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第35話 クリストフとリオンヌ ピクトリアンの王族の名前

 教会を出てから、フレデリックは何を考えているのかわからない表情をして無言で歩き出した。とは言っても、歩幅は私に合わせてくれているし、手も繋いでいる。


 少し歩いたら、殺気のこもったような、何か変な気配がした。

 私は怖くてフレデリックの腕にしがみ付いてしまった。


「フレッド」

 とっさに偽名を言えたのは、褒めて欲しい。

 ん? という感じで私を見て、その視線の先を追ったようだ。暗い路地に白い影。

 フレデリックは、私を連れてその方向に向かっている。


「お前か、俺の城を荒らしているのは」

 そう言うフレデリックに少年は肩をすくめてみせた。

「何のことやら。それにしても、国王陛下が何で婚約者とこんなところでデートしてるんだよ」

 不敬なんてものじゃない。何て態度で……。

 だけど、フレデリックは意にも介していないようだ。


「名はなんという?」

「人に名前を訊く時は、自分から名乗れって習わなかったか?」

 そう言って嗤っている。そう、嘲笑だ。


「こんな事を仕掛けてくるくらいだからな。名前くらいは知っていると思っていたが……。フレデリックだ。フレデリック・アルンティル。それで、お前は?」

「クリストフ・ピクトリアン」

「ほう。ピクトリアンを名乗るという事は、王族なのだな」

「元王族、だがな」

「なぜ、我が国を執拗に狙う?」

 フレデリックが言うと、クリストフは心底呆れたような顔をする。


「君ね。人に訊く前に自分で少しは調べてみたら? それとも、リオンヌ・ピクトリアンは、記録資料にすら残らない、たわいもない名前だったか?」

「リオンヌ・ピクトリアン」

 珍しくフレデリックが動揺した。

「なんだ、思い当たることがあるんじゃないか」

 クリストフは、本当にバカにしたような言い方をしていた。

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