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アンヘルハント~人類に仇なす天使を狩りつくせ!!~  作者: 兎束作哉
第1部 復讐者と記憶なき天使
17/41

Capture4ー1 新品制服に袖を通して



「とっどいたあ~~~~っ!」

「……届くっていわれてただろ。あと煩い」

「今から一緒に着て記念撮影しねえ?」

「しない」



 一週間後、ツバサの部屋に大きな段ボール箱が二つ届いた。送り主の所に≪対天使専門医師トレイター≫・第八支部と書かれていたので、間違いなく、制服だろう。免許証については、第八支部の事務の人間からもらい、いち早く≪対天使専門医師トレイター≫であるという証明書を手に入れた。

 段ボール箱のテープをこれでもかというくらい、びりびりに破いたツバサは中から出てきた新品の≪対天使専門医師トレイター≫の制服に目を輝かせていた。



「すげえ、かっけぇ!」

「子供みたいな感想だな」

「だって、かっけぇんだもん。ミカヅキはロマンがないなあ」

「ロマンってなんだ。というか、これを着て外歩くって……コスプレみたいにならないか?」



 自分宛の段ボールをあけ、その中に袋に入ったままの綺麗に折りたたまれた制服にミカヅキは視線を落とす。今時、軍服をもした制服など、普通の高校や中学校で着るはずもなく、普段着としても使いにくい。銀色の装飾が施されている点や、全身真っ黒になるという観点からしても、不審者そのもので、でなければコスプレをしている人間と見間違えられるのではないかと。しかし、この制服が世の中に≪対天使専門医師トレイター≫の証として浸透している以上は着ないわけにはいかない。初めて会ったときの珠埜は、仕事中ではなかったためか、その制服を着ていなかったが、基本≪対天使専門医師トレイター≫は皆この黒衣に身を包んでいた。

 ミカヅキは、気が進まないながらも、それを丁寧に破き、服を脱ぎ、袖を通した。引っかかる羽は縮め、服の中にしまうが、普通の服とは違い、羽を縮込めていてもなんのストレスも痛みも感じなかった。



「……どんな、仕組み」

「何が?」

「なんでもない。てか、それ前後ろ反対」

「うわっ、マジか。あ、ミカヅキ似合ってんな。天使が黒い服着てる」

「……………」



 脳天気なツバサはミカヅキを馬鹿にすることも無く、素直に褒める。最後のは完全に蛇足ではあったが、素直な感想を受け、ミカヅキは気恥ずかしさを隠すようにその制服のフードを被った。

 ツバサもまた着替えてみれば、どこぞのヒーローのようだとテンションを上げる。その様子を見ていたミカヅキは少しだけうんざりとしてため息をついた。



「やっぱり、写真撮ろーぜ」

「面倒くさい」

「何事も、思い出だって」

「脈絡が変だ……って、おい、肩組むな」

「はい、笑え、笑えーハイチーズ!」



 パシャリ、と軽い音が響いてシャッターが落ちる。勝手に肩を組まれ、嫌々ながら、表情を作る暇もなく撮られた写真には、ミカヅキのしかめ面が写っていた。ツバサはというと、満面の笑みでピースをしており、ミカヅキとは対照的な表情だった。その写真をみたツバサは満足そうに頷くと、それを保存する。



「てか、その黒衣……タバコ臭いけど、珠埜先輩の?」

「あっ、そうそう、ちょーっと着てみたけど、やっぱ臭うよな」

「……珠埜先輩なりの気遣い。でも、新品はいってるなら、新品使いなよ」

「確かに。それに、このちは兄の黒衣着るときにはさ、ちは兄に追いついているくらいの≪対天使専門医師トレイター≫になったときにするって決めたんだ。今」

「今……」



 ツバサが着ていた黒衣は、ツバサの背丈に合っていない、袖があまって垂れているものだった。また、かすかに臭うタバコの匂いに、ミカヅキは少しだけ鼻をつまみ、ツバサも吹き出したように笑うと、それを脱いだ。どうやら、新品とは別に珠埜が自身の黒衣を送ってくれたらしい。それも、かなり使い込まれているように見え、今使っている珠埜のものではないようだった。

 ツバサは、それを脱いで、新品の黒衣に袖を通せば、こちらはぴったりとサイズがあったものだった。

 それからも暫く二人で制服をみながら騒いでいたが、ふとツバサが思い出したように呟いた。



「そういやさ、ずっと気になってたんだけど≪合体ユニオン≫って何? いや、あれにちょー助けられてるんだけど、仕組みが分かってなくて」

「はあ……分かってて、この間、白兎との戦いに臨んだんだと思った……≪合体≫。僕もよく分かってないけど、アンタと精神世界で手を繋ぐことによって、アンタの一部になる……的なヤツ」

