第5話「不安の影」
フェノールの家に行った翌日。
授業が始まる20分ほど前に教室に着いたゲントウは眠気と戦っていた。
今日、どっかの時間で寝ないとな。
顔をうつ伏せて寝る体勢にはいる。
「ゲントウくん。おはよう!ちょっといい?」
俺は今はいやです。
ぱっと顔を上げるとルーナがいた。
少し離れたとこでアカハさんが遠くでニコニコ見守っていた。
「ゲントウくん!あのさ!」
なにか来るっ!ゲントウは心を構える。
また、なんか面倒な言いがかりを言ってくるのだろうと思った。
すると、意外にもルーナは1度、口を閉じた。
そしてすーっと息を吸い。1度深呼吸をした。
おぉ!すごい!成長!
「えーと。ゲントウくんは最近、悩んでることでもある?」
ふぅー
ん?
どういうこと?何が目的だ?
とりあえず答える。
「そうだな。特には思いつかないが」
最近よくルーナさんに絡まれること以外では
「お金で困ってることとかないの?」
「うん。そんなことは無い」
今年度の寮費も払ったし、貯金もしている。
お金には困ってない
「ご飯ちゃんと食べれてる?」
なんだ?お母さんみたいなこと言っている。
「うん。」
ちょっと考えてみよう。
いつも屋上で1人で弁当食べてるから、俺がなにも食べてないんじゃないかと疑ってる、とか?
体が細いから栄養が足りてない、とか?
どういう理由にせよ話が見えてこない。
「問題ないならいいわ。困ったら私に言いなさい」
困ってるのはいまのこの状況です。
ルーナさんは声が大きいからあまり声をかけないでいてくれると助かる。
いま、内容も相まってすごい注目されてんだが…
「ご心配ありがとうございます」
そう言うと2人とも去っていった。
なんだったんだろう
居心地悪いので教室を出ようとする…
バタンと音がした
……、視界が急にひっくり返った。
つまずいた
こけた
目線を足にやると、何も無い
「あぁ、悪いな。ぶつかっちまったよ」
そこにいた男子の生徒が小さく笑う
なるほど。
妬みを受け取る甲斐性は俺にはないからやめてくれ
俺は悪くないだろ
ルーナ、君のせいだぞ
そーだ!そーだ!
リトルゲントウからも野次がとぶ
「いや、大丈夫です。お気になさらず」
できるだけ冷静に返す。
逆撫でしないように。
男子生徒は俺の事を見下したように見ている。
こいつ調子乗ってんな、とか思ってんのかな?
「お前、調子乗ってんじゃねえぞ」
俺にだけ聞こえるように耳元で呟く
テンプレ過ぎで、芝居じみた印象を受ける。
実は冗談なのかなと思わせるくらいだ。
わざわざ悪者に見られたい人たちなのだろうか
「以後気をつけます」
まったくこれ以上、何を気をつけたらいいのだ。
勝手にルーナから話しかけてきたのは見てなかったのか
そもそも1回女子に声かけられたくらいで、妬んでこないで欲しい。
もしかしてルーナって人気なのか?
よく分からんがあまり関わらないようにしよう。
――――――――――――
ゲントウは先日のカツアゲ事件の解決に考えをめぐらせていた。
このままではいずれ、またお金を徴収しに来る可能性は高い。
放課後になり、いつものようにフェノールがこれからご飯を食べに行かないか?と誘ってきた
律儀なやつだな
普段ならやめて欲しいが、今回は好都合
「あぁ、今日は時間があるし一緒に行こうかな」
「うん。じゃあまた今度なぁぁあ?え?行くの?」
静かになった。
フェノールも、予想してなかったみたいだ。
いつもいる取り巻きもみんな戸惑ったいた。
「他の皆さんがよければ、あまり長居はしないので」
近づいて声をかける。
当然そこにいたアベリアちゃんは怯えるように肩に力が入っていた。
予想していた通り、俺を邪険に扱えない。
そもそもフェノールが誘った相手として断るのは、居心地悪かろう。
他の男子は別に問題なさそう、
女子は嫌そうな顔をしているが止めることはできんだろうな。
「まあ、いいよ。」女子からも許しが出た。
皆さんの返事はOK
よし、とりあえずクリア!
――――――――――――
男子はフェノール、ゲントウ、他2名
女子はアベリアちゃん、B子ちゃん、他1名
計7人で帰る。
男子は意外とフレンドリーに話しかけてくる。
先生のこと、家のこと、恋愛、この国の軍について、など色々話をし、聞いてくれた。
「ゲントウくんって意外と喋るんだね。普段も、もっと笑顔でいれば話しかけやすいのに。」
男子の評価は悪くない、と思う。
女子はフェノールと話して、こちらの会話に参加することは少ない。
フェノールは時折俺の事を、面白いやつで、料理が上手くて、すごいやつだぜ
と、みんなにテンション高く紹介してくれていた。
あまり、女子にフェノールと仲がいいと思われるのも得策ではないが今回は仕方がない。
「へぇ、男子で料理ができるってすごいな」
「俺も食べてみたい」
うんうん。そうだろう、そうだろう。
「寮で寮生のご飯を作るの手伝ってるからな。この学校の女子のほとんどの人より美味しいものは作れるな」
「へぇ、そんなに自信あるんだ。1度食べてみたいよ」
いいぞ。男子諸君
「何言ってんの?いつも行ってるレストランの方が美味しいに決まってるじゃない。私はプロが作るご飯の方が食べたいわ」
B子ちゃんが率いる女子は気に食わないみたいだ
その態度はフェノールからマイナスくらいますよ〜
アベリアちゃんは静かだが
「いや、でもゲントウのグラタン本当に美味しいんだ」
フェノールのアシスト
よし!ここから計画を実行する!
