第21話「自分探し」
本当に来た。ゲントウくんが家に来た。
OKを出したお母さんも友だちが家に来るとしか聞いていない。
果たして怒られないだろうか、
緊張してきた
「ゲントウくんは、今日何を勉強するの?」
「しない」
ゲントウくんはいつもと違い目が力強い
いつものラフな感じがない
「今日は何しに来たの?」
「ちょっと慈善事業を」
「よく分からないです。あんまり家では騒がないでくださいね」
「気をつけるよ。」
「ピザ作るんですか?」
「タイミング良くてお母さんよ許可があったら作るよ」
「材料はどうするんですか?」
「後で買う」
「本当は何しに来たんですか?」
「質問が多いぞ。俺は面倒見のいい先生じゃないんだからなんでも答えてくれると思うなよ」
「でも、何するかは教えてください」
「ラケナリアさんに勉強を教えに来たんだよ」
「本当に?」
「まあ、本当ではある」
「ゲントウくんって頭良いんですか?」
「君よりは成績良い」
「私の成績知ってるんですか?」
「いや、この前のテストは俺がクラスで1番だったから」
「そうだったんですか!すごい」
「まあ、嘘なんだが」
「どっちなんですか、」
「ただ、一緒に悩むくらいならできるよ」
「それでもいいですよ。私の部屋で勉強でいいですね?」
「おう、よろしく」
―――
「お母さんはいつくらいに帰ってくるんだ?」
「あと1時間後くらいですかね」
「分かった。それまでは勉強するか」
「うん」
「トイレはどこにあるんだ?」
「玄関から入って左手にあります」
「了解」
―――
「最近はどうだ?」
「何がですか?」
「あの〜、あれだ。お母さんと」
「あ〜、ちょっと怒られ中ですね。」
「そうか。つらいか?」
「つらいですけどゲントウくんがこれから話聞いてくれたら楽になるかも」
「それは自分で何とかしてくれ」
「でも、今話を聞いてくれてます。ありがたいです」
「俺を巻き込まないでくれ」
―――
玄関で鍵の開いた音がした。
「あ、お母さん帰ってきた」
当然のことだが、緊張感が増す。
母は靴を脱いで荷物を玄関に置いている。
「お母さんおかえり」
「学校で勉強してくるんじゃなかったの?」
「昨日言ったじゃん。友だち連れて勉強するって」
「覚えてないわよ」
ゲントウくんがこちらに向かってくる音がする。
「おじゃましております。ラケナリアさんの友人のゲントウと言います。今日は失礼します」
ゲントウくんの丁寧な挨拶に驚いた。
母も嫌そうな顔はしながらも
「うるさくしたら帰ってもらうから」
と、一言言って去っていった。
―――
「ゲントウくん気にしないでね」
「大丈夫だ。あれは怒ってるのか?」
「いや、普通くらいだと思います」
「なるほど」
「じゃあ、私部屋に戻るから」
「俺はちょっとトイレ行ってくる」
―――
ゲントウくんがなかなかトイレから戻ってこない
場所が分からなくなっているんだろうか
でも迷うにしては家が狭すぎる
キッチンのとこから声が聞こえてきた
お母さんとゲントウくんが喋っている
“ラケナリアさんは何がやりたいって言ってるんですか?”
“娘とプライドとどっちが大切なんですか?”
ゲントウくんが何やら母を詰めているように聞こえる。
‘あんたには関係ないでしょ!部外者は入ってくるな’
母の大きな声が家中に響いた。
おかしい、事態が飲み込めない。
2人が喧嘩してる
なんで?
