第16話「残された学園生活」
「ゲントウくんは高等部を卒業したらどうするの?やっぱり大学に行くの?」
卒業後の進路、多くの3年生は7月頃には大方の進路が確定する。
3年生において「進路どうする?」という言葉はこの時期の急上昇センテンスである。図書館ではゲントウも例に漏れず話題の一員になる。
「どうだろうね。今はフェノールと一緒じゃなければどこでもいいと言う気分になってる」
ライナとすぐ会えるとこがいい…
「まだ決まってないの?」
「いや、やっぱり大学だと思う。ここでやることは無くなってきたし。ライナは?」
「私はまだ、決まってなくて。お父さんとお母さんと一緒にいれるといいなっては思ってる」
ゲントウは図書館で勉強する訳でもなく、調べ物する訳でもなくライナとの会話に集中している。
「じゃあ、実家に帰るの?」
「うーん…そうかもしれないけど、将来的にはこっちに来てもらいたくて。」
「へぇ、相変わらず仲良いね。心が洗われるよ。」
「そうかな…えへへ」
相変わらず図書館は人が少ない。2人会話だけがここの空気を決めいてる。
「ゲントウくんを久しぶりに見れて安心したよ。大学に行くならこれから勉強しに図書館に来るの?」
「そうかも、この図書館での調べ物は終わったから。多分、自習で活用するかも」
「今日は勉強しないの?」
「今日は勉強が目的じゃなくて、図書館に恐らくいるはずの謝らないといけない人がいて許しを乞いにきた」
「私は別に何も怒ってないよ」
「いや、ライナじゃなくて」
「あ、そうなの」
寂しくしていたライナは思わず自分に対してだと思った。
「じゃあ、もしかして昨日、一緒にいた女の子?」
「え!…知ってるの?」
取り乱したライナは2歩目も踏み間違えた。
「あ、ごめん。昨日ゲントウくんが校門で茶髪の女の子とちらっと歩いてるの見ちゃって。てっきりそうなのかと」
「あぁ〜あれを見られてたのか。でもその人じゃなくて」
「そうなんだ。ごめんなさい。見るつもりはなくて、でも昨日会った人なんだよね?」
「うん」
「その人は女の人?」
「そうだよ」
はー、とため息を心の中でつくライナ。
「なんで、図書館なの?」
「いや、よくここにいるみたいで、ライナそんなに気になるの」
「ちょっとは気になる。ゲントウくんの友だちはあんま聞いたことがないから」
「いや、友だちと言えるかは微妙だけど、」
「またそんなことを言ってるの」
相変わらず話したことある人を直ぐに友だちと認定することは厳しいみたい。
フェノールくんの時は友だちでいいのにとか思っていたけど、女の子の場合に友だちか悩まれるのはホッとする自分がいる。
「僕はライナと話せるだけで十分で、その気持ちは変わらないんだけど」
「けど?」
「うーん…他の人とも話してもいいかなって気持ちになって」
「それは私以外の人を普通に友だちとして?」
「友だちというか、僕の気持ちを楽にするために利用してって形になるのかも。昔のことを話せるんじゃないかと思ってて。」
「よく分かんないけど、友だちはそういう面もあるからそれでいいと思うよ。それよりゲントウくんの…あのことも話すってこと?」
「うん、どう思う?」
「ゲントウくんがやりたいようにすればいいと思う。私はゲントウがどんな決断をしても反対はしないけど、できれば自分のためにして欲しいって、無責任なことを言うね。」
「いやそんなことない。ありがたい。本当にライナには感謝してる。、、それでお願いがあるんだけど」
「なに?」
「夏休みにライナの実家に行ってもいい?やりたいことがあって」
「実はちょうど今日ゲントウくんを夏休み誘おうと思ってて。ぜひきて」
「本当にありがとう」
「友だちとして当然よ」
ゲントウは困った笑みをうかべて言った。
「恐れ多いです」
――――――――――――
(フェノールの軽薄)
髪をきっちりとセットし、誠実かつお洒落に見える髪型にする。目的は女の子と遊ぶこと。
今日の会う女の子は初めて会う人である。それにまだ知り合ってもいない人と遊ぶことが目的。
ナンパだ。そう、これからナンパという青春期特有の軽薄さを披露しに行くのだ。
フェノールは自分が恵まれた顔立ちだということは分かっている。何もせずともよってくる女性も多い。しかし、女性に対する探究心は自らの行動によって満たされる。
そして、女性に対する探究心は何もしなくても永久に湧いてくる。
いざ、出陣! 敵は自分の良心!進めー!!
