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アンヘルハント~人類に仇なす天使を狩りつくせ!!~  作者: 兎束作哉
第1部 復讐者と記憶なき天使

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Capture3ー2 新人はじめの一歩



「≪対天使専門医師トレイター≫の正装は、後日家に届けるからそれまで待っていなさい。それと、天使の羽についてもストレスがかからないような服設計にして貰うから、ミカヅキくんは天使だから、って気にしなくていいからね」

「はい」

「ありがとうございます。帽子さん」

「次に、≪対天使専門医師トレイター≫講習があるから、三十分後、B会議室に集まってちょうだい」



 珠埜と祝賀会をあげた翌日、≪対天使専門医師トレイター≫・第八支部にて、軽い体力測定と健康診断を受け、≪対天使専門医師トレイター≫の制服の採寸をして貰った。体力測定は、中高学校で行うものと何の変わりもなかったが、いくつか項目が違うものがあり、健康診断に関しては、再審のVRを用いた神経の乱れについて図られ、恐怖感やや吐き気を覚えるような映像を見せられた。≪対天使専門医師トレイター≫が精神世界にて戦うということもあり、精神関係の項目については特に詳しく検査を受けた。ツバサは、支部長である煙岡から適性があると認められてはいたものの、平均の数値しか出せず、適性はあるが、最適ではないというなんともいえない結果となっていた。ツバサはその結果に関して、「まあ、なれるならなんでもいいや」程度にしか思っていなかったが、ミカヅキは天使だからか、そこまでどんな映像を見せられようが、精神に乱れが生じることがなかった。人間と天使では違う、というその感情に着目し、また定期的に、VRを用いて検査を受けて欲しいとのことだった。


 天使の自分が、あの黒衣に身を包む姿を想像できずにいたが、羽を収縮するのも折りたたむのもストレスがかかると最近気づき始めたので、どういう設計になるか分からないが、ストレスのかからない制服を作って貰えるのはありがたかった。


 代わる代わる、白衣を着た研究員達がツバサとミカヅキの結果をまとめ、それを見届けてくれたオリーブ色の美しい髪を一つに束ねた女性・帽子碧花は、三十分後に、講習があるというと静かに二人の元を去ってしまった。カツカツと、黒いヒールを鳴らし、黒いストッキングに包まれ、スラリと伸びる細くも太くもない絶妙な肉付きをした長い脚を動かして歩いて行った。

 ツバサは、帽子が立ち去ったと同時に大きな欠伸を漏らした。朝から慣れない試験や採寸があったせいか、少しばかり疲労感に襲われていた。その様子を見てミカヅキは、昨日興奮しすぎて眠るのが遅かったせいだと呟きつつ、帽子の後ろ姿を見つめていた。



「なになに~ミカヅキ、さてはお前年上のお姉さんが好きな感じか?」

「はっ!? 何で!?」

「いや、昨日同年代の女の子に興味ねえって感じだったから、もしかして年上が好きかと思って」

「発想が単純すぎる」

「でも、見てたのは事実だろ? 帽子さん、めっちゃスタイルいいもんなあ。胸もでかいし! ……ああ、でも駄目だぜ。帽子さん、煙岡さんの事好きだから」

「別に、何も言ってないだろ」



 ツバサにまたウザ絡みされ、適当にあしらおうとしたが、自分は年上好きだとレッテルを貼られてしまったため、違うと反論した。しかし、反論すればするほど、ツバサは「怪しい」といってくるので、これは駄目だと、ミカヅキは顔を歪める。



「つっても、煙岡さん、妻子持ちだし、帽子さんの片思いってやつ? でも、煙岡さん……妻も、子供も亡くしてるから。あれだけど」

「……」

「帽子さん、愛人枠だな!」

「声が大きい……てか、若そうに見えたけど、帽子……さん? 何歳なの?」

「おっ、やっぱり気になんの?」

「だから、違う……そういうのじゃない。ここで働くに当たって、重役の人のこと知っておこうと思っただけだ」



 確かに、帽子は重役であり煙岡の相棒≪誘導隊員セージ≫だ。普段は、第八支部で働く≪対天使専門医師トレイター≫たちの体調・精神面のケア、管理をしており、煙岡が不在の時には、彼女が副支部長として指示を出す役割を担っている。第八支部には、≪対天使専門医師トレイター≫が少ないといえど、帽子の仕事量は少ないと言いがたく、寧ろ多い方で、支部に寝泊まりをしているとツバサはいっていた。

 ここで働くに至り、これからも関わる人間だ、とミカヅキは彼女の情報が単純に欲しかっただけだった。



「あっそう? いやでも、怪しいな……」

「いい加減にしろよ」

「はいはい、そーいうことにしといてやるよ。ああ、んで、帽子さんの年齢な? 帽子さん、三十五歳だぜ。因みに、煙岡さんは四十歳」

「……お前、歩くスピーカーか? 人の個人情報ぺちゃくちゃと。普通、女性の年齢聞いても堪えないものだぞ」

「お前が教えろっていってきたんだろーがよー! てか、聞いてきたのはミカヅキだし、お前も同罪だー!」



と、ツバサは笑う。ミカヅキは、この馬鹿の事だ、聞けば何でも教えてくれるんだろう、とまたため息をつく。



「帽子さんとは、長い付き合い? だからさ。ちは兄とかと一緒で。大人に囲まれてきたのは事実だから、同年齢の友達っつうか、喋れるヤツが欲しかったからさ。ミカヅキも、今日、顔合わせる≪対天使専門医師≫の女子達のことも楽しみにしてるんだぜ?」