―――
「何してるの!お母さんとゲン」
「俺はラケナリアさんの友だちです!ラケナリアさんが辛いと思っていることを見てられないんです」
「どの立場から言ってんだよお前は。母親は17年も一緒にいるんだよ。娘のためにどんだけ頑張ってると思ってんだよ!何しに来たんだよ!お前帰れよ!」
「ふざけんな!何が娘のためだよ!自分のためじゃねえか!」
「ゲントウくん、ちょっと何言ってるの、やめてよ。お母さんも」
「お前は娘の何知ってんだよ!上から説教たれてんじゃねーよ!勝手に人様の家にズカズカ入ってきて、言いたいこといいやがって!」
「ラケナリアさんが辛くなってることは分かる。どんだけ悩んでるか知ってんのか?ちゃんと見えてんのか?それでもあなたのために頑張ってるんだよ!親失格だよ!お前は!それで、自殺でもしたらどうすんだよ!」
「ゲントウくん!!何言ってるの!!やめてよ!私は大丈夫だから!!」
「子どもは親のために頑張るのは当たり前だろうが!誰が金出してるんだと思ってんだよ!社会を知らねえ、苦労もしてねえ、子どもが理想を語るなよ!お前はそもそも部外者なんだ!入ってくんなよ!」
「ゲントウくん、ねえ、何しに来たの?やめてよ!お母さんも」
「確かに、俺は家族でもない。俺が決める権利はない。ただ、ラケナリアさんはもう17だ。お母さんに頼らなくてもできることはある。だからラケナリアさんの話を聞いてみてよ」
「何言ってんだ。こいつが私を頼らなくて生きていけるわけないでしょ」
「もし、この家を出ていけるならラケナリアさんはどうする?」
「え、どうって…私はここにいたいよ。お母さんのために頑張りたい気持ちは嘘じゃないの。心配してくれてるのは嬉しいけど、ゲントウくんならそれが分かってくれてると思ってたのに。」
私はとんでもない人に悩み事を打ち明けてしまったと後悔しても遅い。
これ以上、母をを刺激して期限を損ねたら明日からもっと辛い毎日になるのは間違いない。
「じゃあ、もし家を出て行きたいか?と質問を俺がしたらラケナリアさんは出て行きたくないって答えるってことだな」
「うん」
私はゲントウくんに怒っていた
「そもそもお前もラケナリアも子どもじゃねえか。社会は、そんなに甘く出来てないんだよ」
「そんな甘い考えを持っている俺からひとつ提案があります。というか、俺からの提案では無いが」
玄関が開いた音がした。
「どうぞ入ってください」
その人は静かにラケナリアの目を見ながら近づいてきた。
「お、、お姉ちゃん?なんで、、」
「フローラ、お前がなんでここにいるんだ?」
―――
「久しぶりだね、母さん」
「どういうことなの、フローラ!なんでここにいるの?」
「ゲントウくんに呼ばれてきた」
「お姉ちゃん、ゲントウくんとなんで知り合いなの?」
「まあ、それはややこしいから後で説明する」
「俺はもう部外者だからここで失礼します。お騒がせしました」
先程の母に対する熱弁とは対照的で、丁寧にお辞儀をして帰って行った。
あっけに取られたラケナリアは説明を求める。
「なんでゲントウくんはお姉ちゃんをここに呼んだの?」
「それは、お前をこの家から逃がす選択肢を与えに来た。」
「お姉ちゃんまで何を言ってるの?」
「フローラ、お前はもうこの家を自分の意思ででて行ったよそ者だ。なにをするにも勝手にこっちが決める」
「お姉ちゃん私は別に辛くないから」
「…ゲントウくんはラケナリアが変わりたいと思っている勇気を手助けしたいといった。お前の変わるってのはどっちにしろこの家からの自立を意味する。気持ちが変わらない限りいずれ悩む場面が来る」
「とりあえず私の話を少し聞いてくれ。私は今は一人暮らしをしている。リーサ大学からの奨学金で生活出来ている。ラケナリアの成績でも十分可能な事だ。母親を頼らなくても学校には行ける。ある程度の生活はできる。という提案が1つ。今すぐ決めろとは言わん。嫌になった時にはこの家を出ていく力はお前にはある。どんだけ勉強頑張ったと思ってんだお前は。そしてここまでのお膳立てをして貰って変わることできないならお前はこのままなんだ。普通はずっと成績最下位周辺のやつがリーサ大学を目指す所までは1年くらいではいけない。そのくらいの力はお前にある」
