

 相棒としての情か、それとも人間として惹かれているのか……どちらにしても、今、ミカヅキの生活からツバサという人間が消えることは考えられなかった。



「馬鹿馬鹿しい……」 



 面倒事は嫌いだ、とミカヅキは首を横に振る。ツバサといると絶対に何かに巻き込まれそうだと確信があった。

 馬鹿脳天気に飛び出していったツバサが、まず家に帰ってこれるのか。デートに失敗するのではないか……そんな不安のような、自分事のように心配してしまう自分がいることに、ミカヅキは困惑していた。



「――誰から、電話……っ、牡丹?」



 そんな時鳴り響いたスマホに、ミカヅキは手を伸ばす。珠埜から祝いにと貰ったスマホであり、その画面には、牡丹の名前が表示されていた。ミカヅキは、少し固まったが、すぐに通話ボタンをタップし、電話をとった。どうやら、相手方の相棒も、自分の相棒の事が気になるらしい。





「ネガウ!」

「遅いわ。十分の遅刻」

「ええ、これでも、早いほうだと思ったんだけどなあ」

「遅刻は遅刻よ。この十分、どうして取り返してくれる?」

「楽しませる!」

「自信あるのね……まあ、いいわ…………どうせ遅刻してくると思っていたし」



 駅の近くの時計の前。ロータリーの近くで、ネガウは待っていた。愛用している時計を確認し、十分の遅刻だと苦言を呈し、ツバサの寝癖が直らない髪と、赤いパーカーを見てため息がまた、こぼれ落ちた。



「服装も、子供っぽい」

「ネガウもカヨ……つっても、これしかないんだから仕方ないだろ? 俺、これ気に入ってるのに、ミカヅキにも、ダサいって言われたし……」

「ダサいとはいってないわ。子供っぽいっていっただけよ」

「同じだろ」



 そういうネガウの服装はというと、白シャツに半透明のカーディガンを羽織り、スキニーパンツにハイヒール。黒いタイツが細さを強調していた。そのスタイルはモデルのように見えて、目を引いた。ツバサのパーカーとは比べものにならないくらいお洒落で大人っぽい。ツバサが見てきたのは、≪対天使専門医師トレイター≫の黒衣の姿で、この真っ白な、まるで天使……いや女神のような姿のネガウは初見だった。あまりの神々しさに、目が潰れてしまうほど、汚れのない姿。だからこそ、自分の服装と比べてしまい、ミカヅキに言われたとおり、隣を歩くのが少し、いやかなり嫌になった。

 いつもより丁寧に編み込まれた、三つ編みには、相変わらず染み一つない純白のリボンが編まれており、亜麻色の髪は綺麗に整えられていた。ネガウも、デートということを意識してくれているのだろうか。そう思うと、喜びが抑えきれなくなり、前のめりになりながらネガウを凝視し勝手に口が開く。



「そのリボン……似合ってるな」

「ありがとう……大切なものだから」

「そう……まあ、ネガウはなんでも似合うけどな! すっげえ、美人だし」

「はあ……もういいわよ。早く行くわよ」



 ツバサはネガウに腕を引っ張られながら、歩き出す。まさか手を繋いで貰えるとは思わず、ツバサは、そのネガウの細い手をぎゅっと握り返した。



「ネガウって、デート初めてか?」

「それを聞いてどうするのよ」

「いや、俺は初めてで。だから、三日間考えたんだけどさ、何すれば良いか分かんなくて。いや、格好悪いよな」

「……別に、格好悪いなんて思ってないわ。誰しも初めてはそんなものでしょ。嬉しいとか、楽しみとか思うと、眠れないのと一緒。妄想だけ膨らんで、実際どう動けば良いか分からなくなるものよ」

「で、ネガウは初めてなのか?」

「……初めてよ。そもそも、あまり人と関わらないように生きてきたから」

「じゃあ、初めて同士だな!」



 いっしょにしないで、と言われるかとツバサは少し身構えていたが「ええ、そうね」と意外にも素直な返事に、ツバサはそっかあ、と頬を染めながら笑った。



「それで、どこに向かってるんだ?」

「焼き菓子店」

「焼き菓子?」

「……甘いもの。数量限定のクッキーが買いたかったの。どうせ、貴方の事だからデートプランなんて考えてきていないんでしょ? だから、私のいきたい所に付合って貰うわ」

「ネガウが楽しいなら、俺はどこでもいいけどな」

「そうじゃあ、荷物持ちさん。今日は付合って貰うわよ」

「えーデートだろ」



 さすがに、荷物持ちと言われるのは心外だ。ツバサは口を尖らし、少しだけ拗ねてみる。その幼い反応にネガウはムッとした表情を作り、無理やり腕を引っ張って、店を早歩きで探し始めた。しかし、大の男の腕を引っ張るのは相当な力が要るはずだ。なのだが、ネガウはもの凄い力でツバサを引っ張り歩いて行く。さすがのツバサでも「怪力!」など、女性に叫ぶのはあれかと思い、渋々ついて行くことにし、見えてきた焼き菓子店の看板を見て「あれかあ……」と呟いてみる。



