序章
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ゆめのあと
■賢者の石に並ぶ、伝説の宝石。
架空のものとも言われている。
雲間晴れ
うつつのはざま
夢花火
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ちょうど腰掛けるにいいほどに大きさがある赤いかさのキノコに座り、まちびとは今かと不機嫌そうな男がひとり煙草をふかしている。黒髪黒目だ。
肩が見える赤いドレス、頭にティアラをした姪に「おじさま」と呼ばれて顔をそちらに向けた。
「ああ、似合うな」
「おじさまの横に似合うように考えたドレスなの」
燕尾になっているそのドレスの後腰には、くびれを強調させるようなリボンがある。
それを披露してご機嫌なお嬢さんは名前をメイトといい、黒髪黒目だ。
待ち合わせの場所は魔法の森の入り口で、メイトは馬車を用意していると言った。
「としはいくつになった?」
「十四よ。おじさまは?」
「二十八だ。ジェイミーはいないのか?」
「どちらの?」
「お前の妹のジェイミーだ」
「今、熱をだしているの」
「風邪のたぐいか?」
「木登りをしている時に、背中の妖精の羽根を少し傷つけてしまったの」
「ああ・・・かわいそうに」
「羽根のようすがよくなったら、おじさまを含めてお茶会をしたいって」
「なるほど、いいだろう」
「コバヤシ?」
そこにいたのはカモノハシアヒルの精霊ギフト君。
時々ペンギンに間違われる愛らしい姿をしています。
どうやら黒づくめの男に、コバヤシ、という人物の面影を見たようでした。
ケビンが立ち上がって歩み寄り、ひざまずいてギフト君と握手をした。
「話には聞いていた。小さい頃に祖父が君の絵を描いてくれたんだ。ラッキリーとダンスリーナを食べたから、ちょんまげがはえてきたとも聞いている」
「そんな感じです」
「そうか、本題に入ろう。俺の名前はケビン」
「メイトと申します」
「僕は、ギフト」
ギフト君は魔法の森の精霊で、ケビンとメイトは魔法の森に管理人として住んでいたコバヤシという男の子孫。
ゆめのあと、という王族を守るためにある幻の宝石が発見されたらしい。
隠された王族が石に選ばれた。
ギフト君は「ゆめのあと」をケビンたちと管理することになった。
裏社会のオークションに「ゆめのあと」が出品され、宝石魔女が所有していることが分かった。
「ゆめのあと」は王族に仕える石。
それはたいがい知れている。
宝石魔女は知らんふりをして所有しているのだ。
即刻、取り戻されなくてはならない。
秘密裏にだ。
「ゆめのあと」を欲しがる者は少なからずいる。
今回の「ゆめのあと」は、隠された王族を守る。
その石をギフト君とケビンたちが回収し、管理する。
話を合わせると、そういうことだった。
「ギフト君、どんぐりを拾ったのだけど、いただいでもいいかしら?」
「いいよ~」
「おじさま、ポケット貸して下さる?一個はわたしので、もう一個はジェイミーに」
「よかのことよ」
魔法の森に続く来客用の虹の橋を渡るには、悠長にはしていられない。
時間がたつと道が消えてしまうからだ。
馬の名前はカチグオネル。
馬車内では、愛らしいギフト君をふたりがほほずりしたり愛でている。
落ち着きを取り戻した車内、まんざらでもなさそうに溜息をはくと、ギフト君は深く席に腰かけてうずまき飴をなめた。
「それ、魔法の杖の代わりになりそう」
「僕の魔法の杖は、スイカ柄のうちわ二枚です」
「リョウトウなの?珍しい」
ケビンは黒いコートの胸ポケットから魔法書を取り出した。
読みやすい大きさに変えて、メイトがページをめくると、「宝石魔女」についてだった。
「ほう、宝石魔女もリョウトウらしい」
「気を付けないと」
「そうだな」
ペガサス馬車が駆けてゆく端から、虹の橋はおぼろに消えていった。