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第22話 診療所と同じ毒草のにおいがします

 フレデリックが城下町で言った通り、町の露店で買った髪飾りは安物だ。価格はともかく、偽物の宝石が付いた物を、王宮では着けることが出来ないのよね。

 でも、私には大切な宝物だから、そっと宝石箱にしまった。


 私はまた侍女のアンとのんびり王宮内を散策する日々に戻った。

 すると、どこからか城下町の診療所に漂っていた、あの独特のにおいがしてくる。

 そちらに意識をやると、フッと消えてしまった。


 なんだろう? 周りの人達は平然としている。

 私は後ろに控えているアンに訊いてみた。

「ねぇ、今、何かのにおいがしなかった?」

「え? いいえ。何かにおいますか? セシリア様」

 アンは気付かなかったのかな?


「そこの……あなた」

 廊下で警護の為に立っていた近衛騎士の方に向かう。

「はっ」

 私が声を掛けると、近衛騎士は礼を執った。

「今、一瞬、何かのかおりがしなかった?」

 近衛騎士から、怪訝そうな顔をされたけど

「いえ。私は気付きませんでした」

 と答えてくれた。


 これは、私の気の所為なのか、もしくは私にだけしか感じ取れない程の(かす)かなにおいなのか。

 ピクトリアンの純血種には負けるけど、私もにおいや気配には敏感な方だ。

 普通の人間には嗅ぎ取れないにおい、人の気配はすぐにわかる。


 私は、先ほどのやり取りの後ものんびりと王宮内を散策してまわった。他でも同じにおいがするところがあるかどうか……。

 

 その内、フレデリックの執務室までたどり着いた。

 フレデリックの執務室は二か所ある。

 一つは一般的な国王が使う簡単な会議まで出来るお部屋になっているところ。

 もう一つは、扉が無く、柱と壁で区切っていて文官から宰相まで自由に行き来できるようにしている……なんていうのかな? オープンスペースになっているところ。

 どちらの執務室も、今まで私が行くのを避けていた場所だった。


 私がたどり着いたのは、そのオープンスペースの執務室。

 少し入ったところで、あのにおいがしているのに気が付いた。

 

 宰相の横、誰だろう、後姿で誰だかよく分からない。

 立ち姿と気配の感じだと、謁見の時に紹介された大臣のように思う。

 だけど、フレデリック以外の男性に気軽に近づいて良いものか……。

 私の後ろを見ると、アンが執務室の入り口の柱の所で控えていた。私と一緒でも、ここには入れないのね。


「おお。姫、私の仕事ぶりを見に来てくれたか」

 フレデリックが、目ざとく私を見付けてくれた。

 周りに見せつけるように、かなり大げさに両手を広げ歓迎してくれている。

「陛下。お忙しいところ申し訳ございません」

 礼を執りながら謝罪の言葉を言う。

「よいよい。今はそれほど忙しくないからな」

 にこにこして、私のそばにやって来る。臣下たちに、仲の良さをアピールしているのだと思う。そうすれば、連れ立って動いていても不振に思う人もいなくなるだろうから。


 フレデリックと一緒なら良いかな? 私はスルッとフレデリックに張り付いた。

 

「なんだ? さみしくなったか?」

 そう言って、さりげなく抱っこしてくれるので、私は頭に張り付くようにして耳打ちした。

「宰相の隣の方、先日の診療所の患者がいる部屋で漂っていた、においがしています」


「おお、そうか。そんなにさみしかったか。ちょっと部屋まで戻ろうな」

 フレデリックは、にこやかにそう言って私を抱っこしたまま歩き出した。

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