「いらっしゃいませ」



 カランコロン、と軽いベルの音が鳴りながら入った店内。広々とした空間が広がっており、お洒落なBGMが流れていた。天井は高く、二階まで吹き抜けになっているのをみると、上で買ったお菓子がお茶と一緒に楽しめるようになっているらしい。

 そして、この焼き菓子店の一番の売りであろう焼き菓子の数々にツバサは思わず目を奪われる。クッキーやスコーンなどの甘いものからマドレーヌやフィナンシェなど宝石箱につめられたように並んでいる。棚の上には可愛らしい小箱に入ったラスクや、マフィンなどもあり種類豊富な焼き菓子が並んでいた。



「どれも美味しそうだな……」



 滅多にこう言ったお店に来たことがないため、どれも新鮮で、買えるのであれば全部! といってしまいたくなった。が、その値段を見てツバサは絶句する。小さなマカロンでさえ、三百円近くし、ケーキや、つめられた焼き菓子に至っては、千円はゆうに超えている。



「限定のクッキーを」

「はい、かしこまりました。お客様、とても運がいいですよ。最後の一つです」



と、ツバサが他のお菓子に目が奪われている内に、店員に目的のものを注文していたネガウ。店員が持ってきたのは、宝箱のような小さな黄金色の箱で、中には一口サイズの小さなクッキーが綺麗に並んでいた。



「じゃあ、お会計をお願いします」

「かしこまりました。そちらの、恋人さんは他に何か――」



 女性の店員は、視線をスッとツバサにうつし、にこりと微笑んだ。ツバサは「俺?」と自分を指さし、恋人といわれたことに関して固まっていた。



「いいえ、大丈夫です」

「そうですか。是非、恋人さんとわけて食べてくださいね」



 その固まったツバサの変わりにネガウはきっぱりと断りを入れる。女性店員は、フフ、と小さく笑い会計を済ませる。ネガウはその間、ツバサを睨み、目が合うとふいっと顔を逸らした。

 恋人と間違えられたことに、上機嫌になったツバサは、クッキーを受け取りそそくさと出ていくネガウの後を追いかけた。



「なあなあ、俺たち恋人だって」

「荷物持ちが何はしゃいでいるのかしら」

「荷物持ちっていうなら、そのクッキー俺が持つけど?」

「少し離れた所にベンチがあるから、そこで食べさせてあげようと思っていたのに」

「マジで!?」

「あまり、はしゃがないで。犬みたいよ」

「わん」

「…………」



 無視をされた。ネガウはツバサを置いて、先に行ってしまったため、少し足早に追いかけるとすぐに追いついた。

 歩いている最中も特に会話はなく、少し前を歩くネガウの背中を見つめた。今日の服装もとても似合っていてかわいいな……と思う一方で、恋人と言われたことに対し、恥ずかしがって口を利いてくれないのだろうか、など、不安になりながら歩く。

 しかし、暫く歩いたところで、人通りの少ない海の見えるベンチを発見し、ネガウはそこで腰を下ろした。



「座らないの?」

「いや、怒ってんのかなあって思って」

「怒ってないわよ。貴方と、恋人だっていうふうに見られたのが、少し嫌だっただけ」

「怒ってるじゃん……まあ、隣に座っていいっていうなら、腰下ろすけどさ」

「いってる最中に座ってるじゃない」



 ネガウは、そう言って隣に座ったツバサを見た。



「てか、こんな場所あったんだな」

「穴場スポット……海が見えるし、静かでいいところよ」

「よく、くんの?」

「頭を整理したいときにね」



 そういって、手元にあるクッキーを一つ取り出し、口に運ぶ。どうぞ? と差し出されたので、ツバサはアイシングがかかったクッキーを一つ抓む。口に運ぶと、ほろ苦い味の中に優しい甘みがあり、なんともいえない心地よさがある。



「うま……何個でもいけそう」

「そう、よかったわ。このクッキー、私も好きなの。お母さんが、よく買ってくれたわ。そして、ここで一緒に食べていたの」

「ネガウのお母さん? 仲良いの?」



 ツバサはクッキーを抓みながら、ネガウの顔を覗き込む。母親の話をし始めたネガウの顔は柔らかく、年相応に見えた。しかし、仲がいいのか、と聞いた瞬間その柔らかな笑みも、陰りを見せる。

 パタン、とクッキーの箱を閉じると、ネガウはその箱を優しく撫で、視線を下に落とし、結んだ口をゆっくりと開いた。冷たい潮風が吹きつけ、彼女の長い亜麻色の髪を激しく揺らす。



「……お母さん…………もう、病気でこの世にはいないけどね」





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