表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

第9話 アルンティル王国の独特の制度と覚悟

「こちらの西の建物に入っていただく前に説明しました通り、建物ごとに住まう方々の身分が違います。そして、ここからが我が国独特の制度なのですが、側室様方は子どもをお産みになっても、それによって地位が上がるという事はありません。生まれてすぐに取り上げられ、南に入れられてしまうので、誰の子かわからないからです。王妃様の子も、男の子であれば同じです」

 生れてすぐに赤ちゃんを取られちゃうの? そんな……。


「南の子どもたちの中で、能力の高い子が次期国王としての教育を受けることになります。必ずしも王妃様の子どもとは限らないので、母親が分からないようにしているのです。誰も自分の子かもしれない子どもを、暗殺しようとは思わないでしょう?」

 なるほど、理にはかなっている。かなってはいるけど、それって幼少期に母親の愛情を知らずに育つってことだよね。

 私も、王女という身分だから乳母に育てられたけど、王妃であるお母様からも愛情をたっぷりもらった。


「北は側室様とお子様方の使用人の建物ですから、説明は省きます。そして中央にある王宮は、表は政治の場でございます。普段はわたくしも、そこで女官として働いております。そして、奥は国王陛下とその王妃様の住まうところになっております。セシリア様が王宮入りをされるという事は、そういう事でございます」


 ……クライヴの説明の意味が分からない。そういう事って、どういう事? 頭の良さが認められて、女官にした方が良いと判断されたという事……かな?

 それならそれで、頑張りがいがあるわ。

 私がそう思って、フンスッとしていると、クライヴから呆れた目で見られてしまった。

「セシリア様はフレデリック様のご正室、王妃様になられるのですよ」


 ……………………はい?


「王宮に入るには、それぞれの立場に合った能力が求められます。そして、王宮の表で公務をしている国王陛下、武官、外交官、一部の文官以外は一度王宮に入ると原則的に生涯外に出ることはかないません。ですから、王宮に入ることが決まったら、身分に関係なく覚悟を聞かれます」

「覚悟?」

「はい。その生涯を、国に捧げ。一生この王宮内で暮らすという覚悟です。もちろん、拒否権はあります。その場合、使用人でしたら、北の建物に移ってもらいます。臣下と多くの使用人は代々仕えている者や元王族が大半を占めておりますので、拒否する者もおりませんが」


 まぁ、そうだよね。そんなものか……。

「今、セシリア様に仕えている侍女二人も王宮からの派遣ですので、そのままセシリア様付きの侍女となります」

「それは、心強いわ」

 私は少し安心した。だって、また一から関係を築いていくのも疲れるから。


「明日、王宮からの迎えの者たちと共に来る立会人から、王宮に入る意志の有無を問われます。ご正室になられる方は、お輿入れが決まっているので、形だけですが……」

「あの……」

「はい」

「過去にお断りした方がいらしたの?」

 そう私が聞いた途端、お部屋の空気が固まった。まずかったかしら……やっぱり。


「おりませんが、お断りしたいのですか?」

 クライヴの口調がかたくなっている。

「違うの。そうじゃ無くて、もし断った方がいらっしゃったのなら、その方はどうされたのかな? って、純粋な好奇心で……」

 私は焦って言う。なんか本当に、ダメな質問だったみたい。

 クライヴから思いっきりため息を吐かれてしまった。


「いいですか? セシリア様。そのような質問は、思いついても口に出してはいけません。王宮の中は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が住まう世界なのです。表向きは、みんな忠誠を誓っておりますが、心の中では何を考えているのかわからない人達ばかりです。少しの油断でも命の危険があると心得てください」

 なんだか、魔界にでも連れて行かれるような、勢いだわ。


「先ほどの質問ですが。前例が無い事ですし、国同士の関係でも違ってくるので一概には言えませんが。セシリア様の場合でしたら、東の建物に移って頂く事になると思います」

「側室になるのね」

「そうです。ただ、国王が代替わりしたばかりで、今はどなたもいらっしゃいません。前国王の側室はご実家の国に帰られたか、残った方々も城下町にお屋敷を用意させて頂きましたから」

「そうなんだ」

 なるほど、側室の方々はお役目が終わったら、解放されるんだ。


「さぁ、もうよろしいですか?」

「ええ、ありがとう」

「いいえ。では、わたくしはこれで失礼致します」

 クライヴは退出しようとして、フッと思いついたように振り返る。

 何か、言い忘れた事でも? と思っていると。


「わたくしは、セシリア様に王宮入りをして欲しいと思いますわ」

 にこやかにそう言うと、クライヴは今度こそ本当に退出してしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