「≪接続ユニオン≫とはまた別に、手ぇ繋ぐなって思ってたけど、そうじゃなきゃ駄目ってことか。てか、一部って」

「……アンタが馬鹿だから、分かりやすいように説明しただけ。実際に一部というより、アンタの付属品……いや、いち……ともかく、≪合体ユニオン≫したら、アンタか何らかのアクシデントで≪合体ユニオン≫が解かれない限り、剣の姿を保てるってわけ。他の≪救護隊員セイヴァー≫の≪心強≫と違って、手を離しても解除されなければ、ブーメランみたいにとばすこともできる。≪心強≫は手から離した時点で一度消滅するし、同時に二つは作れない」

「えーまあ、つまり、ミカヅキの意思はあって、≪救護隊員セイヴァー≫だけど≪心強≫が使えない俺の≪心強≫代わりがミカヅキってこと?」

「まあ、そうなる……と思う、多分。でも、アンタが≪心強≫を使えないのもちょっと気になったり……いや、正規法で精神世界に入っていないからこそのイレギュラーか」



と、ミカヅキはぶつくさと言っていたが、ツバサはそれらを全く気にする様子はなかった。ミカヅキ自身、初めての治療でも無意識に≪合体ユニオン≫すれば、という方法が頭に浮かんだ。自身も、なんとなくに使っている≪合体ユニオン≫の詳しい仕組みについて、把握し切れていなかった。≪合体ユニオン≫により、身体が剣に変わり、剣の状態でも意思疎通ができ、尚且つ痛覚があるということだけは分かった。しかし、それ以外は分からない。これらは、シンクロ率と何か関わりがあるのだろうと、ミカヅキは思うが、今のところ、調べようがなかった。



「――っと、ミカヅキがいれば俺は最強ってことだな」

「飛躍しすぎだろ……まあ、アンタは僕がいなきゃ何も出来ないってことには変わりないし、そうかも知れないけど」

「俺たち二人で最強ってことだな」



 ツバサはニッと笑って、親指を立てそれをミカヅキの前に押し出した。ミカヅキはそれを見て固まっていたが、どうやらグッドサインを返して欲しいという意思だったらしく、渋々親指を立てて、ツバサの拳にそれをコツンとぶつけた。



「これからも、よろしくな。相棒」

「……それ、何回も聞いた。はあ、でも、しばらくの間は付合ってあげる。仕方ないから」



 ミカヅキは、天使の自分に居場所ができた、と心の中では思いつつも、ツバサの性格を知っているからか、それを表には出そうと思わなかった。実際、天使という存在を嫌っている人間の方が殆どだろう。この認めて貰える空間にいることが、当たり前だと思わないよう、自分を戒める。

 そして、記憶を取り戻し、天使から人間に戻る方法を探そうとも心の内では考えていた。果たして、天使が人間に戻れる日が来るのか――

 ピンポーン。



「……やっべ、そういえば、今日。俺たちの初任務……治療の日だった」

「忘れちゃいけない事忘れてるだろ。ほんと、馬鹿」

「いやいや、まあ、着替えたところだし。お迎えが来たってことで、いくぞミカヅキ」



と、ツバサは慌てたように飛び出していく。その際、免許証を忘れていくので、ミカヅキは自分のとツバサのをポケットにしまい立ち上がる。



「お二人とも、おはようやね」

「おはよー、牡丹。その黒衣新品? 似合ってる」

「あんがとう。有栖くんも、ようにあっとるで!」



 錆びたドアノブをあけたその先に待っていたのは、牡丹で、彼女もまた≪対天使専門医師トレイター≫の黒衣に身を包んでいた。彼女は、腰にグレーのウエストポーチをぶら下げていていた。



「ああ、ミカヅキくんも、おはよう」

「……ん、おはよう」



 ミカヅキは、視線を逸らしつつ、笑顔で挨拶してくれた牡丹に挨拶を返す。

 今日は、正式に≪対天使専門医師トレイター≫になってからの初治療日である。まだ、未成年の≪対天使専門医師トレイター≫ということで、二組で一チームになって治療を行うらしい。勿論、もう一組は牡丹とネガウなのだが……



「てか、ネガウは?」

「ああ、ネガウちゃん……さきにいっとるって、いってたんよ。あの子恥ずかしがり屋さんやから」



と、牡丹は少し困ったように笑うと、赤紫色の髪を耳にかけ、頬をかいた。




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