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冬のくろい影〜ゲントウくんはこれからどうしたらいいか悩んでいます〜  作者: おちゃつばめ
ラケナリアと仲良くするには?編
20/23

第19話「次の目標」




目が覚める。


本日、2回目の起床。部屋が熱い。


夏の日差しがジリジリと顔を攻撃する。


朝の1回目の起床より疲れている気がする。


もう家にルーナは居ない。


昨日の醜態から、理性はだいぶマシになった。


調理場での仕事は、今日は出来ないと思っていたが、これなら何とかなりそうだ。


昨日の夜のことを思い出す


ちょっと思い出しただけでも、頭が優しいものに包まれ泣きそうになる。


ルーナには感謝しかない。


自分を変えてくれた。いや、変わってはいない。


正確に言うと変わったような気にさせてくれた。


朝起きて、いつもと違い世界にいるようだった。


実際は何も始まっちゃいないけど、


やっと動きだした。


今まで俺は壊れた時計をずっと持っていた。


動いていると思っていた時計を。


それに気付かさせられた。


ルーナは動こうとした時計を直してくれた。


これまで自分を許してはいけないと思って来たけど、そもそも自分に甘かった。


大袈裟にせず、決して無関心にならないで普通の人になろう。


なんにせよ1秒動いたのだ




―――




 次の目標は決まった。

 過去に自分なりの決着をつけること。

 信頼出来る人と美味しいご飯を食べること。


 人が集まれる場所がほしい。

 俺は大勢の人がいる所で話すのは苦手だ。


 人と話すのも、調べ物するのも、拠点があった方がいい。

 そんな場所に心当たりがありそうな人の部屋に行く。


「失礼しまーす」


「おう!ゲントウか」


「シバタ先生、いきなりすみません」


 相変わらず、だらけた空気がある。だるそうにしてるくせに体術は俺より圧倒的に強い。敵にはしたくない。


 油断させる能力これが、この人の1番の強さだ。


「あ!ゲントウ、お前泣いたらしいな!」


 嬉しそうにしてやがる。こいつ最低だ。


「べ、別にいいだろ。」


「いいけどー。いつもの調子はどこいったー。可愛くなっちゃって」


「そんなことより、ちょっとお願いがあるんだ」


「なんだよ?気持ちわりぃな」


「あんたが管理してるところでなんか人が来ない部屋とかないか?」


「女でも連れ込むんか?」


「まあ、そうだ」


「もっと恥ずかしがれよ多感な時期だろ」


「で、あんのか?」


「この部屋使っていいぞ、ここは俺のメインの部屋じゃねえ。いつもは若い女の先生が隣にいる大人数の部屋なんだよ」


「ここはあんたが来るだろ?他にないのか?」


「じゃあ、隣の部屋使え。入るのはこの部屋からしか入れない。向こうから鍵かけたら問題ないだろう」


「どうせ、隣の部屋の鍵も持ってるじゃねえか。まあいいよ。この部屋は人は来ることはないっぽいし」


「男は悲しいことがあったら女を抱くもんだ。よろしくやれよ。」


盛大な勘違いだ。


「あんたの頭は天国より幸せだな。」


 入り口には『国防情報準備室』と書かれた小さな部屋を借りる事ができそうだ。

 年季の入った部屋で棚には資料らしきものが沢山ある。ここ何年か使われていないのかホコリが溜まってる。



 場所は確保。次は信頼出来る人材だ。




――――――――――――




(2日前の夜)



こんなに軽くなった心で家を変えるのはいつぶりだろうか。


勢いで悩みを話してしまったけど、ゲントウくんはちゃんと聞いてくれた。


ラケナリアは新しい出会いに興奮していた。


私の性格が変わらなくてもゲントウくんと話が出来るだけでも何とか学校がやっていけそう。


玄関のドアを開ける。


相変わらず、重々しい空気に緊張する。


母に帰ってきたことを気付かれないように音を立てないように自分の部屋に行く。


私の部屋に入ると母がいた。


「お、お母さんただいま」


母は答えない


「何してるの?」


「帰ってくるの遅いじゃない」


「それは、学校で勉強してて」


「嘘つくな。あたし、知ってるんだから。色気づいてんじゃないわよ」


怒らせない。逆撫でしない。耐えるんだ。


がんばれわたし。


「別に、あれは、、送ってもらっただけで」


母と話すと語尾が小さくなる。


「あんたに遊んでる時間なんてないから!ただでさえあんたは馬鹿だから!」


「ごめんなさい」


「まず、ご飯食べて、お風呂に入りなさい」


「ありがとうございます」


「その後、寝るまで勉強しなさい」


「う、うん」



「次のテストまで時間ないんだから」


「こんなんじゃ、リーサ大学行けないから、あんたが勉強するには人の3倍はしないと」


ゲントウくんの軽い気持ちで言った言葉が頭に響く


“じゃあ、変わればいいんじゃない?”


