プロローグ
『――今日をもって貴様を我が国から追放する。勇者の盟友の資格もはく奪だ。立ち去るが良い』
『まったく、今日はいつも以上に酷い目にあったぜ』
『グレイ。恨むのなら、お前の力不足を恨むんだな!』
――私は、非力だ。
重い足取りで街路を歩き、奥の正門へと目指す。もう二度と、この街路をこの足で踏む事が出来なくなると思うと、心が押しつぶされそうになる。
それは即ち、棲む場所も、帰る場所も、食べる場所も無くなると同意儀の事だったからだ。
私の名はグレイ。世界では珍しい『魔獣喰者』の天職を持った女の子だ。
魔獣喰者とは、その名の通り死亡した魔獣、及び死にかけの魔獣を自身の身体に吸収することで、そいつの持つ固有スキルを使用できるようになるといった物だ。
基本は男がなる天職ではあるのだが、私のように女性が選ばれるというのは、これまでに例のない事であるらしく、国は私という存在を非常に重宝した。
訓練を受け、勇者の盟友の一人として選ばれて、共に魔王を倒す旅に向かっていた。道中に出会った魔獣を吸収し尽くした事によって、今後も勇者を支える完璧な人物となる――筈だった。
私の身体は、限界を迎えた。
その時の事は、殆ど覚えていない。アイツらが言う事には、眼を赤く光らせ、敵味方構わず攻撃をはじめ、パーティーを壊滅にまで追いやってしまったらしい。
――そりゃ、追い出されるよね。
曰く『魔獣の怨念に、身体が耐えられなくなった』らしい。沢山の魔獣を喰ってきた弊害なのだろうか。力を使っていないときは、特に問題はなかったから、気づく事が出来なかったのだろう。
「……聞こえる。あぁ――!」
私を睨み小言を挟む忌々しい人間、そして脳裏に刻まれる魔獣の唸り声。
黙れ、黙れよ――何で一々口を挟んでくるんだよ。
「おいやべぇ、暴走するぞ! 逃げろ逃げろ!」
「ッッーー! だっまれって言ってんのが聞こえんのか!」
手を出す寸前だった。ギリギリ意識が踏みとどまり、振りかざそうとしていた腕を急停止させる。
スキル【魔獣爪】。腕を魔獣の如く異質な腕へと変化させ、力を増強させるスキル。これも魔獣喰者によって得た力の産物だ。
目の前の人間が、怪物を見るかのような眼でこちらを見ながら尻餅をついている。あぁ、そうか。お前は私が怪物に見えるのか。
近くにいた近衛兵も、こちらに槍を向けて警戒する。意識はある以上、迷惑をかけるわけにもいかない。本当ならすぐにでも殺してやりたい気持ちだが、この数相手にはさすがの私でもキツい。
大人しく従い、私は遂に王国の門外へと足を踏みいれた。
***
あれから何年がたったんだろう。もう数える事すらつまらなくなってしまった。
『街が嫌いなのは分かりますけど、このままこうしていたって何も変わりませんよ?』
「……煩い」
私の脳裏に住まう忌々しい声が、私を奮い立たせようと何度も叫び散らす。いい加減にしてくれ、さすがに耳が壊れる。
ん? この声の主は誰かって?
それは、そこら辺で拾った『女神』だよ。
色んな作品の中からこの作品を読んでいただきありがとうございます。
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