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アンヘルハント~人類に仇なす天使を狩りつくせ!!~  作者: 兎束作哉
第1部 復讐者と記憶なき天使
16/41

Capture3ー5 三角関係



「――おい、起きろ馬鹿。いつまで寝てるつもりだ」

「んがっ! お、おい、また鼻抓んだだろ!?」

「起きないから……はあ、まあ、精神世界であれだけ攻撃を受ければ、無理もないけど」



 息苦しさで意識が戻る。

 目を開けるとそこにいたのは、白髪の美しい美女――ではなく、相棒の男・ミカヅキで、ツバサが目覚めると、ムッと口を歪めつつも、どこか安心しきったような顔で「馬鹿」と一言いって離れる。

 あの、疑似精神世界にてホイッスルが鳴り響いたのまでは覚えている。しかし、その後プツンと意識が途切れたような感覚があった。自分がいったいどれほどの時間気を失っていたのかと、ツバサは身体を起こそうとする。するとまた、あのズキンとした痛みが頭を襲い、今度はそれだけではなく、身体の怠さも感じ、視界も歪んでいた。ミカヅキのいうとおり、精神世界でかなりダメージを受けた影響もあるのだろう。この間の治療でも、かなりダメージを喰らっていたと思っていたが、今回は桁外れだったようだ。



(つーか、手のひらでレイピア受け止めたもんな。現実世界だったら、一生の傷だぞ)



 自分の両手のひらを確認するが、そこにはレイピアで貫かれたような痕はなく、しかし、指を曲げると痛みが走り、ツバサは顔を歪めた。

 精神世界においても”死”は存在する。だがしかし、精神世界と現実世界の勝手も、ルールも少し異なり、精神世界で受けたダメージが人間の身体そのままに適応されるわけではない。けれど、”死”という概念を忘れてしまえば、それはもう人間ではないのではないかと。



「ネガウちゃん、大丈夫?」

「――……ええ、大丈夫よ。牡丹」

「うちが、もっと念じていたら、よかったかんね……」

「いいえ。不覚をとった私が悪いわ」



と、隣で覚醒したネガウと、相棒の牡丹が話している姿が見え、ツバサとミカヅキはそれを覗くようにして二人をみる。


 牡丹は、自分の力不足のせいだと、ネガウの安否を確認しつつも泣きべそを掻いており、それをネガウはあやしていた。≪救護隊員セイヴァー≫と≪誘導隊員セージ≫の関係、繋がりというのも、まだ深く研究されていないもので、シンクロ率というのも数値として出るものの、そもそも100%を越えたものがいないのだとか。何が、シンクロ率を高める要因となるか分からないため、一緒に行動させている、それが一番シンクロ率を高める方法だといわれているが……



「二組ともお疲れ様。数値もばっちり取れたわ」

「帽子さん……」

「これは、ただのトライアル。こんなので、落としたりはしないわ。第八支部の≪対天使専門医師トレイター≫の数を見れば分かると思うけど……で、結果だけど、白兎さんと牡丹さんのシンクロ率は65%、有栖くんとミカヅキくんのシンクロ率は60%ね。でも、最後……あの瞬間だけ75%を叩き出していたわ」

「ほへーそうなんですか。参考にします」

「……何を参考にするのか」



 シンクロ率を聞かされても、やはり、数値でしかなく、その数値を上げた理由が分からないので、実感がなかった。しかし、新人にしては一番高い数値だったので、嬉しく思う反面、この数値で本当に大丈夫かとツバサは疑問に思った。数値は、たかが数値なのである。



「でも、有栖くんとミカヅキくんは訓練が必要ね。あと白兎さんは――」

「……」

「まあいいわ。後にする。疲れたと思うから、各自解散で。また、後日もっと詳しい結果と、免許証、制服を送るからね。あと……免許証が送られてくるまでは、勝手に『天使病』の患者を治療しないこと。こっちも把握できなくなるからね。特に、有栖くん」

「は、はい……」

「貴方が一番危険。ヒーローになりたいって夢は、別に悪くはないと思うけど、貴方の独断で治療をしないように。これだけは守ってちょうだい」

「うっす……」



 帽子に、釘を刺され、ツバサは反省をする。夢を馬鹿にされなかっただけマシだが、こむぎの母親を治療したことは、帽子にも伝わっているのだろう。その事を指摘されたらしい。

 帽子から発される威圧感に威圧されながら返事をすると、帽子はふぅ、と息を吐いて部屋を出ていった。



「……有栖くん、ミカヅキくん。二人ともすごかった!」

「牡丹。ああ、今回のこれって、こっち側で見えるんだっけ?」

「そうなんよ。初めて、精神世界で戦っている人達のこと見えて! バババーンって、ドドドーンって! すごかったんよ!」



と、子犬のようにやってきた牡丹は、二人をみて目を輝かせた。


 調子に乗りやすいツバサは頭を掻いて「そうか?」と喜びを隠しきれないように笑っていたが、ミカヅキはそうでもなく無表情だった。



「何はともあれ、二人ともおつかれさま! いえーい!」



 そういって、牡丹が二人にハイタッチをしようと手を掲げれば、ツバサもミカヅキもその行動に驚く。そして、互いに目を見合わせると、じゃあ……といった感じでハイタッチを交わした。それを見た牡丹は嬉しそうにニヒヒッと笑う。まだ子供っぽいところのある牡丹に、二人は思わず笑ってしまった。