私は姉が私の成績を知ってることに驚いた。
「私の家をラケナリアが住める程度にはしている。1週間くらい考えるんだな。そして自分で決めろ」
「フローラ、ラケナリアは私の娘だよ。何余計なことしてんだよ!ラケナリアはこの家にずっといるから。そうだよな、ラケナリア?」
「ちょっとまってお母さん、考えさせて」
「何を言ってんだ、何を言ってんだ」
母親はもう焦りを隠さない
「私は…この家から出ていきます」
「は?・・・・・・何言ってんの?そんなことできるわけないだろう」
「今まで、自分の人生のことを考えて来なかったから少し時間をください。私を思ってくれるなら私の話を少しでいいので聞いてくれうと嬉しいです」
「え、どういうこと?」
「お母さん私にちょっとだけ時間をください。家を出ると決めたわけじゃ有りません。少しだけでいいので自分のことを自分で考えさせてください。どうかお願いします」
「いや、だめだ。そんなのは…」
「ラケナリアは自分で決めたんだ。尊重してやろうよ母さん」
「またね…お母さん」
―――
家を出るとゲントウくんが待っていた
お姉ちゃんと2人でいるのを見ると
真っ直ぐな目線でこちらを伺う。
状況を察して落ち込んだ表情を浮かべた、気がする。
「ゲントウくんはラケナリアのために悪者になったんだからな」
「そうなの?あ、うん。そうだよね。変だと思った」
「お礼を後で言うんだよ」
「うん。」
ゲントウくんが2人に近づいてきた。
「私はお姉ちゃんに嫌われてると思った。お父さんのとこ行くし」
「まあ、、それは色々あって」
「お疲れ様です。フローラさん。ラケナリアさん。」
「ゲントウくん本当に申し訳ないね。妹をこれからもよろしく」
「いえいえ、これからもお母さんがラケナリアさんを支えます」
「そうだったな。いいのかい君は?」
「はい。それでは失礼します。」
ゲントウくんは去っていった。
「どういうことなの?お姉ちゃん」
「今日は私の家に泊めるが、3日後くらいに家に返すから。準備だけはしといてよ」
―――
10分ほど姉妹水入らずで喋り、後で姉の家で会うことを約束した。
そして、私はゲントウくんのとこに行く
「ゲントウくん、ありがとう」
「うん、まあそうか」
「色々聞きたいけど、私のためにやってくれて嬉しい所と怒りたい所があります」
「そうだな。でも、先に謝ってるから」
「なんでそういつも1人なんですか?」
「・・・・・・。」
時が止まる。
「あのね、私は変わったと思う?」
「そうだな…そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どうやっても人は変わっていくし変わらない。どっちだっていいんだ」
「うん」
「ゲントウくんはすごいね」
「すごくない」
「ゲントウくんはブレないね」
「今、1番ブレてる時期だよ」
「そうじゃなくて、芯があるというか」
「そうかな」
「ゲントウくんって優しい人だよね」
ゲントウくんはそれには答えなかった
「俺は頼まれたからやっただけで」
「誰かに頼まれたの?」
ゲントウくんはあからさまにしまったという顔をした
「えーと、まあ」
「お姉ちゃんに?」
「そう」
「もしかして他にもいる?」
「まあ色々」
「なんで私のことにお姉ちゃん以外が関わってるの?」
「すごい偶然としか」
「もしくは運命?」
ゲントウくんはじっとこちらを見て答える
「確かに色々やらされたという事実はある。ただ断ってもよかった。本当はラケナリアさんのために」
「私のために?」
「という名の自分のためだね」
「長い名前だね」
「なんかダメなんだ、親子で仲が悪いの。しかも君たちはお互いが好きなのにもったいないからさ。君たち親子が悪いんだよ」
そう言って彼は恥ずかしそうに笑った。
その笑顔で胸が高鳴るのがわかる。
ゲントウくんは明らかに他の男の子と違う。
その意味は私にとっていい意味でも悪い意味でも私の心をいっぱいにする。
「あのね、私は…」
「なんだ?」
気づいてないフリをしていた
断られることが本当に怖くて…
全部私だったんだ
今なら、今しか、
それも分かんない。
でも、感謝を伝えないと
「あのね、私は…ゲントウくんのことが好き」