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第31話 不用心だね。シャルロットの娘

 これはもう、私の所為では無いと思う。

 フレデリックは、自分がいないところで危ないことをするなと言った。

 私も、言い付けを守る気でいたわ。だけど、そういう時に限って危ないことは向こうからやって来るのよね。


 私はフレデリックの個室の方の執務室に行くために廊下を歩いていた。

 なのにあの毒草のにおいが濃厚にする場所に行き合わせてしまっている。さっきまで廊下に立っていた近衛騎士たちの姿も見えない。


 人の気配が完全に途絶えた空間。昼間の王宮内ではありえない。

 廊下の端に見える少年。姿かたちから、オービニエ外務大臣の執務室にいた来客だろう。

 この間は、逆光で顔まで見えなかったけど、どこか幼い顔をしている。

 だから、私は少年だと判断したのだけれど。


 ふわっと、音も立てずこちらに来る。人間にこんな動きが出来るの?

 というか、ここは現実の空間なの? 王宮の廊下に見えるけど、もしかしたら……。


「不用心だね。シャルロットの娘」

 なんで、母の名を…………。

 少年から腕を掴まれそうになって、私はサッと身を引いた。

「ふ~ん。このかおり、平気になったんだ。さすがだねぇ。まぁ、目的は君じゃないし、見逃してあげるよ」

 すーっと、私から離れたかと思うと、そのままかき消すように消えてしまった。


 人の気配が戻る。廊下の壁には近衛騎士たちが立っていて、少し離れた広間の方の執務室からも大勢の人が詰めている様子が分かった。

 頑張っていたけど、やっぱりあの毒草は私の体には、きつい。


 あの服装、ピクトリアンの王族のものだ。道理で見たことがあるはず、母が持っていた姿絵の人達と同じ服装だもの。

 先ほどの能力も、ピクトリアンの純血種なら納得がいく。結界操作はお手の物だろうから。


 だけど、何でピクトリアンの純血種がこんなところにいるのだろう。



 どちらにしろ、フレデリックには報告しないといけない。

 その結果、どういう風な捉え方をされても、後から分かるよりはずっとマシだわ。

 そう思って、私は広間の奥にある個室の方……と言っても広いのだけど……の執務室に向かった。

 執務室に着いてすぐに人払いをお願いする。

 フレデリックは、すぐさま人払いをしてくれた。


「国王陛下。報告したいことがあります」

 少し……いえ、かなり緊張している。フレデリックと、名前を呼んでしまったら甘えたくなってしまうくらいに。

「なんだ? セシリア。改まって」

 フレデリックは軽い感じで言って、私の緊張をほぐそうとしてくれているけど。


「以前、取り逃がしてしまった侵入者と、今日廊下で会いました」

「廊下で?」

 フレデリックが怪訝そうな顔をする。もしそうだとしたら、近衛騎士が動き、自分にも報告が来るはずだと思っているのだろう。

「はい。ある種の結界を張っていたのだと思います。会っている間、廊下の形だけが残り、近衛騎士を含めたすべての人の気配が消えていました。そして、その者はわたくしの母の名を知っておりました」

「ほう?」

 以前、ビュッセル家の事を報告した時のような怖さは無い。優しい感じで私の言葉を待っていてくれる。


「不用心だね。シャルロットの娘。と言われました」

「セシリアは、会った事がないのだね」

「覚えている限りでは、ありません。毒草のにおいと共に消えたようにみえました」

「消えた?」

「ように見えただけです。実体はありました。結界の中であのにおいが充満していたのです。幻影を見せられたのか……」

 私はもう一つの可能性を知ってはいたけれど、フレデリックに言おうかどうか迷っていた。


「そうか……部屋を出たところから護衛を付けなければならないな。すぐ近くにいれば、その結界とやらに入れるのだろう?」

「それは……多分、そうだとは思いますが」

 フレデリックは、部屋の外に出るなとは言わない。私が充分に囮になると考えたのだと思う。

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