「……はあ、全く。はしゃぐなんて子供」

「ネガウ! なあ、ネガウは、大丈夫なのか?」

「……別に。貴方のように、傷を負ったわけでも無いし、とどめを刺される前に、試験は終了した。なんともないわ」

「それは良かった」



 それまで黙っていたネガウは、立ち上がり、亜麻色の髪を揺らしながら、ツバサたちに近付いてくる。その足取りも、何の違和感もなく、彼女は、なんのダメージも負っていないようだった。ミカヅキは、そりゃそうだ、と先ほどの事を思い出しており、攻撃を喰らっていたのは、自分とツバサだけだったと、ツバサの方を見た。しかし、ツバサはかっこつけたいのか、本当に大丈夫か? とお節介なくらいに絡み、ネガウに手で払われる。



「でも、不覚をとったのは事実……弱いといったのは訂正するわ」

「そうか、俺強い? まあ、ちは兄もその才能を――って、ネガウ?」

「貴方」

「……何?」



 ネガウは、ツバサに目もくれず、ミカヅキの前にくると、ミカヅキを直視した。

 そして、ゆっくりと手を伸ばし、ミカヅキの顔に触れようとしたが、それも一瞬でパッと手を戻すと、「やはり」といった様子で言葉を漏らした。



「……人の顔ジロジロと見て、何だよ」

「おおい、ミカヅキあんま、食ってかかるような……」

「貴方……ミカヅキ、だったかしら。想像以上でびっくりした」

「は?」

「天使も色々いるのね。確かに、聞いたとおり『自我持ち』だったけれど……想像以上だったわ。貴方の事は認めてあげる」

「はあ? 何上から……」

「ちょちょい、俺は?」



と、ミカヅキにばかり興味を寄せるネガウに、自分を指さし、ツバサは自分はどうなのかと聞いた。しかし、彼女のオパールの瞳にツバサなどうつっておらず、ネガウはミカヅキをただじっとみている。



「貴方は、論外。私ね、馬鹿は嫌いなの」

「ば、馬鹿……?」

「……馬鹿だろ」



 馬鹿扱いされたツバサと、その横で同じ様に馬鹿呼ばわりしたミカヅキをみて、ネガウは、肩に掛かった亜麻色の髪を払うと何も言わずそのまま部屋を去っていった。置いていかれた二人はというと、ポカンとしており、最初に我に返ったのはツバサだった。そして、怒りだした。



「ずるくないか?」

「ずるいって何が……?」

「お前、ばっかり、ネガウと喋ってさあ!」

「いや、僕、別にあいつと喋ってないし……てか、ああいうタイプ苦手」

「じゃあ、なんで俺喋りかけられねえんだよ」

「……馬鹿嫌いって言われただろ、さっき」

「俺、馬鹿じゃないもん」

「子供か……そういうところが、馬鹿っぽいんだ」

「…………美女に、ちょっと興味もたれたからって、偉そうに」



 と、ツバサが嫌味ったらしく言うと、ミカヅキはただただ鬱陶しそうに顔を歪めた。それから暫くぎゃあぎゃあと言い合っていた二人だったが、こればかりは仕方がないし、馬鹿なお前に何を言われようが知ったことではないと思っていたので、ミカヅキは無視を決め込んだ。


 ただネガウの興味が自分ではなく、ミカヅキに向いたことは、本人自身も少し驚いているようで、何故自分に? と、≪対天使専門医師トレイター≫なのに、天使に興味を持つ人間がいるのか、と不思議がっていた。いや、それよりも――



「――もしかして、三角関係ってやつなん!?」

「は?」



 ポンと手を叩いて、目を輝かせていたのは牡丹だった。カチューシャの飾りが取れそうなくらいキャーと、一人妄想に浸っているようで「そういうことやんな」と、連呼している。



「さん、かく……かんけい?」



 ポツンと、理解できていないツバサが呟けば、ミカヅキが説明を入れる前に、牡丹がツバサの手を取る。



「三角関係っていうのはやね、恋愛の中での複雑な関係のことで……同時に同じ人のこと好きになって奪い合うことなんよ!」

「それって、さんかくっつうか、一人の女性をかけて二人の男が争う的な? なんか、バトロワみたいな……?」

「うーん、ちがうんやけど……」

「てか、俺がネガウを好きで、ネガウがミカヅキのことが好きで……ってなったら、一方通行。いや、ミカヅキが俺の事好きだったら、三角になんのか」

「それもありやね」

「いや、ありじゃないだろう……てか、僕は別にこいつのこと好きでもなんでもないし」

「ミカヅキは、俺の相棒じゃなくて、恋のライバルだった?」

「はあ…………付合ってられない」



 三角関係、恋愛云々で盛り上がる二人を白い目で見、ミカヅキはいい加減面倒くさくなると、二人をおいて部屋から出ていくことにした。

 ミカヅキがいなくなれば、二人は互いに顔を見合わせてキョトンとする。そして、ミカヅキを追いかけるように部屋を出た。



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