第1話「ゲントウくんは友だちが少ない」
時は7月
ここは水と緑の美しい国「リーサ」にある唯一国が直接管理している学校、リーサ学園の高等部
膨大な敷地を誇るリーサ学園では中等部含む800人近くの学生が通っている。
中等部と高等部が共有している施設のひとつ図書館では、ちょうどいま高等部の3ーBが授業で図書館を使用していた。
―――
ゲントウくんは黒髪でメガネで長髪の落ち着いたな男の子だ。いつも一人でいることが多いが、決して社交的な能力が乏しいのではなく、他人を寄せ付けないオーラがあるからである。
話し相手はもっぱら猫とこどもだ。
ゲントウは授業で出された課題が終わり、クラスメイトから離れるようにひとりで図書館の階段をのぼり2階で本を読んでいる所だった。
肩をポンと叩かれた。
てっきり1人だと思っていたので少し驚いた。
読んでいた本の途中に人差し指をはさみ、そのまま右手で本を持ち、後ろを振り返った。
そこには茶髪で髪の長いキリッとした眼をした女の子が立っていた。
彼女は威圧するかのように腕を組み堂々と立っており、彼女の発しようとする言葉に心を構える。
「ゲントウくん、2階でなにしてんの?課題終わったの?授業中よ。」
「あぁ、申し訳ない。そんなつもりはなかったんだが、魔が差して...ちゃんと課題をやります。」
ゲントウは彼女の物言いとは反対にボソボソと呟くように謝った。
いつも一人でいて、今日初めて喋って言葉が謝罪だと言う自分に落胆するゲントウ
課題を終わってないと決め打ちされ、君だって2階にいるんじゃないか、、とは思いながらもその思いは飲み込む。
「サボらずにやりなさいよ」
謝ると今度は優しい物言いになった。
「配慮に感謝致します。」
他人と関わるのが苦手なゲントウはそさくさと立ち去った。
ゲントウは階段ですれ違う人と目が会わないように気をつけおりながらさっきの女の子のことを振り返る。
いまの、誰だっけ?
なまえは、えーと、、えーと
たしか、、
わからん
思い出せん
あっ!!
いや、わからん
んーとー
あー
そうだ、クラスメイトだ
彼の寂しいコミュニティではクラスメイトという所までしか分からなかった。
階段を降りきると数人の生徒が通路を塞いでいた。
ゲントウに気付かず男女が会話に夢中になっている。
困ったな〜
ゲントウはカニのごとく壁と生徒に挟まれながらゆっくり移動した。
「よお!ゲントウ!」
1人の男子生徒が爽やかに声を掛けてきた。
あぁフェノールか。
フェノールは綺麗な金髪で、顔のパーツが1寸の狂いもなく全て完璧に整っている。
その凛々しい顔からの優しい笑顔に多くの人が魅了されて学校での人気は高い。
女の子に、女生徒に、女教師に、しかも男にも人気あるのだ。
男に人気なのは見た目だけでなく性格も良いからだ。
男前なのになのにどんな人にもフレンドリーで、着飾らない素直な人間で、かと言って優等生という訳でもなく、ラフな会話もでき完璧なのだ。
と言いつつ、実際は結構酷いところもあるが、
彼がゲントウに話しかけるのは、彼が優しいだけでなく、リーサ学園の寮でゲントウとフェノールが隣の部屋という関わりがあるからでもある。
寮で話す時はもっと砕けた話し方をするが、学校では丁寧に俺に話しかけてくる。
その欠点のない立ち振る舞いには、あまり人と関わりのない俺でも見惚れる時はあった。今ではそう思ったことを後悔している。
ヴァイオリン弾けるんだってよ、知ってるかい?ヴァイオリン、そうヴァイオリン。
惚れない女の子は居ないって。
その神様から授かった何十個の恩恵のおかげで彼は常に中心で話しており、周りの生徒もまた彼を中心に話していた。
彼が声を掛けて周りの生徒がゲントウに視線を向ける。
ゲントウは多くの視線の矢印が体に刺さる感覚に陥る。
うう、痛い。
フェノールが話す。
「ゲントウ、学校が終わったら今日一緒にご飯食べに行かないか?」
なんでこんなやつに声掛けてんだみたいなことを周りの生徒は思っているのだろうか?
