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第58話 サンルームでのクリストフと私

 今、私は王宮の奥、王族の居住区にあるサンルームにいる。

 フレデリックは、約束通り私が独りになれる時間を作ってくれた。

 人払いをしているとはいえ、廊下の先の方では厳重な警戒態勢が引かれている。

 私が気にならない、ギリギリのところまで護衛も下げてくれていた。


 今日は日差しがやわらかい。

 サンルームの扉を開けなくても大丈夫なくらいの暖かさだわ。

 目の前には、紅茶とクッキー。外をふとした感じて見てみれば、王宮専属の庭師が丹精込めて育てている花々を楽しむことが出来る。

 手には今流行りのロマンス小説。セルマお勧めの小説(ほん)なのですって。 



「それで、何の罠なんだ? これは」

 クリストフは椅子に座りながら訊いてくる。

 目の前にいきなり表れた。ピクトリアンの純血種が使う結界は本当に厄介だわ。

 あいかわらず、クリストフはかおり草のにおいを纏っていた。


 私は紅茶を入れ「どうぞ」と言って彼の前に差し出しす。

 当然ながら、口はつけないけれど。

「罠だなんて、人聞きが悪いわ。わたくしの我がままなの、王妃になる前に独りの時間が欲しくて……」

「ふ~ん」

 さして興味もない風に、クリストフは相づちを打った。


「クリストフの拠点って、アダモフ公国だったんだ」

「ああ。もう無理だけどな。あれは潰されるだろう? あんたの旦那に」

 どうだろう? でも、国ぐるみでかおり草を流していたとなると、フレデリックでなくても目をつむれないと思うけど。

「庇いようが無いわ。かおり草の件は、こっちも随分被害が出たのよ。あのまま放置していたら、王宮にまで中毒者が続出するところだもの」

「本当、君がいなければ今頃そうなってただろうな。そこに戦争を仕掛ければ、たとえ軍事大国だろうとアッという間だったろうに」

「そうねぇ。未だにアダモフ公国とのつながりのある上位貴族もいる事だし」

 つい同意しちゃった。


「だから急いだんだろ? あんたとの縁談を。そうじゃ無かったら、子どもを嫁になんて言わないだろう。そういう趣味ならまだしも」

「貴方って、本当に失礼よね」

 私はプイっとそっぽを向いた。そして、少しうつむく。

「良いのよ、別に。政略婚なんだから、フレデリックにどんな思惑があっても。だけど、この前の、国王の事好きなのかという事は、貴方勝手に結論付けていたけど……」

「ん? ああ」

 私の突然の話題変換にクリストフは戸惑っている。

 でも、もうこれで最後だもの、政治の話よりも言いたいことがある。


「私はフレデリックの事、好きよ。貴方の言う通り利用されているだけだとしても、それでもかまわないと思う程には好きだわ」


 かおり草と他の薬草のにおいが数種類。

 サンルームの中に、少しづつ漂ってきていた。

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