「今度、学校が休みの日にフェノールの家に行ってもいいか?みんなにグラタン作るよ」
「いきなりどうした?うちは大丈夫だと思う。ただ、時間は昼間がいいかな。」
フェノールはゲントウが友だちと仲良くなれると思い嬉しそうだ。
「え、俺も行っていい?ゲントウくんのグラタン気になる」
「俺も俺も!」
「君たちも来る?」
フェノールが女性陣に問いかける?
嫌なのだろう。新入りの男に次のフェノールの予定を仕切られて。
ゲントウ主催の気に食わないイベントで悩んではいるが、答えはわかっている。
「私たちもいくわ」
フェノールの家に行けるのだ。
そりゃ行くだろ。
「フェノールの分のグラタンは作らないから、女子から何か作って持ってきてくれたら助かる」
「何言ってんだよ。ゲントウ!俺にも作ってよ」
「フェノールは最近食べたばっかだろ。今回はお預けだ」
「まあ、そうするか、、」
「そーゆー事で皆さんよろしく」
「食べ物の話をしてたらなんかお腹すいてきたな」
「もうすぐ着くから。」
「あー今日は何を食べようかな」
目的も達成できたし、ここで今日ところは引く。
「あー。今日用事があるのを思い出した。」
流れるような棒読みで喋る
「え、ゲントウ来ないのか?」
「食堂の手伝いあるの忘れてた。」
この用事は本当にある。
別に忘れてはいなかったが
「そうか、じゃあまた明日な」
「ゲントウくんまた学校で」
「うん。また」
「じゃあね」
「さよなら」
「どうも。失礼します」
女性陣は厄介者が居なくなって嬉しそうだ。
「私も今日は帰るわ」
アベリアちゃんも帰るらしい。
「そうなのか?じゃあまた明日」
俺はその間にそさくさと帰路に戻る。
同じ道を歩いてくるアベリアちゃん
振り返らずに早歩きをする。
それでもついてくる。
やっぱり俺か…
急に立ち止まるゲントウ
「なにか、御用ですか?申し訳ないがお金ならもうないです。実は追い剥ぎに会いまして…」
「あなた、どういうつもりなの?」
どういうつもりとは?
「何か私に至らぬ点でもありましたか?」
「なんでそんな偉そうなのよ。フェノールくんは優しいからあなたに無理して話をしてくれてるのよ!勘違いしてない?あなたは、親がいないんだってね?可愛そぶって仲良くしてもらおうとして。フェノールくんの優しさに付け込まないで!あなたが関われるような人じゃないのよ!」
たかがはずれたように怒りをぶつける。
息が切れた体を落ち着かせながらゲントウを睨む。
よっぽどフェノールのことが好きなのか
よっぽど俺のことが嫌いか
「全く気づかなかった。申し訳ないです。次の休日遊んだろもう関わらないことにする。」
もとよりそのつもりだ。
なんなら休日も遊びに行くつもりは無いが
「あなたも立場をわきまえなさいよ。私はあなたの秘密知ってんだから!バラされたくなかったら、昨日のことも喋らない事ね」
「えっ、秘密って…」
全身にドクンと脈打つのが分かった。
冷や汗が体を覆う。
予想外の脅しに驚いてしまった。
内容は察しはついた。
ゲントウ史上1番の過去のことだろう
とうとうあの事件のことが広まってしまうのか
まあ、いい。バレたらそんときだ。
学校に居ずらくはなるな。
君ともお別れだフェノールくん。
フェノールよ。よくこんな態度を取れる人と仲良くなれるな。
俺には無理だ。
まあ、俺にだけこんな態度なんだろうけど
俺がいなかったら意外と良い奴なのだろうと
そう思っておこう。
「まあ、そうよね。学校で広まりたくないわよね。あなたのその趣味ではどの道フェノールくんはあなたに近づかなくなるわ。あなたはいつも通り大人しくしてなさい」
「はい。善処します」
趣味、、、
どうやら想像してたものとは違うみたいだ。
別の不安が残るが、致命傷にはならない程度のことだと踏んだ。
大丈夫、問題は無いはず。
そう自分に言い聞かせる。
ゲントウの影がうっすら青色に変わったように見えた。
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(フェノールの男友達)
「ストラル」
・父は司法裁判所の裁判官
・父と同じく裁判官になるべくリーサ学園に入学
・悪に対して敏感だが、向き合えるだけの強さはない
「レバス」
・実家が製靴店を営んでいる
・自分に自信があり、人の倍自己顕示欲がある
・実家の製靴店は継ぐ気はないらしい