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第11話 変わっていなくて良かった

 驚きすぎて、叫んだのに声が出ていないなんて事、本当にあるんだ。


 朝、やわらかな日差しに包まれて目を覚ましてみたら、男の人の顔が目の前にあった。

 もちろん、そんな経験初めてで、私は驚きすぎて飛びのいてしまっていた。

 私が勢いよく飛びのいたせいで目が覚めたらしく、フレデリックは緩慢な動きで上半身を起こした。

 ベッドの端にいた私を見ると、ふんわりと笑う。


「おはよう」

「お……おはようございます」

 かろうじて声を出すことが出来た。お互い声が少し掠れているのは、寝起きの所為だと思う。

「セシリアは、朝が早いな。いつもこんな風に飛び起きるのか?」

 あくびをしながら、私に訊いてくる。

「こんな状態。誰だって驚きますわ」

 こんな状態……そう、朝起きたら初対面同然の男性と同じベッドで寝ていましたなんて、誰だって驚くに決まっている。

 なのに、フレデリックはのんきに「ん?」なんて言っている。


「そうか? 抱き寄せたら、気持ち良さそうにすり寄って来たぞ?」

 顔から火が出るかと思った。私の顔、真っ赤になってる。……鏡が無いからわからないけど。

「良いではないか。夫婦になるのだし。だいたい、婚礼の儀まで会えぬというのもおかしな話だと思わないか?」

「思います」

 私も、常々おかしいと感じていたので、即答してしまった。


 そうなのだ、王族貴族の婚姻なんてほとんどが、政略的なものだ。

 特に王族は、他国と縁を結ぶことが多いので、婚礼の儀が初対面でしたなんて事も珍しくないと思う。

 だから私も、仕方が無い事として受け入れようとしてたのに。

「だよな。本当にそなたとは意見がよく合う」

 いつの間にか、私のそばに寄って来たフレデリックに頭を撫でられる。

 完全に子ども扱いされている。15歳も年が離れていたら、私なんて子どもにしか見えないのかも知れないけど。


「でも、さすがについていけません、同衾なんて……。フレデリックは慣れていらっしゃるのかもしれませんけど」

 だって恥ずかしい。こんな薄着の寝間着姿で男の人と同じベッドにいるなんて。

「なんだ? 浮気などしてないぞ。だいたい昼間はお互いうるさいのがくっついているからな。既成事実でも作ってしまえば、いつでも会えるだろう?」

 なんだか、とんでもないことを言っている。既成事実って何?


「このままだったら、半年以上会えなくなるところだったんだぞ」

「そうなんですか?」

 ぶすくれたように言うフレデリックに、私は思わず訊き返していた。

「前国王……父上たちの時も、王妃が王宮入りしてから1年も会えなかったらしいからな。しかも、国王と王妃の部屋は離れているから、廊下で偶然すれ違う事も出来ない」

 お部屋が離れているのは、私の国でも同じだったから違和感ないけど……。


「婚姻を結んでからも、子どもが数人出来たらほとんど会わなかったらしいからな。最後まで、他人行儀だったぞ。あの夫婦は……」

「それは……いやかも」

「だろう? やっぱりセシリアならそう言ってくれると思っていたんだ」

 政略的な婚姻をした王族としては、よくある事なのだろうけどフレデリック様も私と同じように感じている。だけど、どうして?


「フレデリック様は」

「フレデリックで良いと言ったろう? 公式の場ではないんだ」

 また、即座に『様』を打ち消して来たわ。


「フレデリック……は、どうして私ならと言えるのですか?」

「そなたは、小さかったからなぁ。覚えていないのも無理は無いのだが、あのお花畑で色々話をしているのだよ。10年近くまえだから、そなたは3歳か4歳くらいだったのだと思うけど、その時点ですでに俺と同じ考えを持っていたからな。頭が良いのは話していてすぐに分かった。ただ……」

「ただ?」

 訊き返すと、フレデリックは私を抱き寄せながら言ってきた。

「そういうところが、成長と共に変わってしまっていたら、どうしようかと思っていた」


 そして私の耳元で

「変わっていなくて良かった」

 そう、小さく聞こえた。

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