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クソデカボイス騎士様のお小言

この世界には魔物が存在する。

魔王軍の設置したポータルから無限に湧き出てきて、遭遇した人間に襲いかかるたぐいのものだが、地域によってその特性と強さは違う。

私はマッピングスキルで低レベルの魔物がいる地域を調べ、フィールドワークを続けていた。

このスキルは勇者から与えられる能力で、異世界転生特権では無いらしい。

私にも何か固有の能力があれば良かったのだけど、魔術の適正があっただけマシかもしれない。

城を出て2ヶ月。魔物に関する報告書は城にいる防衛大臣に送り続けている。

今借りている下宿に大臣からの調査依頼が届いているし、私が職務放棄したとは思われていないようで安心した。

この2ヶ月知り合いには会っていない。

たまに勇者パーティのみんなは元気にしているだろうかと考えるけれど、元々役割があった彼らのことだから、心配するような事は起きていないだろう。

勇者ちゃんの動向はこっちの地域まで新聞に載っているから、各地を飛び回っているのがわかる。

この世界の印刷技術が優れていて良かったと感心せざるを得ない。

江戸時代の日本みたいな感じだろうか。この国は安価に紙の本が作れて、国民の識字率が高い。

私もポーションのレシピ本でも出そうかな。

そんな風に気軽に考えられるのは、とてもありがたい。


魔物討伐のノルマを終えて宿に戻る途中、街道の向こうから騎士団の騎馬隊が見えた。

10人前後の小隊の様で、その先頭に見知った銀の甲冑が見える。

私はマナーに乗っ取って道の端に寄って、騎馬隊を見送ろうと頭を下げた。

隊が目の前を通り過ぎる。

やっぱり気づかないか、などと思っていると10mほど先で隊の先頭が止まった。

1人の騎馬兵が馬をおり、銀の甲冑を光らせて駆け寄ってくる。

私が逃げようか逡巡している間にすぐ近くまで来た彼は、軽く息をつきながら声を掛けてきた。

「お久しぶりです。俺のことは覚えておいででしょうか」

爽やかぜんとしたいかにも好青年の彼は、兜を脱いで私を真っ直ぐ見てくる。

栗色の短髪に青い目を輝かせたイケメンで、騎士らしく体躯に優れていて、チビの私は首を反らして見上げてしまう。

「…はい、お久しぶりです。騎士様」

「ああやはり魔術師殿でしたか。何故このような場所に?」

「まあ、はあ、仕事で」

あまりの眩しい好青年ビームにどもった返事をしてしまう。

「城での宴会にいらっしゃらなかったので、翌日家を訪ねに行ったんですよ?」

「あぁははは、すみません」

実は居たんですよ、などと会話を広げる受け答えをするつもりは無い。部下さん達の視線が痛いので早く切りあげませんか?

「今、魔王軍の残党討伐を手分けしているところです。貴方も是非加わってください」

隠居して遊び呆けてると思われたんだろうか。

語気強めで言われ、少し気圧されてしまう。

「大臣に報告書は送ってるんですけど、届いてませんでしたかね?今任務の最中で」

「大臣?サミエル卿に手紙を?彼からはひと言も……いや、無口な彼ならあるいは、貴方からの手紙が来ても我々に報告しないか」

騎士様が合点がいったような様子だ。彼らだけに働かせて私は趣味に没頭しているなんて思われたらいたたまれない。

「魔術師殿は今どちらに?」

「ああ、この先の町で宿を取ってます」

「その宿が何処か聞いても?」

めっちゃグイグイくるじゃん。騎士様ってこんな人だっただろうか。

2ヶ月も音信不通で信用無くなってるんだろうか。


ふと、騎士団の中から、魔術師風の女性がこちらに走り寄って来た。

「騎士様、そろそろ行きませんと」

「ああ、すみません。アリス殿、こちらは魔王討伐隊にいた魔術師殿です」

緩くウェーブのかかったクリーム色の髪に白いローブを身につけた彼女はアリスと言うらしい。

「魔術師殿、彼女はあなたの後任に抜擢された者です」

「初めまして魔術師様」

後任が居るとは聞かされていなかった。でも確かにパーティから抜けて残党討伐をやっていなかったのだから、当然後任が入るだろう。

大臣は意図的に私に伝えなかったのか、それとも必要事項だけ言って忘れていたのか。

後任がいるなら騎士様の要望は不要だろう。私が討伐隊に加わる意味は無い。役割は分担しなくては。

私は後釜の存在に安心感を覚えた。

確かに自分の存在価値を脅かされる不安はあるけれど、それよりなにより、責任から逃れられる事に安心してしまったのだ。

勇者パーティにいたくせに情けないと思うけれど、私より優秀な人が入ってくれるならその方が良いに決まってる。

「引き継ぎが出来なくてごめんなさい。もし後任で分からない事があれば、大臣から私に連絡をください」

私がそう言うと、すかさず騎士様が口を開いた。

「魔術師殿はそれで良いのですか!?」

声を荒らげた美丈夫は迫力がある。

私は半歩後ずさって、心の中で少し泣いた。

「で、ですから、大臣から依頼をもらってその調査の最中です。私の所在地が知りたければ、大臣から聞いてください!」

半ば逃げるように踵を返し、魔術でブーストをかけて街の方へ走る。

「必ず伺いますから、宿で待っていてくださいね!!」

遠ざかる騎士様のクソデカボイスが背中に突き刺さった。

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