少しずつ、なら、変えれる私は。


「もし、受からなかったら私はどうするの?」


 初めての小さな抵抗を見せる。


「そんなのまた来年も受けされるわよ」


「また受からないかもしれないよ」


「それは、あなたが頑張らないからよ。勉強は頑張ればできるようになってるから」


「⋯⋯。」


「どうせこんなに使えないんじゃろくに働くこともできない。自分で生きていけるようにしてあげてるわけ。仕事につくこともできないような人は高い学歴がないとダメなんだよ。これはあなたのためだから!お母さんだってどんだけ頑張ってると思うのよ!!」


「それは、お母さんのためでしょ」


 言った。言ってしまった。


「口答えすんな!なんだその目は!」


 頬に痛みが走る


「お金出してるのはあたしだよ!スポンサーの言うこと聞くのは当たり前でしょ。そんな常識もないから馬鹿にされんだよ。ずっとヘラヘラして生きていけるわけないだろ!!」


 涙が目に溜まる。悲しくなった。私の今までしてきたことはなんだったんだろう。


 知ってたけど


ゲントウくんの言葉がまた、思い出される。


“そのままでもいいよ”


“変えても変えなくても”


ずるい人だな〜ゲントウくんは


どっちかは私にとって正解しますよ。


どっちを選んだらいいの?教えてよゲントウくん




――――――――――――



昨日学校を休んだ。


ずっと家にいたけど、母親とは話さなかった。


母も言い過ぎたとは思っているのかもしれない。2日前の夜の出来事はショックだった。ただ、そもそも状況は変わっていないのだから当然の結果だ。


ゲントウくんと話してから希望が確かに見えたのに今はその光がなんなのか思い出せない。


辛い環境が変わらずあったことを再確認しただけだ。


それなのに今でも母に認められたいと思ってしまう。褒められたい。


私はだめだろうな。だめだと分かって変われないんだから本当に絶望的。


いまはとにかくやる気が起きない。何をやっても辛い。それでも辛い現実は次々と攻撃しようと待機している。


学校に行くと優等生で、いままでの私になる。これまでの人生で得られた唯一のスキル、暗い気持ちでも笑顔は作れるみたいだ。


学校にいる時は家と比べるとマシで、人と話す事で心が安らぐ。あまり話したことがない人でも、昨日の欠席のことを心配してくれると嬉しくてしょうがない。


授業が終わる度に帰る時のことを考えて嫌な気持ちになる。


本当は1番にゲントウくんに相談したいなと思っていたが、相変わらず学校では近寄り難い。


ゲントウくんは1人でいるから話しかけたかったけど、迷惑なのか分からないので出来なかった。


でも、友だちって言ってくれてたし。


行ったり来たりの考えが続き、今日はずっとゲントウくんのことを考えていた。


本当に話したいことを、信頼して聞いてくれるのはのは今はゲントウくんだけで、でもゲントウくんは私と話すことを望んでいるようには見えなかった。


フェノールくんもこの前は話せたけど、いつも周りに誰かいて真剣な話はできる空気はない。それに男の子だと気を使う。優しいからちゃんと聞いてくれそうだけど。


不安のまま学校は終わった。


放課後、勉強なんかやる気もないのに図書館に行く。


ゲントウくんがいるかもしれないから。


でも図書館では、話しかけちゃいけないとはわかっていたけど、小さな望みをかける。


ゲントウくんが逃げ場所になっている。


図書館は誰もいない。誰もいない図書館はある意味で自由なんだけれども今はそうじゃなかった。


意味もなく本を探しに行く。


相変わらず本は面白いと思えない。タイトルを見ても小難しそうで、見てるだけで頭が疲れる。


元々私は勉強が好きじゃないからかなと思う。


子供向けの絵本を手に取る。『リナルドと水の英雄』というタイトルの本を読む。


英雄、ヒーロー


昔はお父さんが私のヒーローだった。


この絵本を読んでくれていたお母さんが懐かしい。




「そんな本読んでも、頭は良くならんぞ」


ひっ!っと悲鳴をあげてしまった。


私が驚いたことも関心がなさげで、落ち着いていた。


今日一日中待っていた人は現れた。


「相変わらず暗いな。君は」


いたって自然に会話が始まる。


「ゲントウくんこそ、朝からずっと暗かったですよ」


「そんなの捉え間違えだ。結構充実してたよ、今日は。」


「本当ですか?」


「まあな。それよりラケナリアさんの方がずっと目の奥が笑ってなかったぞ。一日中、無理して笑ってて」


本当の気持ちを分かってくれるのが嬉しい。


「無理して笑うの得意なんですよ」


やっぱりゲントウくんと話すと楽しい。


「そうだな。そして、言いたいことを飲み込むのも、嫌われたくなくて嘘つくのも上手だよな」


「そんなことないです、もうこの前の私とは違いますから」


「そうかい、そうかい。それは良かったね」


「信じてないですよね?」


「まあね。それより勉強しなくていいのか?お母さんに怒られるぞ」


「今からします。それに図書館では話しかけないでってゲントウくんから言ったんじゃないですか?」


「俺から話しかけるのはいいんだよ」


「それは、不公平じゃないですか?」


「それより、ちょっとお願いがあるんだが」


「なんですか?」




「君の家でピザパーティーしてもいいかい?」




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