第10話「不可逆的な償い」
私はゲントウくんが怖かったのだ。
彼はどんなに酷いことをしても、心が乱れている様子がなく落ちつているように見えた。
困った顔をしたり、嫌そうな顔をしているがどこか余裕に見えた。
私は彼に謝罪をしに行った。
人間に戻りたかった。
フェノールくんに会って私は心が弱くなったと思っていた。
私は昔から心は弱かったことを思い出した。
何一つ成し遂げたことはなく
自分のためだけに生きてきた。
酒に溺れた父も、共依存することで生きてきた母も嫌いだった。
そんな酷く嫌悪していた相手に私もなったのだ。
私はどうしたら許してもらえるか分からなかった。
到底許されるとものでないと思っていた。
私が一生背負っていく罪なのだと。
私の罪は世間的には軽いものだろう。
たかがそんなもので、、も言う人もいるかもしれない。
私は私自身を裏切ったことに強い罪悪感が芽生えた。
私は謝って楽になりたかったのだろう。
なんて醜い人間だ。
早く終わらせたかった。
ゲントウくんはとてもいい人だった。
出会った中でもトップクラスの
私が部屋に上がるなり私は鍵を閉めたが
彼はそのまま家の鍵を開けた。
その時は意味はわからなかった。
帰る時に全てわかった。
気遣いだったのだと
その後で部屋に入るなりベットに座った。
入り口から近い方に私を座らせた。
たまたまかもしれないが今なら分かる。
どんな状況でも同じことをするだろうと
私はそんな彼を見下し、馬鹿にしていたのだと。
先に謝ったのは彼だった。
彼はなんの恨みもなかったみたいだ。
私はたまらなく恥ずかしくなりこの場からいなくなりたかった。
私もとても大きな決意を固めて来たのだが、彼は淡々とその決意を否定した。
彼は素直の人にも見えたし、まったく本心が見えないようにも見えた。
それくらい淡々としていた。
私は許された。
しかし楽にはならなかった。
楽になって欲しいと言われて私は辛くなった。
それこそが今回私の罰だと思った。
それすらも彼は心配していた。
自殺を考えそうになったが、それは求められているのとは違うと踏みとどまった。
許されるために幸せになろうという罰はどうやってもクリア出来ない気がした。
幸せになるために幸せに近づくとそれはどうも空虚なものを感じる。
その空虚こそが私の罰だと嬉しくなった。
――――――――――――
「色々ありがとうなライナ」
「私もゲントウくんの力になれて嬉しいよ。ただ念を押すようだけどアベリアちゃんの過去のこととかは誰にも言っちゃダメだからね」
「うん。約束は守る」
アベリアちゃんとライナは同じ寮であって、そこそこ仲がいいそうだ。
アベリアちゃんが寮に移動してきた時に寮母にアベリアちゃんのことを伝えられたのだという。
是非力になって欲しいと。
ライナから聞いた情報としては
・寮に高等部の途中でいきなり移動してきた
・アベリアちゃんは男嫌い
・親からの支援はなく自分でお金を稼いでいるのだと
・寮母はアベリアちゃんの母の姉だということ
・おそらくライナは寮母さんに信頼されているらしい
「私が言うのはお門違いだと思うけど、できればアベリアちゃんのことを怒らないで欲しい。やって行けないことをしているのはわかっているけど」
「元々僕は怒ってない」
「そうなの?それはそれで良くないと思うけど。最初にちょっとも怒らなかったの?」
「いや、瞬間的に怒ったかもしれないが何か大きなものがそれを踏み潰した。」
「ある意味でゲントウくんは怒れないのかもね」
「そうだなぁ。どうしようもないなこればっかりわ。」
「こんなことがあったなんて私知らなくて、できればもっと早く私に話して欲しかったんだけど」
「わざわざ言うことでもないかと」
「言うことだよ!」
拗ねてるのかな。可愛いもんじゃい!
「でも、今回思ったのが1人で行動するには限界があるということは思った」
ライナがじっと見てくる。
目がくりくりして可愛い。
このまま見つめ合っていたい。
「そうね。終わったあとに聞くだけなんて私は辛いわ」
「それと同じようなことフェノールにも言われた」
「へぇー、フェノールくんってゲントウくんのこと大切にしてるんだね。」
「そうだな。もっと頼った方がいいのかもね」
人に頼るのはまだまだハードルは高いが
「それより、なんでわざわざアベリアちゃんに料理を作らせたの?」
「それは言った通りで僕の勘違いだった。」
「そうじゃなくて、フェノールくんは料理が上手な人好きなんだよって伝えれば良かったんじゃない?休みの日を使ってまでしなくても」
「アベリアちゃんは男嫌いだから、僕の言うことなんか聞かないと思って。それに自分がやりたくてやってるってならないと辛いだろうし、僕の助言で動くのは癪だろう。この場合だと敵対する人がいると熱意に繋がる。僕がグラタンを作ってそれに負けないように頑張るはずだ、と。まあ、今回は無意味だったけど」
「ゲントウくん、、、お願いがあるのだけれど」
「うん。なんでも聞こう」
「自分が嫌われるような行動はできるだけしないように生きて欲しいです。」
「あぁ、うん。」
「ゲントウくんが誤解されるのは私にとって、とても悲しくなるから」
「うん。」
――――――――――――
アベリアは言った。
人のものを奪ったたら、それ以上のもので返さなければならない、と。
相手が許したとしても、償いは生じるのだ、と。
相手が許してくれなかったらどうなるのだ?
俺は人のことを許す資格すらない人間だ。
リーサ学園に来て偉そうに生きてきた。
他人の全てを奪った人間として。
リーサ学園に来た目的を改めて確認する。
そう
私は、過去に人を殺した罪を償うために、リーサ学園に入学したのだと
これからもこの許されない罪を償うためだけに生きていかなければならないと