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冬のくろい影〜ゲントウくんはこれからどうしたらいいか悩んでいます〜  作者: おちゃつばめ
ゲントウとルーナと仲良くするには?編
7/23

第6話「獣」

(アベリアの回想)


男の人は嫌いだ。


頭悪くて情けなくて自分勝手でそのくせ、俺たちの方が女より偉いと信じ込んで見下してくる。


女はもっと嫌いだ。


そんな頭の悪い男がいないと生きいけないような自分のない奴だ。


女同士で張り合い、口を開けば男に言い寄られてる事の自慢で会話は埋まる。


男に媚びに学校に来ているようにしか見えない。


そう思うのは親の影響もあるのだろう。


母は毎晩のように香水のきつい匂いを振りまいて、酒に酔った男と一緒に帰ってくる。


母は肉感的で、肌の露出の多い服を好んで着て仕事をしていた。


男は続柄では父親なのだろう。


しかし男は父と呼べる相手では無かった。


母の再婚相手で、血は繋がって居なかった。


ただ、アベリアとは血が繋がっていないからという理由から嫌いというわけでもない。


普段はほとんど会話はなかったし、お互いに興味はないように感じていた。


ただ、母が仕事が遅くなり男が1人酒を飲んでいる時は大きい声でアベリアに干渉することはあった。


お酒や酒のつまみが足りなくなると男の部屋に持ってくるように遠くから命令してくることが多く、夜は憂鬱だった。


学校の勉強しているタイミングも多くやりたくなかったが、過去にお酒を持っていくのが遅くて殴られたことがあり、怖く断れなかった。


そんな緊張感のある家庭で、心が休まらずアベリアは苦しんでいた。


母がいる日でも心は落ち着かなかった。


男と恐らく血が繋がってるであろう母との、夜の営みの声がほぼ毎日アベリアの部屋まで聞こえてくる。


自分勝手で自分の欲望をコントロールできない一緒に住んでいる大人を獣のように感じていた。


アベリアの中で性の営みは最も嫌悪するものになった。


不幸なことに今、家にいる母の形をした人とは、血が繋がっているらしく


成長期には母のようにアベリアは胸も大きくなり、自分の容姿が男を誘っているようで自分の事が酷く嫌いだった。


3年我慢すればこの家を出ていくことが出来る。


そう奮い立たせ耐えてきた。


そうしてアベリアは2年間頑張った。


アベリアの夢は教師だった。


それしか思いつかなかっただけだが、勉強するだけでなれる公平さには惹かれていた。


夜寝れないのも自分のプラスになると考えるようにした。


いつしか、勉強に集中できるようになり、その時外部との音が遮断されるようになったことでよく寝れるようになった。


母の仕事が遅くなることもほとんどなく、ストレスだらけの日から少し解放されつつあった。


そんなある日の事だった。


珍しく母は仕事が遅く、父と2人だった。


勉強していると机をバンバンと2回叩く音がして


アベリアー!と遠くの方で声が聞こえた。


すぐさま氷で冷やしてあった酒の3種類ほどを持って男の部屋に向かった。


部屋に入り、酒を父の前にある机に置いた。


そのまま立ち去ろうとすると


お前が酒を注げ


と、グラスを突き出して言われた。


男の横に行き怯えながら酒を注いだ。


男はゔーんと息を吐いて飲んだ。


背を向けて部屋に戻ろうとした時


カサカサっと服がこすれる音がしたのまでは覚えている。





アベリアは戻ろうとしている所を後ろから抱きつかれ、胸を触られた。



アベリアは固まったまま動けなかった。


声も出さなかった。


男はそのまま覆いかぶさりアベリアの服の中に手を入れようとした。


その時、体が反射的に拒絶を示し男の手を振り払った。


しかし男は力が強かった。


顔が近く酒臭い匂いが気持ち悪かった。


そばにあった瓶をつかみ男の頭を殴った。


鈍い音と鋭い男の悲鳴が聞こえた後


男は静かになった。



死んだと思った。



かと思ったら男の呼吸音が聞こえ


ぐったりとしていた。


寝ていたと分かりほっとする。


酔っ払っていたとはいえ、自分が最も嫌っている男から性的な目を見られていたことがショックだった。


私はあの獣の性的対象なのだと。


汚されたという思いが心を埋めた。


走って部屋に戻り、1つの決意をした。


もう、家から出よう。


幸い、リーサ学園には寮があり働いたら生活もできるだろう。


次の日、空きがないか学校に問い合わせ、家から盗んだお金を払い寮に住むことになった。


全てよくある話だと、言い聞かせ新たな生活に向かう。



――――――――――――



アベリアは学校は嫌いではなかった。


家よりは、だが。