本日の舞台は街一番の本屋。フェノールには縁の遠い場所で新しい出会いを探しに行くのだ。
声をかける方法は大枠までは考えたが、具体的なものは決めずに来た。その方が臨機応変に反応できるからだ。
全く興味の無い本を手に持ちながら、声をかける人を探す。
店内で1人、目を奪われる人物がいた。黒髪の美人で顔立ちがどこか異国の雰囲気がある。
今日はこの人にとって刺激的な一日にしよう、という上から目線で大変失礼な若さを持って突撃する。
「あの〜すみません。少しよろしいでしょうか?」
もちろん敬語で話しかける
「??」
「いきなりすみません。取った本が戻すところが分からなくて…。この本どこに戻したら良いか分かりますか?」
手に持っていた本を見せて言う
「それなら入り口から入って右側のCの棚の料理コーナーにあったはずだよ。」
予想外の返答だった。
フェノールは、あえて説明が分かりにくい場所を選んで決めたのに一言で解決してしまった。
本屋に行った経験が少ないフェノールは、お客さんのほとんどは本の場所は分かっているのかと衝撃だった。
「そうなんですか、そのCがどこにあるか分からないので申し訳ないんですけど案内して貰ってもいいですか?」
年上だろうか落ち着いた雰囲気がある女性だ。普通は突然話しかけられたら多少は驚いてオドオドする。その女性は少し考えて、答えた。
「店内にスタッフがいるからその人に聞いてみるといい」
フェノールは粘る
「いま、スタッフの人は忙しそうで迷惑かけちゃいけないと思って」
「私なら迷惑かけていいのか?」
女性は怒るわけでもなく、素朴に思ったことを先生に聞くかのように質問する。
「そういう訳では無いんですが、何となくここのお店のことに貴女が詳しそうだったので、すぐ終わるかと。」
女性はまた少し考えて
「なるほど、いいよ。ただ、こっちの用事を終わらせてからでもいい?」
「もちろん」
―――
「ズミシンに興味があるんですか?」
ズミシンとはリーサの隣国のことである。女性はズミシン関係の書物がある本棚で本を探しているように見えた。
「国自体と言うよりズミシン出身の知り合いがいるの。その人の環境に興味を持ってそれで色々調べてるの。」
「へぇそうなんですね。その人はなにをされてる方なんですか?」
「軍人だったわ」
「軍人なんですか。ズミシンの軍人と言えば、今年の古京山の戦いの英雄が女性で、凄い美しくて有名だとか」
「知らないわ」
しまった!つい思い出してしまった。去年、リーサとズミシンの交流会で見たことがあったので熱くなってしまった。
「そうなんでしたか、失礼しました。」
ナンパの基本は質問すること
自分の話は軽めにしないといけない
何を話すか、話題が一瞬思いつかなくなった。
「料理の本なんかもって、君は料理が好きなの?」
助かったことに女性側から声をかけてくれた。
「いや、これから勉強しようかと」
「いい心がけだ。未来の奥さんを楽にさせな」
フェノールを完全に失礼なやつと決めたのか向こうはこちらの年齢も知らずに雑な話し方をしている。
「そうですね。そうしたいです。友だちに料理の上手い奴がいて興味をもったんですよ。」
半分本当で半分は嘘である。興味はあるがこれからやるつもりはない。
「へぇ、君は学生か何か?それとも社会人?」
「学生です。リーサの高等部です。お姉さんは?」
リーサと言うだけで興味を持ってくれることご多いが、彼女はそういうことは無かった。
そんななびかない存在に興味が湧いた。
「私も学生だ。君よりは年は上だが」
大学生ということだろう
「確かに大人の空気がありますね」
「それより、ついてきなさい。君の本を戻しに行くよ」
「ありがとうございます。お礼とは言ってはなんですが、お茶でも奢らせてくれませんか?」
これははっきりとしたおさそいである。脈絡がない。もちろん、内容はお礼と言いながらフェノールにとってはご褒美でしかない。相手の女性ももうナンパということは気付いているだろう。
正直、手応えはない。女性の多くは話しているうちによく笑ったり、別れなくない空気だったり好意のある行動がある。
しかし、この女性にはない。じっとこちらを見て言った。
「いいよ。」
と、そう言った。
ふぅ
ナンパをして罪悪感を感じるときはある。だが、結果として相手も望み満足すればいいという万引き後の謝罪と、同じ理屈で自分を納得させてきた。
なので、相手がいやがる時は断れるような状況をできるだけ作る。フェア寄りのアンフェアでやらせてもらってます。
最初は女性と話すことが目的だったが、今ではその人の歴史や考えていることを知ることが楽しい。人に歴史ありとは、よく言ったものだ。
1人として同じ歴史はない。同じ人生なんてない。
そんなことを話すとあるナンパした女性が、じゃあ男の人をナンパしないの?と言ってきた。
それを言われると痛い。興味がないこともないが、女性の10分の1くらいの熱量しかない。というのが本音だが。
そんなことは言えないので、新しい出会いを探す際に、男性は警戒することが多いからナンパでは仲良くなりにくい。と、説明する。
本屋を出た後、喫茶店で話を聞いた。名前はフローラと言い年齢は1つ上ということが分かった。
フローラは身の上話をしてくた。多くの女性は話を聞いてくれるだけで喜ぶ。今までの女性と違いフローラはフェノールに対し結構質問をぶつけてきた。
今日はもう終わりだと言う時に、フローラはある告白をした。
「私、フェノールくんのこと知ってたよ。リーサの3ーBでしょ」
なんということか、知ってて付き合ってくれていたのか。
「私はあんまり学校に行かなかったけど、リーサの高等部を卒業してる。君がどんなやつか知りたくなったので話に乗った。君が悪人ではないことが分かった。そこで少年よ、今日のことは貸しだから、1つ近いうちに返してもらうよ」
そう言って、帰っていった。