第14話「猫とクラス長」
水しか飲んでないのに、食欲はない。説明もせず、有無を言わさず、まさに拉致のような形で『プリュス』に行ったゲントウは満身創痍だった。
これから、寮に戻る。本当は今日、寮の夕食を作る仕事はなかった。勝手にシバタが勘違いして7時までと言っていた。
本来はもっと帰るのが遅くなっていたと考えるとまだ、マシな方である。
ルーナは寮まで送ってくれると言ってくれたがお断りをした。1人で帰りたかったし。心の整理が必要だった。
ルーナは、ルーナさんは俺に興味を持って、友だちになりたいと言った。直接言われたのは恥ずかしかった。
それでも強引な態度から受け入れきれないところがある。心の奥では友だちが欲しいというか、自分を大切にしてくれる人はいたら嬉しいとは思っていた。でもそれは自分には相応しくないとも思う。
俺のことをそんなに知らないはずなのに、いい人だと思われている気がする。それに加えやり方が好ましくはなかった。
ルーナさんはいい人だという判断に懐疑的になっていた俺は、関わりを減らすためにどうにか自分の印象を悪くしようと考えていた。
今はどう接したらいいか意見が混雑している。それでも友だちになりたいと言われたのは嬉しかった。
あーもはっきり言われると、言葉を疑うことなくて、自分の思考が卑屈にならなくて済む。
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寮に行く前に、すぐ近くの料理場によって行った。目の前には6匹の猫がじゃれあっていた。
ゲントウが近くを通ると6匹ともゲントウに飛びつく。ゲントウ入り口に座り1匹ずつ相手をして撫でてあげる。
ゲントウは猫に相手をしてあげてると思っているが、ライナに言わせると猫がゲントウに構ってあげてるらしい。
にゃ〜 にゃ〜ぷす
にゃ〜
にゃ〜
にゃ〜
にゃ〜
にゃ〜
うーむ。どいつもこいつも可愛い。最近のバタバタを全て忘れられる。
手をぺろぺろ舐める猫。その猫の下でひっくり返って寝てる猫。足がつってるかのように片足だけ伸ばしている。
猫をゲントウの頭の上に乗せるとプルプル震えていたので下ろしてあげる。
目の前にいる猫に「おて」と言って自分の右手を差し出すと、体全体乗せてきた。さすがに不安定なので両手で持ってあげる。
そんなことをしていると、調理場の横から別の7匹目の猫が歩いてきた。可愛いな〜とみていると後ろから人間の女の子が行進のようについてきていた。
猫の後ろを歩いていた手下の女の子はゲントウを見ると、一瞬止まり気まずそうに辺りを見渡していた。そして猫まみれのゲントウに近づく。
「ごめんなさい。か、勝手に入ってきちゃって、可愛くて猫をいつの間にか猫をおい、追いかけたらここに来ちゃって、あの〜、この猫達はゲントウさんの猫ですか?本当にここに来るつもりはなくて、ごめんなさい。」
何やら必死だ。
「いや、俺の猫じゃなく調理場からの食べ物を目的に集まる徘徊野良猫だよ。」
「あ、そうなんですね。ごめんなさい。」
「謝ることじゃないよ。」
「そうですよね。ごめんなさい。あ、今のは勝手に言っちゃって、すみません。」
「まあ、いいよ。」
「すみません。ありがとうございます。それでは、、私はこれでし、失礼、、します。」
「あ、ちょっと待って」
「は、はい!」
「ちょっとそこに居て、すぐ戻る。」
「はいぃ。分かりました。」
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「ちょっと座って」
「はい。」
「はいこれ。」
「これは?」
「制服に猫の毛がいっぱい付いてるから、このブラシで取るね」
「あ、ありがとうございます。」
結構、猫と密着して遊んでいたのか背中まで付いていた。
「背中に付いてるけど、どんな遊び方してんの?」
ゲントウが制服に付いた毛をブラシを動かして取る。
