第一話 ③
このガジェット同士のバトル。
説明を環腕さんから受けたように公式な手順やルールはない。
ただ、戦いに使えるシステム自体は用意されている。
つまりそれを使い、各々考えていいレベルの下地はあるらしい。
ローカルではすでに東欧式、アメリカ式、オールドゲーム式などいくつかのルールはできているとも説明された。
いわく。
衝撃、および感触センサーに各部当たり判定センサーとしての役割が実装されている、らしい。
区切りは四肢上下で計8つ、胴体に胸部左右、腹部、下腹部、心臓部(バッテリー位置?)など5つ、そして最後に頭、背中と合計15の区分けが存在。
攻撃を受けたと判断されれば、それがアラートを出しマーカー消滅、すべて消えたら負け。
その数を最初に指定し、消しあいをしたり、急所という弱点をセッティングしてそこを見つけたら負け。
などなど。
ちなみにアメリカ式は心臓一か所の一発勝負。
オールドゲーム式はとにかく当たったらゲームオーバー方式らしい。
説明を受けた結果、紅矢たちが選択したのは5シグナルアウト。
15の中から双方好きに選択した5つを当たり判定としてセッティングし、全てを相手が探し当て消したら敗北というもの。
試合場は体育館。
バスケットのセンターサークル内を形式上の範囲として採用。
決戦の準備は完了した。
「そぉぉぉおおおうれでは!」
響く特大の大人の声。
「フリースタイルファイブシグナルアウト!バトゥル!!!以降は双方合意と準備完了とみなします!アーユーレディ!?」
(これ誰だよ環腕!?)
(うちの暇そうなのルール検索スタッフとして拾ったら審判したいって聞かなくて…)
(おまえんとこのかよ)
センターサークルを挟み向かい合う紅矢と環腕凜乃。
その横をすすっと通り、蓮がちょっと環腕凜乃に近寄って違和感を確認したところ、そういうことらしい。
公式審判だの、そんなのとは違うようである。
うわさを聞き付けた校内の観客が取り囲むように近寄らないのは…たぶん、彼が、ノリノリすぎて怖いから。
「クラッシュレッド・マルドゥーク!ブァーァァァァァサス!プリズムカット・ヘェル!メス!」
違和感はあれど、まあそこはそこ。
二人とも割と真剣に向き合う。
「ブァトルカウントレディ!!スリー!ツー!!ワン!!!」
「やるぞ紅蓮多」
『無論』
「ファイト!ゴー!!!!」
開始の合図。
が。
「?!」
開始の手が下りた瞬間。
紅矢はまず面食らった。
「消えた!?」
蓮がありえないそれを口にして初めて、それを認識したほどに。
『紅矢、接近しすぎている!指示を!』
紅蓮多だけは目で見ていないから認識していたが…。
『ぐぁ!?』
吹っ飛ぶ。
前方に。
押し出されるように急激に前方に。
「ヒットしない…背中にはマーカーしてないみたいですわね、でもこれでかんっぺき!」
輪腕凜乃、両足を開き、口元に手をかざして会心のキメポーズ。
「卑怯ななんかで隠れたわけじゃない…?」
「俺も最初思った」
蓮と明日雄、相手は卑劣と最初から決めてかかっていた物言い。
すこしひどい。
「しませんわ!屈服させる目的に最大の効果は負けそのものを本人にも納得させること!」
外野を睨みつけながら、大きく息を吸ってアピール!
練習したと思われるこのしぐさ!
見よ!いない時間の大半を実は費やした、この高笑いを!
「泣かして倒れさせて謝らせて!私のこと以外考えられない生き物に変えて差し上げますわ!ヲーッホッホッホッホッホッホッホッ!!!!!!!!」
「これは勝利宣言か!凜乃お嬢様、余裕のポジティブトークだー!」
「あ、あとそっちの無礼なおまけ二人も土下座ですわよ」
「「がんばれ紅矢!!!」」
二人の応援も、がぜん熱が入る。
「期待には応える!」
『かちますとも』
紅矢は一つも怯んでいない。
それは当然だ、相手の種が不明とはいえ、まだ0対0なのだから。
『ですが、私はマルドゥークタイプには天敵のようなものですよ?定石では勝てません』
相手のヘルメスが、スタート時点の紅蓮多がいただろう位置から呟く。
そしてまた。
「また消えた!」
『そう何度も!』
ガキイィィィィ!
歯車の鳴るような音とともにまた紅蓮多が吹っ飛ぶ。
「ヒィット…左手下腕いただきですわ」
今度は設定個所を貫いた。
蓮のアドバイスで設定した四肢の外側なら動かしているからそうそう狙えない作戦はこの状態だと無駄にしかなっていなかったようである。
恐ろしい。
わりと戦術が手練れレベルのことをやってきていると思わせる。
「ワンヒットーーー!!!今回はヒット個所の能力低下こそないが、これは大きなリードだぁ!!!」
慣れてきたのか、だんだん観客の歓声も出てき始める。
というか、体育館のスピーカー設備を使って大声を出しているのだ、人もそりゃ増える。
「名前なんて断じて全く覚えてませんけど、覇天椥 紅矢……く…くん?でしたっけ…?大好きっていえば今からでも許してあげなくも…その、なくって………なのよ?」
声がちょっと上ずっている。
言わずもがな。
突っ込んだら負けのこれをわりと大勢の前でやっただけで、全ての仕掛けは彼女にとって最高に意味があったのかもしれない。
「うん、大好きになりそうだよ」
「!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない悲鳴が環腕さんから発せられ。
のち。
「ありがとう、紅蓮多とペアになって戦うこのゲーム、今までの何より大好きになれる!」
「コ○してやろうか!!!!」
真っ赤になった環腕さんが完全に逆上。
「許してあげませんわ!!もう!もう!!!」
「紅蓮多!上に!!」
『応!』
そしてまた響く機械音。
つまり。
「これは……」
「避けたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!クラッシュレッドマルドゥーク!ヘルメスの攻撃をはじめて躱したああ!これは偶然なのかあ!?」
「…なんですって…」
熱気はさらに大きく体育館を包みつつあった。
4で1話は終了予定
環腕さんがいるのを理由に悪訳令嬢タグを入れていいのかどうか思案中・・・。