そんなことを心配しながら
「いや、今日は図書館で調べ物するから行けないよ。ごめんな。」
と、断った。
フェノールの隣にいるA子ちゃんは、本当になんでこんなやつに、、みたいな顔してこっちを見てきた。
その隣にいるB子ちゃんも。
そんなにこっちを睨まないでくれ。
肌がチクチクするじゃないか。
「そうか、じゃあまた今度な」
そう言ってフェノール離れていった。
「私たちだけでお店に行きましょう。」
B子がフェノールを見ながらそう言っているのが遠くで聞こえた。
フェノールは本当によくやるな〜。と思いながらも、やっぱり目立つのは嫌だという思いが勝った。
―――
放課後になるとフェノールに伝え通り、ゲントウは本当に図書館で調べ物していた。
世界会議ができそうなくらい大きな机の椅子のひとつに腰掛け本を読んでいると。
「お疲れ様。ゲントウくん」
という声とともに、1人の女の子が隣に座ってきた。
今日は随分と声をかけられる日だなと思いながらも、心地よい馴染みのある声に知り合いだと気付いた。
ライナお嬢様でございます。
お嬢様と言っても普通の身分の女の子ではございますわよ。ホホホ
普通の人と違う点と言ったら耳でしょうか?あるいは種族です。しっぽは無いが。
今は耳を畳んで分かりずらいが、彼女は世界の1%しか居ない獣人なのである。
ライナはゲントウと小さい頃からの幼なじみで、優しく穏やかな性格よってゲントウが唯一と言っていい安心して話が出来る人物だ。
「毎日、図書館にいて調べ物だなんて偉いね。」
「そんなことないと思うけど、ライナだってよく図書館で勉強してて本読んでる僕と違ってずっとすごいと思うよ。」
「ふふっ。ありがとう。勉強だけじゃなくクラスが違うゲントウの顔を見てるっていう目的もあるけどね。それに本を読むことだって勉強だよ。」
「ライナは優しい子だな〜。よしよし」
と耳を触ろうとするが恥ずかしそうに耳を手で隠された。
こんなさも付き合っているような冗談ができるのも長い時間で積み上げてきた信頼関係によるものである。
「今日は寮でご飯作らなくていいの?」
「今日は休みだよ」
リーサ学園の寮ではすぐ隣に調理場がありそのまま食事が提供される。
ゲントウは寮費を払うために特別に、お手伝いという形で寮で食事を作ってお金を稼ぐことを許可されている。
「久しぶりにゲントウのご飯食べてみたいな」
「うーん。いいけど、そんなに色んなものは作れないよ。」
「私はまた、ゲントウのグラタンを食べたいよ。すごく美味しくて好きだよ。」
「分かった。いつか作るからその時調理場においで。もしくはシバタさんのところに行く時に持っていくよ。」
「ああそれもいいね。」
そんなこんな話してるうちに日も落ちてきた。
楽しい時間というものはあっという間にすぎるもの。もうすぐ閉館の時刻となった。
楽しい時間こそ長く感じるようにしろよ人間よ、とつくづく思う今日この頃であったゲントウ氏
「そろそろ帰ろうかな」
「うん。そうだね。私も帰る」
ひょこっと耳を出すライナ。
ああ〜癒し。
「僕はちょっと買い物しないといけないから、途中まで送るよ。」
「私、用事ないから買い物について行ってもいい?外も、もう暗くなりそうだし」
「長くなるかもしれないよ?」
「うん。全然大丈夫。無理言ってごめんね」
「ライナと一緒で、嫌なことなんかないよ。1人の買い物より嬉しい」
耳をよしよしさせてくれるともっと嬉しい。
言ったら嫌われるかな。我慢我慢。
―――
(ルーナとアカハの会話)
川の景色が見える喫茶店のテラス席でで2人の女生徒が今日あったことなど他愛のない話をしている。
