第13話「アカハ」
(アカハ)―――
ルーナとは中等部で知り合った。顔がタイプだったから私から話しかけてみた。
リーサの生徒は国中から人が集まるので、知り合いがいない状態で入る人も多い。入学最初の命題は友だちを作ることにある。
クラスの多くの生徒がぎこちない挨拶のもと友情を作る1歩を歩んでいた。ただ、ルーナは誰かに積極的に話すことはなく、話しかける人にも冷たくあしらっているようにも見えた。
ルーナは聡明な高嶺の花独特の話しかけづらさがあった。確かに素っ気ない態度に感じる時もある。
美人だから他の女子からも興味を持たれていたが、その素っ気なさから積極的に話しかける人は減っていった。私は大きな拒否をされてる感覚はなかったので、しつこく話しかけていた。
ルーナは自分をほとんど表現しないから私はその内側にあるルーナの内面を知りたかった。いつか見たかった。
私と出会う2年前にルーナはとても優しい兄を亡くしていたのだと、後で聞かされた。それから両親の仲が悪くなりずっと孤独と闘いながら学校に行っていたので、余裕がなかったらしい。
そんなことを知らない私との普段の会話は私が今日あったことを一方的に話して、ルーナのへぇ、そう、という落ち着いた相槌をする形だった。
そして話し終わって、「どう?面白くない?」とか言うと、私の目を見て少し不思議そうな目でこくりと頷く。
決して盛り上がっている訳でもないが、嫌そうな雰囲気がなかった。
学校では新しいルーナが見れないと思ったので遊びに誘おうと思った。が、断られたら本当は私といるのが嫌なんじゃないかとなる気がして勇気がでず、その日緊張して話しかけることも出来なかった。
それでも次の日、会ってすぐ馬鹿なふりをして「今日、一緒にご飯を食べに行かない?」と誘った。
ルーナは一瞬驚いた顔して「アカハさんと一緒に行きたいです!」っと笑いかけた。
ルーナの初めての笑顔を見た瞬間だった。この笑顔のためになんでもできるくらい気持ちが高ぶった。整った顔立ちという魅力があったが、ルーナの笑顔は100倍ルーナを魅力的にした。
「くぅぅぅぅ!可愛いすぎる。はぁはぁ、、今日私が、、、はぁはぁ、、、全部お金出すから好きなもの食べなさい!!わたしの負けだーい!」
―――
その日に行った喫茶店『プリュス』はそれからよく行くお店になった。
ルーナはその日までずっと話しかけてくれたことを嬉しかったと感謝してくれた。友だちがいなかったので、嬉しいことどう表現したらいいか分からずに、申し訳なかったらしい。
ルーナもいつか遊びに一緒に行きたかったが、アカハに断られるのが怖いと言っていた。前日、話しかけられなくて、嫌われたと思ったらしい。
その日から、少しづつルーナは表情が豊かになっていった。結構、子どもっぽいとこもあり、1度、頭に血が上ったら止まらない性格だと言うこともわかった。
中等部1年の終わりには私以外とも話をできるほど明るくなった。ルーナとは悩み事も話せるようになった。いつも味方でいてくれた。私も1番の味方でいた。
私に彼氏が出来た。とてもかっこよかったが実は彼氏が本当に好きだったのはルーナだと分かった時には、ルーナはそれはそれは怒っていた。ルーナと付き合いたくて私と付き合ったと分かった時は酷く落ち込んだが、珍しくルーナが烈火のごとく怒り、最低元カレをけちょんけちょんにしていたので少し気持ちはおさまった。
私のためにルーナが怒ってくれたのが嬉しかった。「あいつにいつか毒でも入れるからアカハはあんなやつのことは忘れなさい」と冗談みたいなことを言ってくれた。
高等部に入るとルーナの容姿に磨きがかかり当然男子からもモテるようになった。しかし、ルーナに恋人ができたことはない。未だにアプローチをかける男どもは多いが彼女を射止める人はいない。気になる人すら聞いたことがない。全員完全敗北だ。優越感。優越感。ハッハッハ
今まで男の影もなかったルーナがある日ゲントウくんについて話をした時は、びっくりした。それでもルーナは私といることだけが心地よくて、男に興味が無いのかもしれないという気持ちもあったので歓迎できた。
ただの世間話の中での1人かと思ったら、ちょっと興味を持ってるっぽいので、あのルーナが関心を示した人間のオス第1号のゲントウくんがどんな人が気になった。
ちょっと会ってみたが結構暗い雰囲気がある地味な人だった。ルーナと釣り合うような人には見えなかった。もちろん、本人たちの気持ちが1番大切なのは分かっている。というかお互いが恋人不要みたいな雰囲気があり、期待した展開になることは想像しずらい。
ゲントウくんのルックスは磨けばとても良くなるのと私は感じた。あまり笑わない人だなとも思った。そんなゲントウくんをルーナは何故か心配そうな目で見ている、そうな風に私に映った。
そんなゲントウくんと今日会うことになった。ここ数日でそんなに仲良くなっているとは知らず驚いた。今日、私はゲントウくんと付き合うことになった、とそんな急展開も予想した。
そして2人で『プリュス』に入店し私で軽く挨拶をしてそのまま、静かーに座った。
ルーナとゲントウが隣り合うように座り、私の正面で向かい合っている。
「⋯⋯。」
誰も話さない。
何かこれから始まる、それだけはわかった。
そこでゲントウくんが私とルーナを見て
「あの〜」
ゴクリ、私はただ事ではない雰囲気を感じる。ゲントウくんは緊張している。
「俺はなんでここに呼ばれたんですか?」
!!