しかし、自分が行動しなければ誰かに干渉を受けることはなく楽ではあった。


友だちもいなかったわけでもない。


ただ、私の性格のせいか、人はすぐ離れていく。



結局、1人が楽だと。


他人に甘えているのは私には合わない。


そう捉えていた。


ある日クラスでいじめが起きていた。


被害者は私だ。


いじめっ子はクラスの女の子。


よくある話。


最初はいじめの内容より、他人が干渉してきたことが嫌だった。


机が廊下にあるだとか、落書きがあるとか幼稚なものだった。


反応がないのが苛立ってきたのかいじめもエスカレートしてきた。


その日は放課後に廊下で、頭から飲み物をかけられた。


つけていたメガネをとり、顔を袖で拭った。


するといじめていた女が手に持っていたメガネを取った。


今思うとそのままにすればよかったが、男を誘わないためにつけていたメガネがないことはいけないと思ってしまい


女の腕をつかみメガネを奪い、走って逃げた。


その日はそれで終わったが、奴らはしつこかった。


朝学校に登校すると階段のところで囲まれた。


前の方にはいじめていたやつが。


後ろには知らないやつらだが、恐らく士官クラスの男と思われる人物がいた。



「ちょっと来てもらうわよ」


「いやよ。朝から何よ。なにかしようってなら大声出すわよ。」


迷う暇はない。


恥をかいて、大声出そうと思った。


向こうも目立つのは嫌だろう。


すると、後ろから触られた。


「やわらかくて良い尻じゃないか。俺の好みだ、お姉ちゃんよぉ。威勢がいいな。」


下衆な声がした。


何が起きたが分かり、心が何故か冷静になり悟った。


私は母と同じなのだと思った。


結局、私の体は男の為に創られたのだと。


土台から足元が崩れる音がした。



「おー探したぞ」


この場面には相応しくない軽快な声がした。


声は続いた。


「アベリアちゃん、先生が呼んでるから来てもらっていい?」


いじめっ子の女のが慌てて声を出す。


「フェ、フェノールくん。違うの、これは、」


「んー。取り込んでるのは分かるが、こっちは大至急なんだ。頼む!」



そう言って私の手を明るい場所へと引っ張っていった。




――――――――――――



先生に呼ばれる理由が検討もつかなかったので私は尋ねた。



「アベリアちゃん、俺は嘘をついたんだ。実は先生から呼ばれてないんだ」


やはりそうか


「じゃあ、さっきは助かりました。」


アベリアは素っ気なく返す。


「もうちょい、笑ってお礼を言ってくれると嬉しい」


「別に助けてとは頼んでないです。」


「そうだね。でも、1つくらい言うこと聞いてくれても」



「見返りが欲しいんですか?」


「うん。そうだね。あなたの体で少しお返しをして欲しい」


さっきの優しさまでもが汚く見えた。


落胆し、全てにもう疲れた。


アベリアは男は結局そうなのだと。


みんな、一緒なんだ。



女を性的にしか見れない


「だから男は嫌いなんですよ!私は男の為に生まれてないのに!好きで女に生まれたわけじゃないのよ!あなたも私の大きな胸が欲しいんでしょ!」


「いやぁー、俺は大きさより形を重視するのだが、、ごにょごにょ」


アベリアに聞こえない声で反論するフェノール


「あー。申し訳ない。誤解を招く言い方をしてしまった。やらしい事を求めたわけじゃない。困らせるように言ったのわざとだったが、そんなに傷つくとは思わなくて、本当に申し訳ない」


「じゃあ何が欲しいんですか?」


「んーと。なんだろー。そうだなー。やっぱり最初に言ったやつだな。」


「最初?」


「うん。私に笑顔を見せて欲しいのだが」


「笑顔はそんな無理にするものでは無いです」


「何言ってんだよ!大人しい子のたまの笑顔ほど尊い物はないぞ!頼む。俺をツンデレ妹の兄だと思って『 お兄ちゃん大好き!』って言ってくれ!」


「何を言ってるんですか?馬鹿なのですか?」


クスリとアベリアが笑う。


「あっ!笑った」


嬉しそうにフェノールが口を開けてとても爽やかな表情を浮かべた。


アベリアはフェノールの笑顔に釘付けになる。


目が離せない。


心臓がキュッとなる感覚に陥る。


なんだこれは。


どうしたのだ私は。


「アベリアちゃん、可愛いじゃん。今こそ『お兄ちゃん大好き』を」


私は気づいた。


この人は特別なのだと。


容姿を褒められても私が嬉しいわけが無い。



これはこの人が特別だからだ。



それで納得できる。


「アベリアちゃんその笑顔は俺にだけ見せてくれよ。俺はお兄ちゃんなんだから」


フェノールは軽口を叩く


うん!大好き。フェノールくん。


とか言ったら言ったら冗談って受け取ってくれるかな?