「大人たちにって……アンタ本当に」



 ツバサの性格で、学校にいる間友達ができなかったのとか聞きたくなったが、なんとなく聞いてはいけない気がしてミカヅキは口を閉じた。興味がある、というより気になるのは自分の記憶に関することだけ。ツバサ自身には興味がなかった。深入りしても、面倒なだけだと、ミカヅキは極力入り込まないようにと心がける。ツバサとは、自分が記憶を取り戻した時点で相棒を解消する予定である。それがいつか分からないため、また記憶を取り戻したところで、人間に戻れる保証もないため、未来の予定についてはまだ不明確だが。いずれ訪れる別れを、今から考えても仕方ない、しかし、ツバサと同じ年齢だろう自分には、きっと親がいて、その親が探しているかも知れないと思うと、痛むはずのない胸が痛かった。



「……てか、ここって結構広いんだな」

「第八支部? まあ、他の所行ったことねえからわかんねえけど、こんなもんなんじゃね?」

「シャワールームに、ジム、食堂まであった」

「色々気になるよなあ。俺もあんまり詳しいこと知らねえから、今度一緒に散策するか」

「怒られるだろ」

「大丈夫だって。ここで働くことになったら、てか≪対天使専門医師トレイター≫の免許証? も、もうすぐ発行されるし、それがあればこの支部に付属してる全施設使い放題なんだからさ!」

「それは、助かるかも」



 ツバサは、免許証が早く欲しいなーと呟いていたが、ミカヅキはさきほどちらりと見た食堂が気になっていた。社食まであるのか、と感心しつつ、その食堂からカレーやラーメンの匂いが漂ってきて、思わず足が止ったのは言うまでもない。天使になり、腹が減る、という感覚はなくなったが、元人間だからか、食欲が完全になくなったわけではなく、形として食事をする事は出来るのだとミカヅキは思った。自分自身、天使の身体になれていないこともあり、分かっていることとすれば、苦しみや悲しみといったマイナスの感情を感じなくなったことと、痛みを感じないということだろうか。また、人間の三大欲求も機能していないようで、まねごとはできるが、それらが刺激されることはないと。天使が研究の対象になるのも納得がいくと、ミカヅキはあらためて、自身の存在について考えるべきだと思い始めていた。



「てか、制服……珠埜先輩のおさがり貰うんじゃなかったの?」

「んーそれも貰うつもり。でも、ちは兄ってタバコ吸うから、ちょっと臭いかもって。ああ、本人が言ってたから! 悪口じゃないぞ?」

「……どーだか」



 珠埜がタバコを吸うタイプには見えなかったし、後輩の前ではかっこつけたい、格好いい先輩でいたいとノンアルコールを選ぶ人間だ。自分たちがいる場でタバコを吸ったりはしないだろう。しかし、顔に合わないな、とミカヅキは想像する。



「似合わない」

「え? 何が?」

「……珠埜先輩がタバコ吸うの、似合わないと思って」

「俺も、思う。けど、伊鶴さん……のお兄さん、ええっと、ちは兄の元相棒が吸ってたからって、同じの吸ってるらしい。つっても、その元相棒さんの吸ってたタバコがかなりきついのらしくて、一回吸ってるとこ見てたんだけどめっちゃむせ込んでた」

「……相棒の、か」

「ああ、あと、単純に煙岡さんがヘビースモーカーで、ちは兄『タバコ吸える大人格好いいだろ』とかいってたから、真似してるんじゃね?」

「アンタは吸うなよ」

「分かってるって。てか、未成年だし」



と、ツバサはヘラヘラと返した。


 さすがに常識は理解しているか、とミカヅキは思いつつも、ツバサのこれまでの言動は全て憧れの存在である珠埜を模したものだとミカヅキは薄々気づいていた。兄弟みたいだ、とぱっと見思うが、その実、多分ツバサが背伸びして珠埜を真似しているだけだと。本当に、どこまでも子供で、純粋なツバサに呆れ以外の感情を抱けなかった。



(……その憧れの存在がいなくなったらどうするんだよ)



 座学嫌だなあー勉強したくないなーと、子供のようにわめくツバサを横目に、ミカヅキはこの間の治療について思うところがあった。人間の精神というのは、人工的に繋ぐことができるのか。そもそも、精神世界のからくり、≪対天使専門医師≫という精神世界には入れる人間のイレギュラー性。科学では証明できないこのシステムを使い続けても大丈夫なのか。

 一番は、『天使病』という、死にたいという思いが人間の心にあり続ける限り、再度発症する病気を治療し続けることに意味があるのか。無意味に意味を見いだそうとしているこの仕事について、『天使病』について、知りたいと。



「てか、講習受ける前に、トイレ行きてえから、先いっててくれ」

「は? 僕を一人にするつもりか?」

「なーに、ミカヅキさみしんぼうか? 連れションいいけどさ、天使ってトイレ行くの?」

「……排泄とか、しない」

「じゃあ、トイレの前で待っとけよ。さすがに、ションベンしてるところ見られたくねえし」

「乙女か」



 恥じらう必要ないだろ、とミカヅキは突っ込んだが、突っ込む前にツバサはピューとトイレに駆け込んだ。



「男同士なのにな……」



と、今のはジェンダー発言か、とミカヅキは、トイレの前の壁に背中を預けつつ大きな欠伸をした。眠たくないはずなのに、確かな睡魔と瞼に重みを感じ、帰ってくるまで、目を閉じているか、とミカヅキは瞳を閉じた。




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