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ジジ・ラモローゾ  作者: 大橋むつお
19/37

019:『コイントスには失敗したけど』


ジジ・ラモローゾ:019


『コイントスには失敗したけど』  






 やっぱり閉まってた!




 帰って来るなり、元気に報告するお祖母ちゃん。


「ネットで調べればよかったのに」


「ううん、自分で足を運んで知る方がドラマチックでしょ……じゃ、お昼寝するね」


 そう言って、お婆ちゃんは自分の部屋に戻っていった。




 お祖母ちゃんは、図書館に行ってきたんだ。


 新型コロナウイルスの事があるから、たぶん休みだよって言ったんだけど「まあ、行ってみるわ」と出かけたんだ。


 半分は健康のための散歩を兼ねているから、いいんだけどね。


 なんだか、とっても無駄なことをやってるような気がする。




 手持ち無沙汰なので、お祖母ちゃんのDVDのコレクションを見る。DVDの半分はアニメだ。


 お祖母ちゃんは、歳の割にラノベやアニメが好きなんだ。ときどきアマゾンで買っている。


 どれにしようかなあ……。


『攻殻機動隊』はハードだし『エヴァンゲリオン』は劇場版で尺が長いし……『夏目友人帳』……絵が好みじゃない。『冴えない彼女の育てかた』……これは、ちょっとエッチ過ぎるって評判だし……『ウェイクアップガールズ』……『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』……『けいおん!』にしよっか。


 手を伸ばしたところで電話がかかってきた。固定電話の方。


 固定電話は、ちょっと怖いけど、電話にも出なくなったらおしまいって気がしてるから、エイヤ!って気持ちで受話器を取る。


「はい、屯倉です……はい……えと……はい……わたしが行きます」


 電話はパン屋さんから。


 図書館の帰りにパン屋さんに寄ったんだけど、お喋りしていて肝心の買ったばかりのパンを忘れてきたんだ。


 お祖母ちゃんはお昼寝したばかりだし、起こすのもかわいそう。


 自転車か歩くかで迷った。


「よし!」


 百円玉でコイントス!


「あれ?」


 高く上げ過ぎた百円玉は、受け止めた手の平を弾いて、地面に落ちてしまって行方不明になってしまった。


 ついてない。


 こういう時に自転車に乗ったら事故りそうなので、歩いて行く。


「「うわ!」」


 声が揃ってしまった!


 角を曲がったところで、自転車で帰ってきた小林さんとぶつかりそうになる。危ないところだ(;^_^A。


 自転車同士だったら完全にぶつかってたよ。


「お祖母ちゃんの忘れ物を取りに行くんです」


 正直に言うと、暖かく笑って「気を付けてね」と手を振ってくれる。


「行ってきまーす」


 元気に挨拶出来て良かったと思う。おかげで、気持ちよくパン屋さんまで行けた。




「はい、これが屯倉さんのです」




 パン屋のおばさんがにこやかに渡してくれる。


「すみません、ご迷惑かけました(-_-;)」


 神妙にお詫びを言うと、おばさんはハタハタと手を振る。


「迷惑だなんてとんでもない、うちも、早く気づいていれば追いかけられたんだけどね、あ、そうだ! ねえ、ちょっと!」


 奥の工房、キッチン? 厨房? 声をかけて、小さな紙袋に入ったのを「はい、どうぞ。試作品で作った胡桃パン」をくれる。


「あ、ありがとうございます! 胡桃パン大好きなんです!」


 我ながら正直な反応をしてしまう。


「じゃ、よかったら、そこのイートインで食べてくといいわよ」


「はい、ありがとうございます」


 椅子に腰かけてハムハムといただく。


 焼き立てなんで、湯気がホンワカと立って、パンと胡桃の香りがわたしの顔を包んでくれる。


「と、とっても美味しいです!」


 美味しすぎて、涙が滲んでくる。


「あ、あ、バカですね、パン食べて涙ぐんだりして」


「嬉しいわ、そんなに喜んでくれて。また、ご贔屓にしてね(^▽^)/」


「は、はい!」




 あんまりたくさん会話はできなかったけど、とても感動的だった。




 コイントスの失敗で百円損したけど、十分お釣りの出る外出だった。


 忘れ物したお祖母ちゃんに感謝。 


 


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