「ゲントウくんも知らんかったんかい!」
ゲントウくんはビクッとして
「あー、はい。」と困惑していることをアカハに訴える。
「ルーナ…。」
「あ、えーとねアカハ。この人はこの前話したゲントウくんで、悪い人じゃないから。」
「そうじゃなくて、なんでゲントウくんを呼んだの?せ・つ・め・い!」
「えーとね、こんなこと、改めて言うことでは無いと思って入るんだけど、」
「うん」
「私、、」
「うん、」
「私、ゲントウくんに興味があって、これから仲良くなりたくて!それでアカハに紹介して、そしてゲントウくんと友だちになって欲しいの。」
「え!!」ゲントウくんが1番驚いている。
「それって、やっぱりルーナはゲントウくんと、、」
付き合うことに?
「そう。友だちになったんだ。」
え?
はえ?
友だち?
「ねぇ、ゲントウくん。ルーナとは友だちの関係なの?」
これまた、腑に落ちないというような顔でゲントウくんはいる。
「いやぁ、どうでしょうね。」
「ルーナ。ゲントウくんはこう言ってるけど、本当のこと言ってる?別に隠さなくてもいいわ」
「ゲントウくんがどう思おうと私が勝手思うだけならいいでしょ」
え!
ということはルーナの方がゲントウくんを異性として好きだけど、ゲントウくんはそこまで思ってないということ?
でも、ルーナは友だちとしてゲントウくんを紹介した。ん?わざわざ友だちが出来てそれを紹介なんてしないよね?つまりそれ以上をルーナは求めていると
よくわからぬ。
「ちょっと待って。1回最初からはなして。」
――――――――――――
「なるほど。つまり、ルーナは普通に友だちとしてゲントウくんを紹介して、ゲントウくんが友だちの定義が分からずに悩んでこうなったのね。てっきり2人が恋人になったのかと。」
「なんでそうなるのよアカハ」
「普通は友だちできたことを報告なんてしないのよ。そりゃそういう事だと思うわよ。」
「え?普通言わないの?」
ルーナが少し恥ずかしそうにしている。美味。
「こんな大風呂敷広げては言わないよ。ゲントウくんもややこしくしないでね」
「はーい。」
俺は悪くないし、という気持ちが伝わった。
「じゃあ、結局2人は恋人とかじゃなく、普通に友だちなのね?」
「まあ、多分。」
はぁ〜。フゥ〜。
「でも興味があるのよね?ルーナ」
「えっと、、まあ、うん。」
「それはどういう意味で?」
「うん。本人の前で言うのは恥ずかしいけれど、あんまり自分を出さない人は私気になるのよ」
それはあなたもじゃない!
「それでもなんで?そんなの他にもいるわよ」
「まあ、ぶっちゃけゲントウくんは周りに誰か必要だから私が一緒にいようかと」
「やっぱりそれって好きなんじゃないの?」
「えぇ、、、そうなのかな?」
「あの〜俺は別に今の生活に満足してるけど」
「そんなことないよ、ゲントウくん!」
「あるって!」
「まあいいわ。じゃあゲントウくん。…改めてルーナと私と友だちになってもらうわ」
「なんで2人とも上からなんですか?」
ゲントウくんは笑いながらはそう言った。
「ゲントウくん、返事は?」
「お断りします。」
「却下します。ルーナを、悲しませる気?」
「そういう訳では、、なんか俺は荷が重いというか。じゃあ、友だちの定義は何ですか?」
「うーん。分かんないけど。プライベートな空間で一緒にご飯食べたら確実なんじゃない?言う意味ではあなたはもうおしまいね。」
「では、私はこれで失礼します。楽しい食事を」
ルーナがゲントウくんの道を塞ぐ。アカハにとってはここまでとは、と意外な行動に見えた。
「ゲントウくん。一緒に食べましょう?」
「ゲントウくん。こんな可愛いルーナからお誘いを断るのかい?」
「なんで、、そんなに。別に心から嫌という訳では無いのですが。⋯⋯まあ、いいですよ。」
立ち上がっていたゲントウくんが座り直す
「私も心から友だちになりたいと言ってないわ。」
「それは俺でも傷つく。」
3人の笑い声がテーブルを慎ましくいっぱいにする。
そして、ふざけあった上辺トークはこれにて終了。楽しい食事開始。