「ルーナはフェノールくんと同じクラスってやっぱり羨ましいな〜。ねぇどんな人?」
アカハは頼んだイチゴパフェをいちごを食べる。
「フェノールくんはいい人よ。誰にでも優しくてそんで等身大だから女の子に人気よ。」
「やっぱりそうだよね。彼女とかいるのかな?あむあむ。」
生クリームをクッキーにつけながら食べる
「さあ、いても不思議じゃないね」
「他の男子を比べることが出来ないくらいかっこいいもんね。リーサの女の子はある意味、不憫ね。」
残りのフルーツと生クリームを食べる。
「そんなことも無いでしょ」
「ほかの男子はどんな感じなの?」
「そうね、フェノールくんと仲良い人とそうじゃない人でグールプは大きくふたつに別れるわね。ああ、そういえば今日クラスの男子なんだけど聞いてよ。」
「どうしたの?」
「ゲントウくんっていう落ち着いた静かな男子なんだけど、哲学の授業の時、私は課題をすぐ終わらせて2階に行ったらもうゲントウくんがいたのよ。2階に哲学の本はないのに。」
「どこが変なのよ。サボってただけじゃない」
「私もそう思って課題やりないよって言ったの。そしたら彼も謝って課題をやるよ。みたいなこと言って」
「うん」
「その後、彼の机を見たら課題は終わっていたのよ。なんで課題が終わってることを伝えなかったたと思う?終わったって言えば良かったのに。」
ルーナは課題はしてるはずないと言う前提のもと会話を始めたことを少し後悔していた。
「そんなの簡単よ。地味な男なんでしょ。女の子に話しかけられてびっくりしてたのよ。ルーナ可愛いし。」
「それがねアカハ、なんかそういう感じでもなかったのよ。声は小さかったけど堂々としてた感じというか、別に弱々しい印象は受けなかったのよ。訂正はできたと思うわ。」
「じゃあ、ルーナ詰めるように声掛けたでしょ?いきなりだからでしょ。」
底のヨーグルトを食べ完食。
「あーうん。やっぱりそうか。謝らないとな。」
「大丈夫。大丈夫。女の子に話しかけてもらえて彼も喜んでるわ。お礼のひとつでも貰いなさいよ。
すいませーん。イチゴパフェひとつ追加で!」
まだ、食べるのか、、、。
「すみません。この子にもイチゴパフェお願いします。」
私は、いらない。
―――
買い物を済ませたあと、ゲントウとライナは船に乗り隣接するリーサ学園寮まで帰ってきた。
「買い物に付き合ってくれてありがとうな」
「ううん。こちらこそありがとう。」
「また明日」
「うん。また明日ゲントウくん」
ライナと別れたあと、ゲントウが階段をのぼり部屋の鍵を開けそうとするとちょうど隣の部屋からフェノールがでてきた。
「遅いなゲントウ」
「青春してたり、我慢してたりで遅くなった。」
「そりゃいい。明日時間あるか?」
「うん。夜遅くならなければ。」
「なら久しぶりにうちに来ないか?お母さんが会いたがっててね。ゲントウくんのグラタンが食べたいわ〜って」
フェノールの実家の方か…
あの明るいフェノールの母を思い出す。
「そうか。」
「お前しか誘ってないが、いいか?」
「むしろ、そっちの方がいい。ただ、条件というかお願いがひとつあるのだが」
「なんだ?」
「もしかしたら、1人知り合いを連れてくるかもしれないがいいか?」
「へぇー珍しい。ゲントウの知り合いか〜。楽しみだね。もちろんOKだ。」
「そうか恩に着る」
「こちらこそよろしくな。材料も買ってるみたいだから、よっぽど楽しみにしてると思うぜお母さんは」
「会うのが楽しみだ」
本当は少し不安だ。
「まあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ライナと、放課後会えるといいなと思った。
―――