「自分でも分かんないです。」
「へぇ、不思議だね。」
ゲントウが、女の子の袖を持ち、腕についたものを肩からすーっとブラシで撫でていると
「あの〜、とてもやって頂いてありがたいのですが、自分で、できますので、私がやってもいいですか?」
照れた顔で袖を見ている。
「あ、そうか。そうだね。でも、全部は届かないでしょ。大丈夫?」
「はい。あと、これ貸して頂けるならもうちょっと猫と遊んでいいですか?」
「いいけど、さすがに7匹を相手にすると結構量が多いと思うよ。」
「はい。ですので、ちょっと制服を着替えてきます。」
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「これでもうちょっと遊べます。」
「いいけど、時間が大丈夫なの?親が心配するよ」
「遅くまで図書館で勉強してたと言えばいいので」
「それなら猫の毛目立つよ。全部は取り切れないから」
「そうなんですか、でも、制服がもう大丈夫なんで何とかなります。」
「そう…。」
「はい…。」
「あのさ〜、失礼だと思うんだけど、名前聞いてもいい?あんまり人の名前覚えてなくて同じクラスだったことあるでしょ」
「同じクラスだったというか、3年間一緒ですよ。それにクラス長として何回も話したことあります。」
「そうだよね。知ってはいるんだけどただ名前を覚えるのは苦手で」
「そうだったんですね。私はラケナリアと言います。」
「ラケナリアさんね。ちょっと言いにくいね。他になんて呼ばれてるの?」
「ラケナリアが多いですけど、たまにリアリーと呼ばれたりします。」
「そうかリアリーね。よろしくラケナリアさん。」
「呼ばないんですね。」
「図書館にはよく行くの?」
「はい。ほとんど放課後います。」
「えー。俺は見たことないよ。」
「私はゲントウさん見たことありますよ。よく女の子といらっしいますよね。」
「それより、毎日偉いね。いつもこんな時間まで?」
「はい。でも、今日は色々会って帰りたくなかったんです。」
「あらあら」
「わたし、今凄いダメで。」
「へぇ」
「母に叱られて、嫌われたんです。」
「へぇ、大変だー」
「あの〜何があったか聞かないですか?」
「へぇ、大変だねー。」
「⋯⋯。」
「何があったの?」
「気になりますか?」
「気になるねーと言ったら嘘になるね」
「そうですよね。人は自分のことで精一杯ですよね。自分の容量までしか優しくできないんですよね。」
「…なんか暗くない?」
「ゲントウさんほどでは無いですよ。今はそうでも無いですが、今日廊下でぶつかった時とか怖かったですよ。」
「それは俺もよく分からない」
「ふふっ。ゲントウさんって思ったより話しやすいですね。」
「そんなことは言われたことない。」
「ゲントウさんって寮に住んでて1人で辛くないですか?」
「別に辛くはないが」
「親に会いたいとよく思いますか?一緒に住みたいと思いますか?」
「まあ、」
「きっとお母さんは私の事が嫌いで、私がいない方が楽だと思います。」
「俺はそうは思わないが」
「それはゲントウさんの親が優しいからそう思うですよ。」
「そうなのかな」
「私は頭が悪くて、よく学力のことで母に言われるんです。」
「ほう」
「毎日家に帰っても夜遅くまで勉強して、私なりには一生懸命母のために勉強してきたんです。言うことも応えようとしました。」
「母のために?」
「はい。それでも、もともと才能がないので…」
「リーサ学園に入ってるだけですごいとは思うけど」
「いえ、それではダメなんです。」
「ありゃま」
「⋯⋯あの〜自分語りにはなるんですけど、私の話を聞いて貰ってもいいですか?」
「先に言っておく。俺はきっと何も助けにならないと思う。」
ラケナリアは、はああ〜と深く息を吸い、言った。
「それでも構いません。」
子どものように小さく見える彼女は、力弱くポツリ、ポツリと呟くように語り始めた。