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第48話 クリストフ・ピクトリアンとの邂逅

「よう。自室謹慎なんかしてないじゃない。って言うか、国王命令違反の罰が自室謹慎って何? 大甘も過ぎるんじゃない?」

 ……クリストフ。なんで、ここに。


 ここは国王と王妃及び王太子殿下の居住区で、臣下はもとより宰相ですら入れない場所。

 警備も厳重にしている。こんな場所に軽々入って来れるなんて。


「セシリア様。後ろへ」

 アンとセルマが私の前に立つ。

「無駄だと思うけど? 盾になっても」

 クリストフは二人に手をかざそうとした。

「やめて! お願いだから」

 私の声に、クリストフは動作を止めたけど。二人とも膝から崩れるように倒れてしまった。

 私は慌てて二人の傍にしゃがみ込む。


「殺したりしてないって、眠らせただけだよ」

 クリストフは呆れたように言ってくるけど、二人が息をしているのを確認して私はホッとした。

「信用無いなぁ。それとも、ある意味信用しているのか? 僕の前でそんなに無防備にしているなんて」

「何の御用?」

 クリストフの呆れたような物言いに、私はムッとして訊いた。

「ピクトリアンから、また変なものを貰ってきたなと思ってさ。前回、あれでリオンヌが動けなくなったんだよね」

 そう言いながら、クリストフは私の方に近づいて来る。

 かおり草のにおいを燻らせながら、次第にそのにおいは濃厚になって行った。


「厄介だね。中途半端に血が混じっていたら、両方の薬草に反応してしまうのだから。おかげで僕は君の傍にいるのが一番安全なのだけどね」

 危険だと思うのに、さっきから頭の中から警戒信号がガンガン出ているのに。

「ここ、換気も出来ていないよね。お姫さん、座り込んでいたら立てなくなるんじゃない? ああ、もう立てないか……」

 クスクス笑いながらクリストフは私の傍まで来ていた。

 悔しいけど、クリストフの言った通り私は立てなくなっている。頑張っても力が入らない。


 クリストフは私の前にしゃがんで、私に目線を合わせてきた。

「君さぁ、あの王様の事、好きなの?」

 真剣な顔で訊いてきた。

「ピクトリアンの血が混じっていても、純血種じゃ無いって事は、正真正銘まだ子どもだよね。見た目通りの。ああ、自分の意志とは関係無いか。王女様だものね。お国の為にここにいるだけか」

 そう言って、クリストフは嫌な感じの笑い方をした。

「フレデリック、だっけ? 幼いのに大変だな。あんなのの相手させられて」

「フレデリックを侮辱しないで!」

「ふ~ん? 呼び捨てなんだ」

 クリストフから、嘲笑された。挑発されているのは、分かるけど。


「まぁ、ね。君くらいの年頃なら、騙すのもたやすいだろうさ。大人の誘導でいくらでも好きだと思わせることが出来る。好きになってもらった方が、利用しやすいだろうからね」

 さっきから、私が不安に思っていた事をズバズバ言い当てられている。

 分かっているのに、挑発だって。でも、分かっていても感情が付いていかない。


「言われなくても分かっているわよ。王族の婚姻に愛情なんて無い。利用価値があるから、婚姻相手に選ばれた。それくらい、貴方に言われなくても知ってたわ」

 これがフレデリックだったら、ううんクライヴやアルベール達大人だったら、安い挑発と切り捨てていたのかもしれないけど。

 私は泣きながら、そう叫んでしまっていた。

 思っていても、普段なら絶対に言わない。泣く事も無かった。

 だけどなんだか今は、感情の制御が出来ていない。これもかおり草の所為なの?


「おっと、早いな。もう来たか」

 クリストフがサッと身を引き、逃げるのが見える。

 近衛騎士が数人がかりで捕まえようとして失敗しているのがみえた。


 私は気が付いたら、フレデリックの腕の中にいたのだけれども。

「セシリア。それでも俺は、そなたの事が愛しいと想っているのだが……」

 私の涙を、やわらかい布で拭きながら言ってくれる。

「信じてもらえぬかも、知れないがな」

 そう言って、未だ泣いている私をフレデリックは抱き上げてくれた。

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