今なら言えそうな錯覚に陥る。


新しい自分に戸惑ったが


流石に冗談でも言えないや。






私は思った。


これから私はきっとこの人の笑顔を見たくて生きていくのだろう。



――――――――――――



ある時から、フェノールくんはゲントウくんという男子生徒について話をするようになった。


大して気にもとめなかったが、フェノールくんがゲントウくんを誘うようになってどんな人物か知る必要があった。


フェノールくんの笑顔のため、そう思うといつも行動でき、私はフェノールくんに心底惚れていた。



ある時、調べているとゲントウくんは男が好きという噂が流れてきた。


別に人の趣味を否定するつもりはなかったが、フェノールくんに近づく者としては危険に感じた。


フェノールくんに男の友だちが近づく度に流れる女子のひがみだということにゲントウくんの時だけ気づけなかった。


信じたかったのかもしれない。


いつもゲントウくんはフェノールくんの誘いを断っていたので心配はしていなかった。


ただ、ゲントウくんに腹が立った。


嫉妬だと後で分かった。


その頃お金が無くなり、ゲントウくんを狙ったのもこの人はフェノールくんにとって悪だと言い聞かせてやった。


別に誰でもよかったが、言い訳の内容が思いつきやすい相手だった。


私は働いてはいたがやはり毎日は外食できるほどお金はなかった。


とにかく、フェノールと一緒にいたくてこの居場所に縛りついていた。


私には余裕がなくなっていた。


私をいじめていた相手のように私はなってしまった。


ゲントウくんに対する申し訳なさよりも、自分に対する失望が大きく、ゲントウくんのことを気にしていなかった。



私は彼を見下していたのだろう。


いつも一人でいて、両親がいなくて誰からも愛されていない人だと。


地味で根暗でどうせ文句なんか言えないやつだと。


昔の自分とは違うということを認めたかったのかもしれない。


私は人に愛されているのだと。


大切に思ってくれている友だちとフェノールくんがいるのだと。


そんなフェノールくんがゲントウくんのこと話す量が増えて日が経つにつれて増えていった。


何となく、これから私より関係が深くなるんじゃないかと予感した。




そんな時、いつものようにフェノールくんの誘いを断っていたゲントウくんが一緒に帰ると言い出した


私のことを言われると思った。



怖かった。


もうそばにはいられないと思った。


何とかしないと、と慌ててゲントウくんに無茶苦茶なことを言った。


失敗した。



ただ、これは調子に乗った報いだと、罰だと思った。



生まれた時から決まっていた。


私から人は離れていくのだ、と。



次の休みの日フェノールくんの家に誘われたが、行く気にはなれなかった。




教室 机 人 フェノール―――



あれから2日ほど経っても学校に来てはゲントウくんを探してはビクビクしていた。


しかし何も起こらなかった。


それに加え、フェノールくんの家に行く約束をしている前日にはゲントウくんは学校を休んでいた。


放課後にフェノールくんが声をかけてきた。


私は身構える。


ついにお別れのときだと。


「アベリアちゃん、明日はゲントウが来れないって連絡きたから。全員分のグラタン作れないので明日足りない分作って欲しい。だってさ。」


「え、あーうん。分かった」


「確認だけど明日来れるんだよね?」


「うん。行きます。でも、私はグラタン作れないよ」


「いや、それはなんでもいいんだ。妹よ」


「ふふっ。そうなの。じゃあ頑張るわ。お兄ちゃん」


チクリと心が傷んだ。


冗談を言っていることに、フェノールくんにもゲントウくんにも申し訳ないという気持ちになってしまった。


ゲントウくんが明日、居ないということに安心してる自分もいた。


が、これは私を呼ぶための罠とも考えた。


断る理由も見つからなかったし、フェノールくんに求められてるのが嬉しかった。


ゲントウくんがいたら


そのときは私は謝ろうと。


許されないはずで立ち去ろうと思っていた。


ただ、ゲントウくんがバラさなければ、自分から謝らないのだろうという自分の弱さにガッカリした。


私はこんなに臆病になったのか


こんなに男に媚びるようになったか



私は弱い人間だ。


自分をコントロールできない獣と一緒だ


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